実はこんなに! 知られざる日本のバリアフリー温泉旅行
皆さんは「バリアフリー」と聞いて、何を思い浮かべますか? 平らな廊下や入口のスロープといった設備、あるいは病院や介護施設などを想像する人も多いかもしれません。また、中には「白くて無機質で冷たい感じ」といった印象を抱いている人もいることでしょう。
「温泉や旅館におけるバリアフリーは、そのイメージをくつがえすような洗練されたものです」と語るのは、本書『さあ、バリアフリー温泉旅行に出かけよう!』の著者・山崎まゆみさんです。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、国交省では新築のホテルは、2019年9月から客室総数の1%のバリアフリー客室の整備を義務化するなど、ホテル・旅館のバリアフリー化は現在着々と進んでいます。そんな中、まだまだどんな基準で宿を選べばよいかや、現地での行動に不安を覚える本人や家族は多いことでしょう。そうした人々に向けて、全国のバリアフリー温泉を取材してきた温泉エッセイストの著者がそのノウハウを紹介しているのが本書です。
まずは、山崎さんが「これからバリアフリー温泉旅行に行ってみたい、高齢の家族を連れて行きたい」と思う人たちに伝えたい大事な心構えを本書からご紹介しましょう。それは、
①原動力は「行ってみたい」という気持ち
②行って楽しむためには、詳細な施設情報が必要
③旅館スタッフとの信頼関係で特別な旅となる
という3点。以上を念頭においたうえで、宿選びのポイントや必需品チェック、温泉入浴&入浴介助のやり方、おすすめの温泉&サービス、観光地のバリアフリー事情といった具体的な情報が紹介されていきます。
たとえば「バリアフリー温泉旅館のおもてなしのプロ」の一例として紹介されているのは、山梨県の河口湖温泉郷「富士レークホテル」。河口湖を一望できる貸し切り風呂にはリフト付きのお風呂があり、シャワーキャリーで浴場に入り、リフトに乗り換えれば簡単な動作でリフトに乗ったまま入浴できるのだとか。また、食事も「一口大」「刻み食」「ペースト食」などのバリエーションが用意されており、旅館で通常出される料理すべてに対応してくれるそう。
また、宿だけではなく、観光地にもバリアフリーの動きは広がっています。たとえば三重県の伊勢神宮では参拝専用の車いすを無料で貸し出ししたり、車いすに乗ったまま参拝したい人を手伝ってくれる「伊勢おもてなしヘルパー」というボランティア60名がいたり。バリアフリーの宿とこうした観光スポットを合わせるようにすれば、さらに充実した旅行を楽しめそうです。
高齢者や身体が不自由な人と旅行に行くというのは、大変な部分もたくさん出てくるのは想像に難くありません。けれど本書を読めば、漠然と温泉や旅をあきらめていた人々にも「これなら行けるかもしれない」という手がかりをきっともたらしてくれることでしょう。
それはひとえに、バリアフリー宿の取材を数多く重ね、そして、妹を亡くす前に温泉に連れて行ってあげられずに後悔したという経験を持つ著者だからこそできること。旅館や観光地の固有名詞が数多く出てきて非常に参考になるとともに、受け入れる側の旅館の主人や女将の言葉も大切にされており、書き手である著者の温かな視点が感じられます。この本自体が、「迷惑をかけてしまうかもしれないから」と遠慮を感じている人たちの温泉旅行に対するバリアをゆるめてくれる一冊となるのではないでしょうか。
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