誇りを持てる仕事なのに、会社が危機だからって「辞める」なんてもったいないと思った。~東芝エネルギーシステムズ株式会社 変革へのチャレンジ(後編)
前編(記事はこちら)では、東芝エネルギーシステムズ株式会社(以下、東芝ESS)において、変革にチャレンジする有志メンバーたちの活動「OPEN ROOTS ESS」の立ち上げ経緯を紹介した。
前編の語り手である草清和明(事業開発職)のほか、核となったメンバーは3人。西岡佳朗(設計職)、金子将人(事業開発職)、岡田愛(海外営業職)だ。
OPEN ROOTS ESSの活動を主導するメンバー
左から西岡佳朗氏、金子将人氏、草清和明氏、岡田愛氏
後編となる今回は、活動の広がり、取り組みを軌道に乗せて継続するために重要なポイント、メンバーたち自身の成長にフォーカスする。
社外の人々を巻き込み、硬直した組織に新風を吹き込む
「OPEN ROOTS ESS」の取り組みが最初に形になったのは、社長と一般社員の対話会。これを機に、事業部の枠を越えて同じ想いを抱く社員同士がつながり、各所で対話会、勉強会、イベントなどを開催する動きが広がっていった。縦割りな組織を超えて柔軟な対流が生まれているという。
例えば、本社のある川崎で行われた対話会をきっかけに、各事業所でも独自に対話会を開催する動きが出てきた。また、社員の発案により、ニュースやメディアで取り上げられた事柄について専門担当者に勉強会を開いてもらったり、MBAホルダーの社員にMBAカリキュラムのうち基礎がわかる講座を開いてもらったり。これまでにない活動が見られるようになった。
さらに、社内だけにとどまらず、社外を巻き込んだ活動へも広がりを見せている。
金子はある日、社外の講演に出席した。スピーカーは、急成長中のアパレルブランド『ファクトリエ』代表・山田敏夫氏。アパレル品の国産比率が数%に落ち込む中、「日本の工場から世界一流ブランドをつくる」をビジョンとして掲げるブランドだ。その理念に強く共感した金子は山田氏を招き、自社内で講演会を開催した。
▲金子将人氏
「電力とアパレルでは業界は全く異なりますが、『ものづくり』に取り組む者同士として共感でき、学びもある。若手の活動と見られることも少なくないのですが、実際には幅広い年代の方々が参加してくれました。いつもは淡々と仕事をこなす参加者が山田氏を質問攻めにしている姿を見て、『この人はこんなに熱く語るのか』という驚きもありました。社外には、僕たちの発想が及ばないような知見やノウハウがあります。そして何より、強いパッションにふれることで、多忙な毎日の中で忘れがちな理念や仕事の意義を考えさせられます。どんどん外に出て行って、自社に還元したいと思います」(金子)
自社と社外と結ぶ活動で好評を得たものがもう一つある。社外といっても、「社員の家族」だ。社員の親兄弟、配偶者、子どもたちは、東芝に関するネガティブな報道を目にして不安にかられている。そこで企画したのが、平日の業務時間中、家族を職場に招く「職場訪問」。どんな場所で、どんな人たちと、どんな意義がある仕事をしているのか知ってもらおうと考えた。
岡田は、「普段の職場の雰囲気を見てもらうだけでなく、『お祭り』ムードを演出し、楽しんでもらうことを意識した」と語る。
▲岡田愛氏
「OPEN ROOTS ESS活動をスタートして間もない頃、旧知のコンサルタントに相談したところ、こう言われたんです。『皆さんの顔が暗い。もっと気軽に、自分たちが楽しいと思うことをやればいいんだよ』と。会社を変える、というとつい気負いがちになるけれど、ワクワクするものであっていいんだ、と気付きました」(岡田)
家族の職場を見るだけにとどまらず、太陽光、風力、火力、水力…さまざまな発電方法を体験型の実験を通して体験してもらい、それぞれのメリット・デメリットを子どもたち自身に考えてもらう「エネルギー講座」を開催。楽しんでもらいながら、自社が社会に提供する価値を伝えた。
▲職場体験の様子
また、子どもたちには自分の名刺を作ってもらい、社長との名刺交換会の時間も設けた。
来訪したある子どもは、社長室のイスに腰かけ、「いつかここに座る!」と笑った。
来訪した家族の笑顔が溢れたこの日、明らかに社内の空気は違っていた。
家族を迎えたある社員からは、翌日、こんなメールが寄せられたという。「昨日は、自分がやっている仕事に対する誇りを感じました」。
西岡は、「ただ家族が来た、というだけではない。参加者にとって自分の仕事を別の視点から見る機会になったように思います。働くとはどういうことか。自分はなぜ働くのか。内省を深めることでモチベーションアップにつながっているのではないでしょうか」と言う。
西岡はこの活動の発起人だ。「昔から自社が行ってきたこと、今やっていること、これからやっていくこと、それは変わらず価値があるもの。エンジニアリングで社会に貢献する、誇りを持てる仕事なのに、辞めていくなんてもったいない」――そんな想いから、最初に声を上げた。「自分たちの働きかけが社員の誇りを取り戻すきっかけになればうれしい」と、この活動の意義を再認識している。
