「芥川賞」全作品を会社を辞めて読破! 初回受賞作は? ”あるある”は?

「芥川賞」全作品を会社を辞めて読破! 初回受賞作は? ”あるある”は?

 7月17日、第161回芥川賞・直木賞の選考会が都内で開かれ、今村夏子さん(39)の『むらさきのスカートの女』が芥川賞を受賞しました。年に2回、半年ごとに発表される芥川賞は直木賞とともに多くのメディアで取り上げられ、書店にも受賞作品がずらりと並びます。それだけに作品名や作家を知っている人も多いはずですが、さすがに過去180作品すべてを読んだという人はほとんどいないでしょう。

 本書『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)では、著者の菊池良が全作品を読破したうえで、あらすじや時代背景などが簡潔にまとめており、芥川賞の何たるかを知ることができます。

 そもそも芥川賞とは、1935年に芥川龍之介の名を記念して文藝春秋社の社長・菊池寛が中短編の純文学の新人賞として創設。受賞者には、元都知事の石原慎太郎をはじめ、ミステリー作家として名高い松本清張やノーベル文学賞受賞作家の大江健三郎などそうそうたる名が連ねます。ひょっとしたら、あなたが好きな作家も受賞者かもしれません。

 話題性でいえば2003年、綿矢りさが19歳で受賞したことで、丸山健二が持っていた23歳での最年少受賞記録が塗り替えられ、大きな話題になりました。さらに、西村賢太や羽田圭介などそのタレント性からテレビに出演する作家も多いことは多くが知るところでしょう。

 そんな歴史と伝統が息づく芥川賞の記念すべき初回受賞作は、石川達三の『蒼氓(そうぼう)』。舞台は1930年代の日本、国策としてブラジル移民が奨励されていた時代。ブラジル移住希望者が、神戸の「国立海外移民収容所」に滞在し、船が出るまでの8日間が描かれます。当時、貧しい農民にとっては、ブランジルに行けば豊かになれると信じていたのです。『蒼氓』は3部構成で、第2部「南海航路」、第3部「声無き民」から成ります。

 著者は「21世紀の読者には、作者名もタイトルもちょっとピンとこないかもしれない。しかし、当時これが評価されたということを、芥川賞は記録している。芥川賞の価値はそこにある。」と芥川賞を振り返る意義を力説します。

 本書では作品紹介とともに芥川賞にまつわるコラムも掲載。著者が受賞作の傾向を解説しています。例外も存在しますが、そこには共通点が存在するといいます。(1)「時代は現代もしくは近現代である」(2)「現実世界が舞台になっている」(3)「主人公は作者と同じ国籍、民族的アイデンティティを有している」の3つです。

 本書によると、アニメや漫画などで描かれることが多い主人公が別の世界に行ったり召喚されるような、いわゆる「異世界モノ」はナシ。また、その時代の享楽的な若者の姿を描いた「若者の享楽」系が、20〜30年の間隔で登場するとなどテーマ傾向も分析しています。

 約1年かけて受賞者169人分、180作品を読むために、会社を辞めた著者の渾身の力作は、読書家ならずとも一読の価値があるといえそうです。

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