モチベーションとやる気を高める技術~行動心理学からわかった4つのテクニック

モチベーションとやる気を高める技術~行動心理学からわかった4つのテクニック

人間、いつでもやる気いっぱい、というわけにはいきません。どうしても仕事のやる気が出ない時は、誰にでもありますよね。状況にもよりますが、自分にちょっと気合いを入れたぐらいではなかなか浮上できないことも・・・。

ところで、そもそもモチベーションの低下はなぜ起きるのでしょうか?落ち込みを回避するためには、どんな考え方や行動を取れば良いのでしょうか?

そんな疑問に答えてくれたのは、世界中のモチベーションに関する研究を集めた『図解モチベーション大百科』の著者・池田貴将さん。世界中の行動心理学の学者が行ったモチベーションに関する実験に基づいた「やる気出ない」を克服するメソッドを教えていただきました。

プロフィール

池田貴将さんプロフィール画像池田貴将(いけだ・たかまさ)

株式会社オープンプラットフォーム代表取締役

早稲田大学卒業。行動心理学・リーダーシップの研究に基づいたセミナー、サービス、コンサルティング、出版などを手がける。著書は『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』『図解モチベーション大百科』(いずれもサンクチュアリ出版)など、累計55万部を突破。会員制度・オンラインサロン「図書館」を1200名以上に提供中。

「やる気出ないトラップ」にはまるのにはワケがある

世界中のモチベーションに関する文献を集め、さまざまな実験から導き出されたメソッドを、多くの人々に分かりやすく伝えている池田さん。「行動心理学では、『こういうパターンにハマると人はモチベーションが下がりやすい』ということが分かっています」と話します。そこで、仕事でモチベーションが下がりやすいいくつかのシーンについて、それぞれの原因と、「やる気出ないトラップ」に陥らないための方策を解説してもらいました。

シーン1 :「上司からの評価が想定以上に低くて立ち直れない……」

今ここで、学べることに意識を向けよう

「自分では頑張っているのに、思った以上に評価が低ければ落ち込みますよね。でも知って欲しいのは、同じ状況に直面してもモチベーションが上がる人もいることです」と池田さん。その理由は「マインドセット(物事の捉え方)」の違いにあります。

メンタルの「マインドセット」には2パターンある

「スタンフォード大学の心理学教授キャロル・ドゥエック氏によると、人のマインドセットには『成長型』『固定型』の2パターンがあります」(池田さん)。成長型マインドセットの人は「能力は常に伸ばせる」と考え、低評価もまっすぐ受け止めて成長することができます。逆境に強いとも言えます。一方、固定型マインドセットの人は「人の能力は変わらない」と考え、自分が高く評価されることに躍起になるため、一度の低評価でも大きな挫折を感じてしまうのです。ちなみにマインドのパターンは生育の過程ではぐくまれ、成人の場合はほぼ個性として確定しているといいます。

「どう評価されるか」を気にするのではなく、「どんな学びが得られるか」に意識を向けよう

「『固定型』の人が落ち込んだ時は、一度『優秀に見られたい』マインドから抜け出し、『ここで何を学べるか?』『どんなスキルを高められるか?』に目を向けましょう」(池田さん)。脳は何歳になっても成長することが科学的に証明されており、誰でも能力は伸ばせると強調します。また、うまくいかない理由として自分自身を責めるのもダメ。「手順が違っていただけ」「コミュニケーション不足だっただけ」と考え、自分自身ではなくこれからの学習へと意識をフォーカスすることが大事なのです。

シーン2 :「営業目標が達成できそうになくて落ち込む……」

その日に進んだことを数えるクセをつけよう!

「仕事は日々の積み重ねですが、特に営業は数字で結果を測ります。目標を達成できなくて落ち込む人には、実は、目標を立てるのが苦手な人が多いようです」(池田さん)。そこには、できなかった時に落ち込むのが嫌だという潜在的な気持ちが働いているのかもしれません。つまり、できなかったことにフォーカスしすぎて仕事のモチベーションが下がってしまうのです。これは「進捗の法則」と呼ばれる研究が明らかにしています。

どんな小さな進捗でもモチベーションを大きく上げる

「数千の業界人が綴った1万日分以上に渡る日誌をハーバード大学の研究者が分析し、『最高の1日』と『最悪の1日』を分ける要因を調べたところ、それは『進捗』だと分かりました。重要な仕事だけでなく、たとえば切れていた文房具を補充したりPCの調子が戻ったりするなどどんなに小さな進捗でもモチベーションを上げる要因になることが明らかになったんです」(池田さん)。逆にビジネスパーソンの意欲を最も大きく下げたのは、その日の予定が何らかの理由で妨げられて進まなかったことでした。

日々進んだことをカウントすれば、モチベーションの低下を抑えられる!

