「どうしてあの子が手紙を受け取ってしまったの?」正月早々届いた謎の贈り物……ついにつながってしまった親友同士の恋路~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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「あなたらしくもない」夫に責められる妻の胸中

隠れ家にいたところを薫に不意打ちされ、そのままさらわれるように宇治へ連れて行かれた浮舟。一方、二条院では匂宮が、忽然と消えた彼女を探していました。

(大した身分ではなさそうだったが、何とも可憐でかわいらしい女だったなあ。もうちょっとのところだったのに……)。あれ以来、二条院から姿を消したことについては、中の君がヤキモチを焼いてどこかへやってしまったのだろうと思っています。

「あなたらしくもないね。こんな些細なことで目くじらを立てるなんて」。時折、夫にこう責められる中の君は辛い立場です。

(いっそ本当のことを伝えてしまおうか)とも思いますが、真実を伝えたら絶対に宇治へ行くに決まっている。何と言っても、気になった女房と思いを遂げるために、実家まで追いかけていくような性格なのです。

(あれから何日も経ったのに、しつこく思い出しているこの様子ではとても危険だわ。もし姉妹ともども……なんてことになったらお互いどれほど辛いだろう。他人の口に戸は立てられないけれど、せめて私から知れるのだけは避けたい)。

上手な嘘をつけない中の君は、こうしてひたすらダンマリを決め込むことで、なんとかやり過ごそうとします。しかし、その様子は傍から見ると、嫉妬して夫を恨む妻の行動にほかなりませんでした。人それぞれの事情、外から見てわからないことっていっぱいありますね。

「そのうちいつかは」悠長すぎる変わらない彼の功罪

さて、浮舟を手に入れた薫は、その後はいつも通りノンビリと構えていました。(一人きりで心細いだろうなあ、僕が来るのを待っているだろうなあ)とは思いつつも、官位が上がって軽々しい行動も出来ず、なにか口実がなくては宇治へも行きづらいのです。

急に京へ迎えると「誰だろう?」「いつからそんな関係が」などとうるさいことになるだろうから、しばらくは宇治に隠しておいて、用事を作ってゆっくり逢おう。彼女も自分に慣れてきてくれたら、そのうち呼び寄せて大事にしよう。どこか近所に家でも建てて……。

もとより悠長な性格に加え、ある程度の所へくるとそこで満足してしまい、先を急がない薫。大君との時もそうでした。加えて彼は“他人も自分と同じように感じている”と思い込むフシがありました。自分がこうなのだから、相手もきっとこうだろう、と。

そんな薫は浮舟を宇治にほったらかしにしつつ、二条院の中の君には絶えず心を寄せています。しかし、中の君が薫に直接応じることは次第にできなくなっていました。

中の君が二条院に来て数年。宇治時代を知らない女房も多い中で、親族でもなんでもない男性と、いつまでも親しくしている……というのは、京の上流社会ではよろしくないことなのだと、彼女自身が自覚し始めたのです。

帝位が巡ってくるかも知れない皇子の配偶者として、また彼の初めての男の子(若君)を産んだ母親として、中の君の立場は重々しいものになっていました。だからこそ、誤解を招き、あらぬ誹謗中傷をを受けるような行動は慎まなければなりません。

まして、夫の宮は薫との関係を疑いの目で見ており、ふたりの板挟みに疲れた中の君が、彼を遠ざけ始めるのはむしろ自然。しかし、その事に気づかない薫はずっと同じ調子なのです。わかれよ!

中の君も、薫の変わらぬ誠意には、心からの感謝をしています。多情な夫の行動に呆れるような時は(いっそお姉さまのお勧めに従って、薫の君と一緒になればよかった)と思うことも。

しかし運命は中の君を薫の妻とはしなかった。宮は「他にはこんな可愛い子が出来ないかも」と思う心から、中の君と若君を尊重し、かけがえのない家族として格別に愛していました。

治らぬ浮気グセに泣かされる日々もあるものの、中の君の暮らしは以前に比べるとずっと安定しています。それだけに、中の君が薫に距離を置くのは当然のことでした。

謎の筆跡にネガティブワード…正月早々疑問の手紙

年が改まり、若君は数えで2歳を迎えました。正月はじめの宴会ラッシュも終わった頃、宮が二条院でのんびり息子と遊んでいると、バタバタと女の子が走り込んできました。作りものの松を模した贈り物と、手紙を2通持っています。

「どこから?」と聞くと「宇治から、女房の大輔の君宛です。でもいつも奥様がご覧になるので、お目にかけようと思って」

彼女は「この籠は金を塗ってあるんですって! この松は偽物だけど、本物そっくりに作ってあります! ほら、枝も!」と、ニコニコ。宮も微笑んで「じゃあ、オレもじっくり見せてもらおうかな」