▲西岡佳朗氏
活動拡大の秘訣は、「組織・個人ごとの事情を尊重する」
「OPEN ROOTS ESS」の活動を軌道に乗せ、これからも継続していくために、メンバーたちが重視しているのは次のポイントだ。
組織ごとの「立場」「使命」を理解し、歩み寄る
この活動は、最初から賛同を得られたわけではなかった。あるアイデアを実行するために関係部門に協力を要請した際には、自分たちの想いが先行し、相手の立場や考えを顧みずに議論を始めてしまい、紛糾する場面もあった。大きな組織では、各部課の成り立ちによって物事に対する捉え方が変わるし、立場に応じて組織運営で重視すべきことが変わる。ただ、会社のためを思って仕事している点は共通。お互いが持つ先入観をリセットし、会社を俯瞰的に見て、「真に会社にとって必要なことは何か」という一つ上位の土俵で議論することが必要だと学んだ。
活動は業務時間外に行う
全員が共感する活動でなくても、自由に活動できることを重視した。「成果」を意識せず、社内ルールにも縛られずに進められるよう、業務時間外で活動を行っている。業務に関係ない社外の人との連携もしやすくなるなど、「個」で動きやすい。個が外とつながることで、新しいネットワークが生まれ、そこから新たなビジネスを生み出せる可能性もある。
活動への関わり方は人それぞれでいい
活動に参加するメンバーは、「全員一丸となる」必要はない。必要だと思ったときに、必要な活動やイベントに参加してもらえたらいい。業務が忙しい時期もあれば、育児中で家庭を優先したい時期もある。だから「出入り自由」。それぞれのペースで、それぞれの温度感で、自分にできる範囲で関わってくれればいい。
「全く必要としない人もいて当然」と捉えているが、一方で、「もし顔を出してもらえたら、会社生活が楽しくなる可能性がある人たち」もいるはず。そうした人々を置き去りにしないよう、継続的に情報を発信したり、声がけをしたりしていく。
活動を通じて得た、「メンバー自身の成長」とは
「OPEN ROOTS ESS」の活動を通じ、組織を横断してのコミュニケーションや折衝を行ってきたメンバーたち。口を揃え、「視野が広がり、視座が上がった」と話す。
「深い洞察を持っている人たちと知り合えました。対話することで、自分の考えの浅さに気付き、新しい一面引き出してもらえたと思う。思考が深まる経験ができたのは、この活動をしていたからこそです」(西岡)
「僕も同感です。他の部署の人々と接したことで、いろいろな人の想いを知ることができ、自分の中に引き出しが増えました。また、社内ネットワークが広がったことで、困ったときに誰に相談すればいいかわかるし、逆に他の部署の人が自分に声をかけてくれて、仕事につながることもあります」(草清)
「僕は怒らなくなりましたね。以前は自分が考える正論を押し通そうとするタイプでしたが、悪い人はいないし、人それぞれ言い分や事情があることを理解し、想像力が高まった。むしろ、相手が身を置いているマイナス環境ごと変えればいい、と考えるようになりました」(金子)
「以前は自分の業務内のことしか知らなかったし、興味もなかった。でも、この活動を機に『会社としてどうあるべきか』を考えるようになりました。目の前の案件だけでなく、10年20年先を見越して何ができるかということを、自然に考えられるようになったんです」(岡田)
社員一人ひとりのQOL向上が、組織を強くしていく
今後の活動について、メンバーたちは「万人に必要とされる存在は目指していない。社員が『こんなことできたらいいな』と感じたときに頼れる存在になりたい」と言う。
「OPEN ROOTS ESS」とは、「やりたいことを実践できる場(プラットフォーム)」。会社という組織にあって、個々のQOL(Quality of Life)を向上させることを目指す。
「社内の固定観念に縛られず、社外へ視野を広げ、業務に直結しないことも積極的に行う。それによって、新しい発想や社内外のネットワーク構築、そして公私にわたるモチベーションアップにつなげたい。そうして個の人間力が向上することで、巡り巡って会社にもメリットが生まれると考えています。また、日々の生活の大半を過ごす会社において、QOL向上の活動をすることで、会社に対してポジティブな想いを持つこともできます。このビジョンを定めてから改めて社長にも説明し、引き続きバックアップを約束してもらいました。これからも多くの人に参加、活用してもらいたいですね」
前編<「もう一度、誇りと働きがいを!」危機に瀕した会社を変革するため、“普通の社員”が行動を起こす>はこちら EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭
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