「働き方改革」で病気の治療と仕事の両立は実現できるか?
「働き方改革」で病気の治療と仕事の両立を目指す
政府は、将来的な労働者人口の減少や労働構造の変化、長時間労働等の労働問題が社会的な問題となっていること等から、「働き方改革」を打ち出し、各種法律の改正やガイドラインの制定を行っています。その中には、「ダイバーシティの推進」として、病気の治療と仕事の両立や高齢者の就業支援、子育て・介護等と仕事の両立の実現も打ち出されています。
これは、病気の治療等の事情でフルタイムの勤務ができないが、働く意欲も能力もある労働者についてフレキシブルな働き方を実現することで、使用者側にとっては労働力の確保を実現するとともに、労働者側にも労働の機会を確保する、ということが目的だと思われます。
治療と仕事を両立させるための具体的施策について
では、具体的にはどのような施策を打ち出しているのでしょうか。今回は病気の治療と仕事の両立について考えてみます。
病気治療と仕事の両立については、厚生労働省が「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。
ガイドラインでは、かつては不治の病とされていた病気でも、近年の医療技術の進歩により生存率が向上し、「長く付き合う病気」に変化しつつあり、労働者が病気になったからといって、直ぐに離職しなければならない状況が必ずしも当てはまらなくなっているとします。
しかし、労働者の不十分な理解や職場の理解・支援が不十分な結果離職に至ってしまったり、十分な治療を受けることが出来なくなる例が少なからずあるとして、主に事業者や産業医、保健師等の産業保健スタッフを対象に治療と仕事の両立支援を行うための環境整備の必要性を述べています。
具体的には、事業者において基本方針を作成し労働者に対して周知することや、研修等による両立支援に関する意識の啓発、相談窓口の整備、そして具体的に仕事と治療を両立させるための制度の整備をすることが望ましい、としています。
両立のための制度としては、時間単位の年次有給休暇付与の労使協定の締結、病気休職制度の整備、時差出勤や短時間勤務、在宅勤務、などの勤務制度の整備が挙げられています。
人材確保・維持の観点からも有効な方策
もっとも、当該ガイドラインは事業場における取り組みの指針を示すものにすぎず、法的な拘束力はありません。そのため、雇用主の考えや判断によっては今後も治療と仕事の両立が出来ない、ということも考えられます。しかし、これまでは各雇用主の裁量しかなかった治療と仕事の両立について、厚生労働省がガイドラインを示した意義は大きいと思われます。
今後は各企業が、多様な働き方の実現の一環として、病気の治療などの従業員の事情に即した勤務内容を考慮していくことが求められると考えます。特に、労働者人口の減少が進む中、各企業においても人材の確保・育成は今後より重要度を増すなかで、人材確保・維持の為の有効な方策の一つとして、病気の治療をしながら働ける環境を整備する企業が増えることを願います。
(半田 望/弁護士)
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