映画化も決定! 韓国で女性たちの圧倒的共感を得た大ベストセラー小説
2016年に韓国で刊行されると100万部を超えるベストセラーとなり、社会現象まで巻き起こした『82年生まれ、キム・ジヨン』。この小説を読んだ多くの女性が「これはわたしの物語だ」との声をあげたといいます。さらに台湾、ベトナム、アメリカ、カナダなど世界各国で翻訳され、日本でも13万部を突破する売れ行きとなっている本書。国を超え、世の女性たちがこの小説に圧倒的共感を感じる理由はどこにあるのでしょうか?
本書はちょっと不思議な設定の小説といえるかもしれません。主人公は、3年前に結婚し、昨年女の子を出産したという33歳の女性、キム・ジヨン。ある日突然、彼女は自分の母親や友人の人格が憑依したかのようになってしまいます。そして、物語は彼女が受診した精神科の担当医が書いたカウンセリングの記録という体裁になっており、私たち読者は読み進めながら、キム・ジヨン自身の半生に憑依することになるわけです。
その中では韓国の女性が、ひいては日本に住む私たち女性が、多かれ少なかれ感じたことがある現代社会の生きづらさや悩み、苦労がありありと描かれています。
たとえば、勉強や就職活動をがんばっても大企業に採用されるのは軒並み男子学生であったり、結婚後は妻側の実家に帰ることはないのに夫側の実家へ顔を出し手伝いすることは当たり前のように求められたり。きわめつけは、産後に子育てとの両立がかなわず、思うように仕事を見つけられないキム・ジヨンが娘を連れて公園でひと休みしていたときに、サラリーマン男性たちが発した言葉。「俺も旦那の稼ぎでコーヒー飲んでぶらぶらしたいよなあ……。ママ虫(育児をろくにせず遊びまわる、害虫のような母親という意味のネットスラング)もいいご身分だよな」。
どうでしょうか。世の女性たちが「これはわたしの物語だ」と強い共感を示すのもうなずけるのではないでしょうか。
いっぽうで、韓国の男性たちはこの小説に対して強い拒否反応を示す人も。Kポップガールズユニット、レッド・ベルベットのアイリーンが本書を読んだと発言したところ、一部男性ファンが「アイリーンがフェミニスト宣言をした」として一斉に反発。アイリーンの写真やグッズを破損する様子を動画投稿サイトに投稿するという事態も起きたほどだとか。ここまで激しくはなくとも、本書を読んでなんとも言えない居心地の悪さのようなものを感じる男性は日本の中にもいそうです。
著者のチョ・ナムジュ氏は、本書が「自分をとりまく社会の構造や慣習を振り返り、声を上げるきっかけになってくれれば」と日本の読者に対してメッセージを寄せています。挫折、疲労、恐怖感で終わるのではなく、これからを生きる世代のためにも、私たち一人ひとりが考え続けていくことが大事になってくるかと思います。
現在、キム・ジヨン役にチョン・ユミ、夫チョン・デヒョン役にコン・ユというキャストで映画化も進んでいるという『82年生まれ、キム・ジヨン』。まだまだ本書が投じた一石の波紋は鎮まることはなさそうです。
■関連記事
【本屋大賞2019】瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』 「愛情を注ぐ相手があることは幸せ」
【速報】「本屋大賞2019」は、瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』に決定!
【「本屋大賞2019」候補作紹介】『ベルリンは晴れているか』――戦後・戦中のドイツを追体験できる歴史ミステリー
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。