ダウンロード刑罰化成立

壇弁護士の事務室

今回は壇俊光さんのブログ『壇弁護士の事務室』からご寄稿いただきました。

ダウンロード刑罰化成立

平成21年改正で、最悪の改正となったダウンロード違法化であるが、当時の刑罰化はしないという話むなしく、今回刑事罰化法案が成立した。

既にITMEDIAに掲載されている部分*1 はあるが、条文が手に入ったので、さらに深い話をしてみたい。

*1:「違法ダウンロードに刑事罰・著作権法改正で何が変わるか 壇弁護士に聞く」2012年06月20日『ITmediaニュース』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1206/20/news015.html

今回の刑罰化は、内閣提出法案の衆議院の修正という形でなされている。
衆議院のページ

 著作権法の一部を改正する法律案に対する修正案
 著作権法の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。
 第百二条第九項第五号の改正規定の次に次のように加える。
 第百十九条第一項中「場合を含む」の下に「。第三項において同じ」を加え、同条に次の一項を加える。
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつている ものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。) の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべき ものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しく は二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

この刑罰は、(1)有償著作物等を、(2)著作権侵害であることを知りつつ、(3)デジタル方式の録音または録画をした場合に成立する。

そこで、(1)有償著作物とは何かが問題になるが、条文上「録音され、又は録画された著作物又は実演等(であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。」とされている。

この有償は、一般には対価性が認められば、足りるとされており、広告料収入を得るような場合も含まれることは争いないであろう。

次に、(2)知りつつであるが、どれぐらい確信的に知っているかは問題である。しかし、刑事の世界で故意とは非常に簡単に蓋然性の認識程度で認定されている。

次に、(3)録音、録画であるが、単なるテキストデータのダウンロードは大丈夫であろう。しかし、小説が動画ファイルになっている場合は、録画に含まれる可能性が高い。

例えば、ホームページを見ていて興味深いので、参考資料として、名前をつけて保存しようとしても、そのページに許諾を経ていない動画が含まれていればアウトになる。

という法律であるが、さらなる問題点がある。

1つは、プログレッシブダウンロードである。
プログレッシブダウンロードが何か解らない人は、これ。*2
これは、インターネットエクスプローラが、パソコンにデータをダウンロードして、Streamingのように見せるのであるが、実際はダウンロードである。

*2:「プログレッシブダウンロードによる動画配信」『北海道大学理学部地球惑星科学科』
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~mosir/tebiki/2007/realsystem/prog.html

Youtube等もプログレッシブダウンロード*3 である。

*3:「YouTubeの視聴は「ストリーミング」ではなく「ダウンロード」です」2007年09月27日『Gigazine』
http://gigazine.net/news/20070927_youtube_download_streaming/

このプログレッシブダウンロードは、いろいろな利点があるため、広く用いられている。

で、今回は、プログレッシブダウンロードが「録音・録画」に含まれるかが問題である。
この点、キャッシュであるから録音・録画に含まれないと言っている人もいるが、メモリ上の一時的な保持であればともかく、IEのテンポラリーファイルは一時的とは言い難いので、これを録音・録画に該当しないというのは困難であろう。
また、録音・録画は、ことさらに行われることまでは要しない。視聴の際に、ダウンロードする場合を除外していることは条文上窺われない。

ただ、唯一の希望として、ウェブの閲覧等の場合のテンポラリーについては、権利制限規定がある。これに該当したら適法で罪にはならない。

(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は 無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められ る限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。

この条文の解説は、こちら*4 ですでにしているので参照されたい。

*4:「改正著作権法の解説」2010年07月15日『壇弁護士の事務室』
http://danblog.cocolog-nifty.com/index/2010/07/post-8783.html

これは、複製の規定であるが、録音・録画も複製の一種なので、適用の可能性がある。
しかし、この規定は、「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。」という限定がある。

