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兄弟姉妹と花言葉の短編集〜古内一絵『アネモネの姉妹 リコリスの兄弟』

兄弟姉妹と花言葉の短編集〜古内一絵『アネモネの姉妹 リコリスの兄弟』

 本書の帯には「兄弟姉妹に一度でも仄暗い感情を抱いたことのあるあなたへ」とある。兄弟姉妹がいれば、「仄暗い」とまでいかないにしても一度たりとも衝突したことがないとは考えにくいし、逆にそうやって互いに成長していけるのが醍醐味ともいえる。ひとりっ子にはひとりっ子のよさがあるだろうし、世間でよく言われるように「きょうだいがいないとかわいそう」といったもの言いには意味がないと思うけれども、それでも兄弟姉妹がいなければ経験できない喜びあるいはつらさというものは確実に存在する。

 本書はもちろん兄弟姉妹についての物語であり、短編集ということで複数のバリエーションが読者に示されている。なんだかんだあったけど最終的には微笑ましいと思えるものから、今後この登場人物たちはどうなってしまうのかと心配になるようなものまで。

 私自身は弟を持つ2人姉弟で、自分の子どもたちは男子ばかりの3人兄弟。目次を見るときも、どうしても「姉弟」や「兄弟」を描いた作品に目が行ってしまった。そして、個人的に好きだったのも「ヒエンソウの兄弟」と「カリフォルニアポピーの義妹」。

 「ヒエンソウ」は、6年前に新卒で中堅出版社に入社し、昨年念願の文芸部に配属された桐生啓二が主人公。できる限り早く自分の担当作品を世に出したいと、直近の文学賞選考会に向けて応募作の下読みに励む毎日を送っている。啓二は三人兄妹の次男なのだが、主にクローズアップされるのは長男・祐一との関係性。成績優秀で一家の期待の星であった祐一とは昔からあまり気が合わず、母や妹の美郷が何かと兄をを立てるのもおもしろくなかった。祐一は現在家を出て自分探しの旅に出てしまっているのだが…。

 「カリフォルニアポピー」の主人公は、祖父が興した生花店「フローラル・テラ」の三代目社長である寺内雪美。昨年亡くなった父の遺言で、企画部長だった雪美が会社を受け継いだ。しかし、先代が亡くなったとたんに営業部長・谷岡が態度を変えた。自分こそが会社を支えているのだとばかりに、雪美が社長の座に就いていることへの不満があるのは明らか。寺内家には甘やかされて育ち現在はライトノベル作家をしている長男で雪美の弟・泉がいるが、会社経営に関してはまったく頼りにならない。そんな泉が、結婚を考えている女性を雪美と母に会わせたいと連絡してしてきて…。

 収録された短編に共通しているのは、「兄弟姉妹」が登場することと、彼らがツイッター上のウェブサービス「花言葉診断」を利用していたことだ。花言葉というものが存在すること自体をそもそも忘れかけていた無粋な身であるため、こんなに切実さに満ちていたり否定的だったりする内容のものもあるとは知らなかった(「愛」とか「希望」とか、そういった前向きなものばかりというイメージだった)。しかし、世の中は甘やかな言葉だけで成り立っているものではない。美しい花にもネガティブな花言葉が割り振られるのは、現実とは苦いものだと我々に示しているのかもしれない。それでも、花はいいものだ。人間から向けられた言葉であれば心を深くえぐるようなことでも、花言葉ならもっと冷静に自分を見つめ直すきっかけとなり得る気がする。

 鬱陶しかったり、でもいてくれてよかったと感じるときもあり、兄弟姉妹に対する感情にさまざまな思いが混じる人は多いだろう。弟との仲は良好ではあるけれども、私もそうだし、向こうもたぶんそうだろう。それでも、これからも替えの効かない家族として生きていくしかない。しかしながら、家族だからといって無条件に愛情を感じることができないという方もいらっしゃるに違いない。けれどもその方の心には、兄弟姉妹がいたことによって育まれた部分もまた確かに存在すると思う。兄(あるいは姉あるいは弟あるいは妹)がいたことによって、自分もまた成長できたところがある。その事実がせめて、少しでも救いになればいいと願わずにいられない。

(松井ゆかり)

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