疚しい理由でベーシックインカムに反対する人たち(暮らしの経済手帖)
今回は凡人オヤマダさんのブログ『暮らしの経済手帖』からご寄稿いただきました。
疚しい理由でベーシックインカムに反対する人たち(暮らしの経済手帖)
「ベーシックインカム構想 *1 」はこれからベーシックインカムの導入に反対する人たちや彼らの反論について検証していきます。その前にここでもう一度ベーシックインカムや給付付き税控除を導入する目的や意義について確認しておきましょう。
*1:「ベーシックインカム導入になぜか反対する左派・社会保障関係者」2019年5月16日『暮らしの経済手帖』
https://blogs.yahoo.co.jp/metamorphoseofcapitalism/folder/1033335.html
ベーシックインカムや給付付き税控除は全国民に無差別・無選別で一定額の現金を毎月毎月給付し続ける制度です。給付付き税控除の場合は所得が一定以下の人たちに税徴収をするのではなく、逆に現金を給付する制度です。ベーシックインカムのように無条件給付というわけではないですが、一定以下の所得の人には自動的に現金給付されるので、行政の恣意や裁量が介入する余地が小さいです。そういう意味でベーシックインカムや給付付き税控除は自由主義的で、小さな政府主義的なセーフティネット制度であり、財政政策のひとつであるといえましょう。
よく「小さな政府」とか「(新)自由主義」という言葉を聞いただけで脊髄反射的に「社会保障費削減」だとか「緊縮財政派」「弱肉強食思想」などと言い出す人がいますが、浅ましい思い込みです。本来の「小さな政府主義」や自由主義というものは、国家が国民が労働で得た富や財を収奪し、経済的自由を奪って勝手に濫用したり、国民の思想や行動に対して口をなるべく挟んだり、商工業活動を阻害するようなことをすべきではないというものの考え方です。国民が汗水流して稼いだお金は国民が自由に遣う権利があります。政府に支払った税は国民の利益となるよう還元すべきです。
山崎元さんは「優しい自由主義」を掲げておられます。この言葉は私の思想信条の柱となりました。
山崎元の時事日想:最終回「優しい自由主義」のススメ (1/3) – ITmedia
https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/0904/30/news012.html
よく「ベーシックインカムは社会保障費の削減のためにするんダー」「公的医療保険制度も廃止になるんダー」などというデマを流す人間がいますが、これは間違いです。こちらは給付のための行政手続きや判定などの事務コストなどといった国民にとって利益につながらない経費の削減は主張しますが、その分をより手厚い給付に回すべきだという考えです。
一般の人たちでベーシックインカムに賛成しがたいという理由の多くは、この制度を導入したら働く人がいなくなって遊ぶ人ばかりになってしまうのではないかとか、財政悪化につながるのではないか、あるいはひどいインフレなどの経済混乱を招くのではないかといったところでしょう。
これについてはベーシックインカムや給付付き税控除は生活保護のように利用者を丸抱えするようなものではなく、就労所得に補足するようなかたちで現金を給付するもので、就労意欲を削いだり、勤労者に大きな税負担を負わせないような制度設計を組むことは可能だというかたちで返答できます。まずひとり月数万円程度ならばそうした問題を心配することはないでしょう。
あとこれまでの公的医療保険制度や現物支給型の福祉サービスまで廃止か大幅削減になるのではないかという懸念についてですが、私としてはそれが心配だったらきちんと今の社会保障制度をきちんと勉強して、自分の目で各ベーシックインカム案や給付付き税控除の導入案を精査しろと言いたいです。こちらのブログでは各社会保障制度の仕組みについてまとめておきました。
「社会保障・福祉制度の種類と財源 」2018年6月22日『暮らしの経済手帖』
https://blogs.yahoo.co.jp/metamorphoseofcapitalism/36674645.html
「社会保障・福祉・医療問題 編」『暮らしの経済手帖』
https://blogs.yahoo.co.jp/metamorphoseofcapitalism/folder/1037206.html