そして、「利用が著作権侵害をしない場合」についても、ややこしい。

文化庁の解釈(コピライト2010年1月号)では、47条の8は、視聴それ自体は、著作権侵害ではないので、著作権侵害でアップされた動画をブラウザ等で視聴する場合も含まれるとしている。

たしかに、著作権侵害のコンテンツがアップされている場合であっても、閲覧自体は違法ではないので、テンポラリーに複製可能という考えであれば、一般的には適法で、「当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる」場合でない場合や、必要な期間を超えて、放置していた場合の不作為犯のみ問題になるということになろう。

ただ、文化庁の公的解釈は、あまりアテにはならないのが実務家の感覚である。

プログレッシブダウンロードは、技術面から見ると、ローカルへのダウンロードとローカルファイルの動画の視聴なのであるから、単なるサーバのファイルの視聴行為と言えるかは大いに疑問である。また、条文解釈としても、違法な著作物の視聴は、送信者の公衆送信権侵害によって行われており、著作権を侵害しないと言えるのかはなぞである。

しかも、日本の裁判所は、人のロケーションフリーTVをハウジングすれば、公衆送信権侵害になると言った狂気の世界である。さらに、刑事裁判所は、URLを推測させるテキストデータをアップする行為と、児童ポルノをアップする行為を同視できると言った世界なのである。

検察が当罰性を主張すれば、よほどの無理筋でも認める刑事裁判所が、ダウンロードした者が、自分との関係だけで著作権侵害でなければ、他との関係でどれだけ著作権侵害であっても、利用が著作権を侵害しない場合と言うのかは、大いに疑問である。

2つめは 国外犯の問題である。

刑法施行法
第二十七条  左ニ記載シタル罪ハ刑法第三条ノ例ニ従フ

一  著作権法ニ掲ケタル罪
二  削除
三  移民保護法ニ掲ケタル罪

刑法
第三条  (国民の国外犯)
この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。

ということで、著作権に関する罪は、日本人が国外で犯しても適用がある。
そして、今回の改正は、「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべき ものを含む。」という規定が盛り込まれている。

つまり、海外で合法的に行われているダウンロードサービスを、日本人が、海外で利用した場合であっても、日本の法律に照らしてダウンロード刑罰化の対象となる行為であれば、犯罪者になるということである。

オランダやスイスのような私的ダウンロードを合法化した国に行っても、絶対に友達の誘いに乗ってはいけない。

世界的な潮流に逆行モード満タンである。

3つめは、警察の恣意的運用の可能性である。

著作権法は、京都の某お方を代表として、逮捕するがためのネタとして著作権法が使われてきたという恣意的運用の実績がある。
幇助も絡めるといっそう効果抜群である。別件逮捕のお伴にどうぞである。

また、ダウンロードは世界中で多数有り、すべてを立件することは出来ない。
すると、どうしてもお巡りさんの判断で立件が決まることになる。

著作権法の世界では、お巡りさんが、ガサを入れてから、著作権者に連絡をいれて、告訴状を求めるケースが珍しくない。

ある日、いきなり、家にお巡りさんが来て、パソコンを持っていって、23日間逮捕・拘留されて、その間、自分がインターネットで何を見たのかまでお巡りさんがいちいち調べる。Winny事件でもそうであったが、エロ画像なんてあると、お巡りさんは嬉々として捜査報告書に添付する。

「知りながら」の要件なんてのがあるが、これも、逮捕・勾留して、お巡りさんが、「こんなん認めたらすぐ釈放やんけ」なんて、23日間執拗に迫れば、一般の人は嘘でも自白調書に署名する。

今回、可決した法律は、こんな法律である。政党の取引材料に使って良い法律ではない。

平成21年著作権法改正では、フェアユースは必要ないという意見が多かった。しかし、今回の法改正を見る限り、フェアユースの必要性は明らかである。
再度検討し、フェアユース規定を創設するべきである。

そして、このような代表を選んだのは国民である。

次回の投票には、明確に意思を示すべきである。

執筆: この記事は壇俊光さんのブログ『壇弁護士の事務室』からご寄稿いただきました。

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