『町田くんの世界』池松壮亮×石井裕也インタビュー とあるシーンで「勝負をかけることは決めていた」

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現在公開中の石井裕也監督最新作『町田くんの世界』は、現役高校生の超新人を主演に、前代未聞の豪華キャストが脇を固めまくるという、ある種これまでの日本映画でお目にかかれないような座組も話題の一作だった。

町田くんという「本当にこんな人いる?」(石井監督談)と誰もが思うだろう善の権化のような高校生と出会う人々が、彼のエネルギーに触発されて続々と価値観に変化をきたしていくヒューマンドラマで、石井監督自身、そして石井組の常連でもある池松壮亮も、ハッとする気づきがあったそうだ。映画『町田くんの世界』の魅力について、改めてふたりに聞く。

●本作は町田くんというキャラクターの魅力が光っていますが、どのように彼を受け止めましたか?

石井:そうですね。どう答えたらいいか難しい質問ですよね。やっぱり特殊なんですよ。特殊だと思ってしまいましたよね。自分がおじさんだからか、「本当にこんな人いる?」って思っちゃいました。でも、いる可能性はあるかもなってふとした拍子に思えた時に、すごく素敵に見えたというか、本当はみんな彼のように生きたい。でも、生きられないじゃないですか。それを何のてらいもなく、ごく当たり前に生活している町田くんに惹かれたんですよね。

●原作がありますが、その時の感想はいかがでしたか?

石井:面白かったです。ただ、もうおじさんですから、こういう機会でもなければ読まなかったと思います。読んでみたら、思わず感動した、という感じですね。

●池松さんは脚本の段階で物語を知ったそうですね。

池松:もうすぐ30代になるのですが、俳優には枠割があると思っていて、もう少女漫画に自分が入り込める余地がないなか、向こうも必要としておらず、こっちも通り過ぎてしまっている。自分の人生と関わりがないものだと思ってしまっているところに、飛び込めることは面白いと思いました。僕は場所をお借りしたような感覚で、開けた窓もあったと思います。

●池松さんが演じたキャラクターは、観ている人の多くが感情移入しそうですが、どのタイミングでキャラクターが決まりましたか?

石井:一番大きかったことはメガネでした。衣装合わせが撮影の2~3週間くらい前だったと思うのですが、その直前に吉高もメガネをかけようと。町田くんの対極的キャラクターになっていいのではないかと。町田くんは制服の白いシャツをいつも着ていて、吉高は黒い服。それが決まった瞬間に、吉高という人間の立ち位置が決まったかなと思いました。それ以外は突っ込んだ話はそうしていないという記憶ですが、それがわりと決定的なことでしたね。

池松:なるほどと思いました。大きかったですね。そこまで担わないといけないのかとも思いましたし、おじさんの入口なのかもしれないし、観客の入口なのかもしれない。町田くんと世界をつなぐ役割。僕が信じなければ町田くんはもっとキャラクターになっていたし、すごくこの映画において重要なストーリーテラーのひとりになってしまうなという感じでした。

●その吉高と町田くんが初めて会話するバスのシーンは見ものですよね。リズムもよくて、一気に引き込まれてしまいました。

石井:そうですね。あのシーンで勝負をかけることは決めていたので、細田君には「あそこで激突するよ」と事前に伝えて、ロケハンするときも、できれば何もないところ、もう壁だけでいいと。ほかの雑物は要らないので、ふたりがただ向き合えればいいだけだと。ふたりの俳優が勝負をするシーンだということをみんなに事前に伝えて、プレッシャーを与えて。

池松:あのようなシーンは、やってみないとわからないですからね。どこまで到達できるかはやってみないとわからないけれど、客観的に観た時に好きなシーンです。違う人生を歩んでいるふたりがバスで出会っただけであれだけ衝突出来て、しかも最終的に自分の問題で頭を抱えていて、ハタから見るとケンカをしている、誘拐しているようにも見えますが(笑)。

石井:あれは苦悩した者同士の激突なんですよね。一方はキャリアも実力もあり、もう一人は素人に近い新人。しかもお互いメガネ。とにかくわからないことをお互いから聞きたくてしょうがないというシーンで、好きなシーンです。

●今回の『町田くんの世界』の魅力、そして石井作品の魅力について教えてください。

池松:近いので難しいですね(笑)。でも恐れずに言うと、毎回一緒に何かを発表している気分になっているし、させてもらえる。おそらく僕だけじゃなく、みんなそうなのかなと思います。今回より広く、いろいろな間口がありますので、いろいろな人が入って行ける作品と思っています。

石井:かなり特殊なシチュエーションですよね。横で聴くって、なかなか人生においてないことじゃないかな。普段、たまに飲みに行ったりしますが、そういう確認作業って、こういう言葉ではしないので。

池松:なにより石井さんは、どんな題材でも、いつでも、どういうターゲットがいようと、人間賛歌を作ることをあきらめない人だと思います。

石井:ありがたいですね。映画については観ていただいた上で、それでもヘンだったと言われれば、全然受け入れられるというか、そもそもがヘンな世界を作りたかった。生きていて自分の高校生活や青春時代を振り返ると慄然としますが、すごく居心地が悪かったんです。本当にここにいていいのかなと。そういう気分を抱えながら生きていた記憶があります。それだけじゃないけれど、映画を観ていろいろ感じてもらえることはあると思います。

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(執筆者: ときたたかし) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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