自分でまともに基本的な社会保障制度の概要すら知らない人が、「ベーシックインカムは社会保障切り捨てダー」などと批判するのはおかしな話だと思います。そういう人に限って社会保障や国民厚生に関して冷淡なのです。
低所得者~中所得者の負担を逆に大きくするようなことがないように、ベーシックインカムや給付付き税控除の主要財源となる所得税の累進性強化を計るなどといった改善を行なえばいいですし、現行社会保障制度の対象者が実質給付水準を大きく下げてしまうようなことがないように、オプションとなる制度を用意しておいて対応することはいくらでも可能です。ベーシックインカムに限らず、法制度の新設・廃止・改訂のときは対象者が大きな損失や社会的混乱が起きないように制度設計を組むのは当然のことで、それはLaw Markerである政治家や官僚の仕事です。
しかしこうしたベーシックインカムや給付付き税控除に反対する理由は表向きのものに過ぎないでしょう。
反対する人たちの中で本音は別のところにあり、実は自分たちの既得権益を奪われたくないという疚しい理由であったりします。
ひとつの例を出すと歳入庁の創設やマイナンバーの導入がベーシックインカムや給付付き税控除の前提となるからというものです。歳入庁やマイナンバーはより厳格な徴税と給付の公正化を目的とするものですが、これに反対する人たちの中に高額資産・所得隠しや不正行為によって得たブラックマネーで私服を肥やしている人間であったり、反社会的組織やテロ国家などへの不正送金に加担している者が紛れ込んでいたりするのです。このことは日本維新の会の足立康史議員が国会答弁で暴露しました。
参考記事「徴税と給付の公正化は歳入庁創設とマイナンバーが不可欠 」2019年3月3日『暮らしの経済手帖』
https://blogs.yahoo.co.jp/metamorphoseofcapitalism/36894733.html
それよりベーシックインカムや給付付き税控除が大きな反発を受けるのは、徴税した税金を配分する政治家や官僚の裁量権を大きく狭めるからです。特定の業界や個人が国や地方自治体などに公共事業や補助金を交付してもらえるよう議員や役人に陳情したりします。一部の議員や官僚・役人などはその見返りとして資金援助や天下り先の斡旋を求めたりしますが、ベーシックインカムや給付付き税控除はそうした座布団がない財政政策です。議員や役人たちが自分の裁量で遣える予算を奪うようなこの制度に反発するのは当然のことでしょう。
よくよく観察すると気がつくことですが、ベーシックインカムや給付付き税控除に反発する評論家は、他の言説でも官僚色が強い人間が多いです。
山崎元氏もベーシックインカムについての記事で
「ベーシックインカムが日本で実現しにくいと筆者が思う理由は、既得権者の反対と、官僚の抵抗の2つだ。」
「権限やOBの就職先が減ることに対して、直接・間接両方の方法で陰に陽に抵抗するだろう。 このときの抵抗する側の真剣さと、そもそも日本の社会システムの枢要な部分が政治家やビジネスマンによってではなく、官僚によって動かされていることを思うと、ベーシックインカムが短期間で実現に向けて動き出すとは想像しにくい。」
と既得権者と官僚の激しい抵抗によってベーシックインカムの実現にはかなりの困難が予想されると述べられています。
この国は第二次世界大戦中から官憲主義や国家社会主義的な性向に傾きやすいところがあります。それは民間に任せきりにすると皆が自分勝手な行動をとるので我々がしっかり監督しなければならないという官僚の思い上がりです。経済についても政府が税を徴収し、配分してやらないと停滞してしまうのだという社会主義的思考が潜んでいます。自民党の田中角栄や経世会がかつて派手に行っていた土木建設公共事業を中心としたバラマキ政治はその典型でした。
もうひとつ言うと、ここ最近やたらと話題になっているMMT(現代貨幣理論)についても、社会主義的色彩がかなり濃厚であるという問題があります。JGP(就労保障制度)やアメリカ民主党のオカシオ・コルテス議員などが唱えているグリーンディール構想もそうです。
執筆: この記事は凡人オヤマダさんのブログ『暮らしの経済手帖』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年5月18日時点のものです。
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