「営業職は目標達成できるかどうかが最後まで分からないので、『できていないこと』に目を向けだすと悪循環に陥ります。この研究が示すように、ごく小さなことでいいので『今日進んだこと』を毎日振り返る習慣をつけると、驚くほどモチベーション低下を防げるでしょう」と池田さん。たとえば1日5個と決め、仕事以外の家事や雑用もカウントして構わないそうです。ぜひ、今日からやってみませんか。

シーン3 :「合わない同僚と一緒に仕事をしていて疲れてしまう……」

仕事は1日の早めに、ゆとりを持ってセッティング!

「人はそれぞれタイプが違うので、学校にも職場にも、合わない人がいるのは当然。本来はそんな人との関係にこそ成長のヒントが隠れているものですが、毎度イライラしては疲れますよね」と池田さん。話が合わない同僚と仕事をする時は、メンタル的に余裕を持って取り組めるよう、セッティングを工夫することを勧めます。

「意志力のスタミナ」がある朝に仕事を済ませよう

「ミネソタ大学のある実験では、被験者グループを2つに分け、一方に『ペンの色』『好みのTシャツ』など多くの質問に答えて(選択して)もらった後に冷たい水に手を入れさせたところ、質問ナシでただ冷たい水に手を入れたグループよりも我慢できずに早く手を出してしまいました」(池田さん)。この実験が示すのは、意志力も使えば減ることです。「人は日々多くの選択を重ねるので、朝から時間が進むにつれて意志力も消耗してきます。つまり早い時間帯ほど、意志力のスタミナが残っているので感情がコントロールしやすい。合わない同僚との仕事は午前中に取り組むのがいいでしょう」。

時間に余裕があれば、相手に対して優しくなれる

「こんな実験もあります。プリンストン大学で、神学部の学生に大学構内を移動してもらい、講堂の前で苦しむ男性(演技)に遭遇しました。『時間の余裕がある』と言われたグループは63%が手を貸しましたが、『遅れているから急げ』と言われたグループは10%しか手を貸しませんでした」(池田さん)。この実験が示すのは、時間不足は人の優しさや信念も失わせること。ですから苦手な人と仕事をする時は、時間に余裕を持たせましょう。それだけでも、少し相手に優しくなれるはずです。

シーン4 :「目の前のことに意義が見いだせない。この仕事やる意味あるのかな……」

タスクの難易度を変えて「自分スイッチ」を入れよう!

「与えられた仕事に意欲を燃やせない、他のことばかりが気になってしまう。それはもしかすると、自分の能力とタスクの難易度が合っていないのが一因かもしれません」と池田さん。自分にとって難しすぎるタスクに不安を抱えている時や、逆に簡単すぎるタスクに退屈を感じていたりすると、人はモチベーションが下がりやすいといいます。

モチベーションを高めるのは「少し難しい挑戦」

「この状況を打破するには、心理学ミハイ・チクセントミハイが提唱した『フロー理論』がヒントになります」(池田さん)。「フロー」とは、人が何かに夢中になってノリにノッている状態のこと。フロー理論では、自分が持つ能力よりも「少し上」のレベルに挑戦する時に人は意欲が湧きやすく、時には自分でも思いもかけない力を発揮すると言われています。

一度スイッチが入れば集中できて能力も上がる

「能力を短期的に変えることはできませんが、自分でタスクの難易度を上げ下げする工夫はできるんです」と池田さん。たとえば、難しい企画書を書く時は「10分間アイデアを出そう」「30分間、過去の企画を集めてみよう」などタスクを小さく切り分けて、それぞれに没頭することで、不安を忘れて集中できます。逆に簡単なタスクでは、本来よりも締め切りを早めるなどして自分に負荷をかけると、挑戦のハードルを上げることができます。

「うまくフローに入れれば集中は持続できるもの。能力が上がり、取り組める仕事のレベルアップにも繋がるでしょう」(池田さん)

(まとめ)モチベーションを刺激する方法をストックしておこう!

「大事なのは、日常的にモチベーションが上がりやすい思考や行動を選択するようにすること。そうすれば、何か悪いことが起きても気持ちの落ち込みが少ないんです」と池田さんは力説します。「そのためには、自分のモチベーションを刺激する方法をたくさん持つといいですよ」とアドバイスします。

ここでご紹介したメソッドは 今いる場所で学べることに意識を集中する その日に進捗・達成できたことを数える 面倒な仕事は1日の早い時間に片づける 仕事の難易度を変えて、自分で「自分スイッチ」をONにする

の4つです。

この中から、ぜひあなたに合うものを探して、取り入れてみてください。 文/鈴木恵美子

撮影/刑部友康

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