「お金の使い方」が分からず“預金する”ほど愚かなことはないーーマンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』です。
『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「15億円の現金を持っていても使い道がない。使い方がわからない」
(『インベスターZ』第6巻credit.50より)
大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。
「お金だけあっても、問題は解決できない」
道塾学園を創設・管理している藤田家の現当主に、ベンチャー企業への投資を提案し、受け入れられた財前。藤田家から投資用資金として15億円を託されます。ところが実は、財前はベンチャー投資をしたことがありません。そこでベンチャー企業のことを知るために、投資部OBでロケット開発会社を経営している“リッチーさん”を訪ねることにしました。
リッチーさんを訪ねてわかったのは、宇宙開発のような未成熟な市場は日本では成長しにくい、という現実でした。新しい市場にチャレンジしているベンチャー企業の経営者は、事業をしながら人々の偏見や資金不足、がんじがらめの規制などとも闘わなければなりません。革新的なアイディアを形にするまでの障壁が多過ぎることが、日本でベンチャー企業が育ちにくい一因になっていたのです。
「開発を続けるために、アメリカへ渡る」というリッチーさんから、投資を断られてしまった財前。ベンチャー投資の難しさを知り、途方にくれてしまいます。「お金があって、有望な投資先さえあれば上手くいく」という単純な考えは、早くも挫折してしまったのでした。
世界中で起きている“金余り現象”
今回、取り上げたマンガの中で、投資部のキャプテン・神代(かみしろ)が財前に「金を使うのは意外と難しい」と言う場面があります。あなたも、「お金は多ければ多いほどいい」と思ってはいませんでしょうか。確かに投資は、金額が大きくなれば有利になりますが、大き過ぎても投資先が限られます。
世界では、先進国を中心にこの10年でマネーサプライ(通貨供給量)が約1.6倍にも膨張した、と言われています。特に肥大化した年金マネーは行き場を失い、大量に債券市場に流れ込んでいます。これが、債券利回りの上昇を抑える一因になっている、と言います(日経新聞2018年8月29日電子版より)。
日本でも、日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本の株式市場で存在感を増しています。中でも日銀は、金融緩和政策の一環としてETF(上場投資信託)を通じて取得した株式残高が25兆円を越え、日経新聞社の調査によると、2018年3月末時点で上場企業3735社中の1446社で10位以内の大株主になっていることが判明しています。
©三田紀房/コルク
なぜ、バフェット氏は仮想通貨を購入しないのか?
なぜ、金額が大きくなると投資先が限られてくるのかを、もう少し事例で示しましょう。世界的な投資家のウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイは現在、時価総額が3000億ドルに迫り、世界の時価総額ランキングのベスト10に入る企業です。
バフェット氏は2018年8月末に、6年ぶりとなる自社株買いを行いました。これは氏が求める規模の買収先が、市場で見つからなかったためです。最近、氏はアップル株を買い増ししていますが、それはアップルが時価総額世界一の巨大企業であり、買いやすいことも理由の1つです。これとは逆に「小さ過ぎる」という理由で、氏が現在、購入していないのが仮想通貨です。仮想通貨市場は、盛り上がった2017年12月時点でも、時価総額は約2800億ドルに過ぎません。
目下、バフェット氏は仮想通貨投資に反対の姿勢を見せていますが、おそらく自らの影響力を自覚してのことなのでしょう。仮想通貨は登場したばかりで、まだ市場が安定していません。ボラティリティ(価格変動の差)が大きく、一般人向けではありません。氏は、自分が仮想通貨に好意的な反応をすることで、多くの人が流されてしまうことを恐れているのかもしれません。
規模の制約という概念
上記の例のように、規模が違うのは、モノサシが違うことを意味します。逆に言えば、ベンチャー企業は大企業が小さ過ぎて参入できないマーケットを狙い撃ちすることが可能です。コンプライアンスによって未成熟市場に参入し難い文化があったり、固定費が高過ぎるために最初から売上規模が見込めない市場には参入できなかったりということは、十分にありえます。
競争条件を考える上で重要な要素の1つは、「誰が競合になりうるか?」です。市場規模が大きな分野に参入するにしても、ビジネスの切り口を創意工夫することで、大手が参入を躊躇する規模に見せることは可能です。
市場規模のパイから競合を想定してみるという視点でも考えてみることをオススメします。
マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス 第40回
俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』および『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は42万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
俣野成敏 公式サイト
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