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時代を生き抜いた女たちの人生〜窪美澄『トリニティ』

時代を生き抜いた女たちの人生〜窪美澄『トリニティ』

 ”子どもや孫に囲まれて、畳の上で大往生”的な亡くなり方は理想とされやすい。裏を返すと、”看取ってくれる人もいないまま、孤独のうちに死ぬ”のは不幸とみなされるということだ。しかし、こういった固定観念のようなものにはずっと疑問を抱いてきた。私とてできるなら死ぬ間際に息子たちにひとめ会えたらうれしいし、そこに孫の姿もあれば申し分ないことだろう。しかし例えば、自分の心の求めるままに行動し思い残すことはないと感じられるまでの生き方ができたならば、その人の人生を不幸だったなどと誰が言えるだろうか?

 本書の主要人物は3人の女たち。裕福な家柄で母娘三代にわたって物書きとなった人気フリーライターの佐竹登紀子、複雑な家庭事情の中で育ち時代の寵児となったイラストレーターの早川朔(本名は藤田妙子)、佃煮屋の娘で高校卒業後お茶くみ的な仕事を続けている宮野鈴子。3人は新しい雑誌「潮汐ライズ」を創刊するために立ち上げられた出版社の編集部で出会った。彼女らが邂逅するまでの道のり、さらには彼女らの母や祖母たちの生い立ちについても、時代背景とともに丁寧に語られていく。

 物語の冒頭、鈴子のもとに1本の電話がかかってくる。それは妙子が亡くなったという知らせだった。そして、見送る人々も驚くほど少ない斎場で、鈴子と登紀子は再会する。実はそのとき、鈴子は自分の娘・満奈実のひとり娘である孫の奈帆を伴っていた。就活中は祖母の鈴子が勤めていた潮汐出版(現在の社名はログストア)を第一志望としていたが叶わず、同じような出版社を受け続けて最終的に実用書や自己啓発本を扱う中堅企業に採用された。しかしその出版社はいわゆるブラック企業で、奈帆は精神的に不安定になり現在は休職中。祖母があいさつをした相手が伝説的なライターであると知って驚きを隠せない奈帆は、彼女に「フリーライターになるにはどうしたらいいんでしょうか?」と問う。登紀子は「これからの時代、フリーライターはやめておいたほうがいい」と答えながらも、「佐竹さんのお話を聞かせていただくわけにはいかないでしょうか」と食い下がる奈帆に自分の住所を書き付けたメモを渡す。「ほんとうに興味があるのならいらっしゃい」との言葉を添えて。その1週間後、奈帆と鈴子は登紀子の住まいを訪ねる。本や雑誌であふれかえったワンルームで、登紀子は奈帆に語り始めた。自分がどのように生きてきたか、妙子や鈴子とともに生き抜いてきた時代はどのようなものであったかを…。

 登紀子たちが出会ったのは、1964年という東京オリンピックの年。現在よりももっと男性社会だった頃の話だ。私自身はもともと性別に過剰にこだわるようなことはしたくないと思っていて、急進的すぎるフェミニスト思想にはややなじめないものを感じている。男性であるからということだけで糾弾される空気というのも女性差別と結局は同じではないかという気もするし、男性だからと背負わされるような類の重圧というものもあるだろう。とはいえ長い間、ほんとうに長い間、女性が抑圧されてきた事実は看過できないものであり、先輩女性たちが戦い続けてくれたからこそ少しずつでも状況が改善されてきたことには深い感謝を捧げたい。1968年10月21日起きた新宿騒乱事件で、登紀子たちがデモを見に現地へ向かった場面がある。国際反戦デーのデモは「ベトナム反戦」を掲げるものだったが、機動隊へまず鈴子が、続いて登紀子と妙子も投石を繰り返した。「お茶くみなんか誰にでもできるって馬鹿にしないで!」「馬鹿な男どもの下で働くなんてもううんざり!」「男の絵なんて描きたくない! 好きな絵を好きなだけ描きたい!」と叫びながら。

 「トリニティ」とは、キリスト教における三位一体を意味する。鈴子の結婚式に参列した妙子は、神父の「父と神と聖霊の名において」という言葉を、女が含まれていないその言葉を耳にした。そして生涯にわたって「その三つは女にとっては、いったいなんだろう。男、結婚、仕事。それとも、仕事、結婚、子どもだろうか」という問いを抱え、どれも欲しいと思った。誰だって、すべてを手に入れたいと望んでいい。それらがすべて叶うとは限らない、あるいは自分の願った形で手に入るわけではないとしても。”その人がほんとうに幸せだったかは、死の瞬間までわからない”というのもまたよく言われることだが、死ぬまで幸不幸が保留されるのもまどろっこしい話だなという気はする。妙子や物語が進む中で亡くなる登場人物たちにも、手に入れられたものとそうでないものがあったに違いない。それでも、たとえいくばくかの後悔はあったにせよ、彼らが自分の人生を幸せだと思っていたことを祈る。

(松井ゆかり)

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