中の君以下、女房たちは気が気ではありません。「お手紙は大輔の君に」という妻の顔が少し赤くなっているのを見て、宮は(はは~ん、宇治といえば薫か。なるほど秘密のラブレターって所か)と、手紙を取り上げてしまいました。

まじで薫だったらどうしようと思いつつ「読むけど、怒るかな?」。でも、中の君は「変なことをなさいますね。女房同士の他愛のない手紙ですよ」と、動じず。「じゃあ見るよ。女同士でどんな事書いてるのかな」。

筆跡はとても若々しく、見慣れない字です。「ご無沙汰のまま、年も暮れてしまいました。山里は……」と書き出され、最後の方に「若君さまのために、不出来なものですが心を込めて作りました」。謎の筆跡に宮は首を傾げ、もう一つの文を開きます。

こちらはいかにも女房っぽい感じで「こちらは大変立派な住まいですが、やはり寂しく、姫さまは気が塞いでばかりです。時折そちらにお伺いするようおすすめするのですが、あの恐ろしい一件が響いて……」

お祝いの手紙だと言うのに、やたらネガティブな内容。当時は忌み言葉にも敏感でしたから、宮は違和感しかありません。「一体これは誰からだ。いい加減白状してくれ」

中の君は、以前に宇治の山荘に仕えていた女房とその娘だと答えますが(これも嘘ではありません)、繰り返し読み返すうち、カンのいい宮はある確信を得ます。

おそらく「恐ろしい一件」というのは、自分と過ごしたあの夕暮れ時のことだろう。とすれば、この見慣れぬ若い筆跡は、何か月も思い続けているあの娘のもの! そうと思うと気持ちが変わってきます。

宮は「返事を書きなよ。隠さなくてもいい手紙だろうに、ご機嫌斜めのようだから退散だ」と自室へ。中の君は女房たちに向かって「まずいことになったわ。どうしてあの子が手紙を受け取ってしまったの?」

「わかっていたら止めていましたわ。あの子は日頃から、そそっかしくて出しゃばりなんですよ」。手紙を受け取った女の子は、最近奉公しに来た子で、顔が可愛いので宮のお気に入りだったのです。

でも起こったことは仕方ない。「子供のしたことだもの、責めないであげて」と中の君はとりなします。が、正月早々、不安の拭えぬ出来事になりました。

「彼女かどうか確かめたい!」止まらない恋心がついに暴走

宮は自室で(薫があれ以来、宇治通いを止めず、時折泊まることもあると聞いて不思議に思っていたが、なるほどな。亡き人を偲んでそうするのかと思いきや、愛人を置いていたわけか)まあ、愛人が来たのは割と最近なんですが……。

そこで、大内記(漢籍に通じた文書などを制作する係)の道定(みちさだ)という男を呼びました。彼は薫の家司(執事)の娘と結婚していて、周辺事情に詳しい者です。

宮は最初、漢詩集などの相談をしながら徐々に本題へ。道定はつらつらと、薫が去年の秋頃から足繁く宇治へ行っていること、愛人を匿っているらしいこと、ずいぶん丁重に扱っているので「一体どんな幸運な女性が、訳あって寂しい山ぐらしをしているのだろう」と聞いたことなどを語りました。ビンゴ!

こうなると宮は、その薫の愛人が、自分があの夕暮れのひとときに抱きしめた女かどうか確かめたくてたまらない。もう、寝ても覚めてもそのことばかり考えています。

一方、道定は出世欲があり、宮に気に入られて後援を得ようという魂胆があったので、これを機に側近く寄っては、なんでもホイホイ承るようになります。

魚心あれば水心。宮はある時「なあ、オレのためにどんな大変なことでもやってくれるか?」と、宇治の薫の女は以前自分の彼女だったのだ、とでっちあげて、彼になんとか宇治へ案内するよう言いました。

道定は内心(面倒なことになった)と思いましたが、薫のスケジュール、道中にかかる時間などを進言。中の君のために宇治へ行った過去を思い出しつつ(我ながら軽率だが、でももう我慢できない!!)と、宇治に詳しいもの数人、そして乳兄弟の時方という男を選んで、薫の行きそうにない日についに決行します! 早い!

中の君との縁を取り持つため、尽力してくれた親友を裏切る……。宮は行動しながら自責の念に駆られつつ、走り出した恋心はもう止められません。のんびり屋の薫、火がついたらどこまでも追いかける匂宮。浮舟を巡るふたりの男の恋路は、こうしてつながってしまいます。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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