「もう一度、誇りと働きがいを!」危機に瀕した会社を変革するため、“現場の社員”が行動を起こす ~東芝エネルギーシステムズ株式会社 変革へのチャレンジ(前編)
「この1年半で、会社の雰囲気に変化が生まれていると思う」
そう語るのは、東芝グループにおいて発電・送配電等エネルギーに関連する事業を担う東芝エネルギーシステムズ株式会社(以下、東芝ESS)で、「OPEN ROOTS ESS」活動を主導するメンバーたちだ。
東芝ESSでは、不適切会計や原子力事業における巨額損失などのダメージが重なり、離職が相次ぐ状況にあった。この状況を打開するため、改革部門、総務部門をはじめ、社内のさまざまな部署が変革への取り組みに乗り出した。
そうした動きの中で、一般社員の間でも「会社をなんとかしたい」「誇りを取り戻したい」という声が自然に上がり、有志社員が結集。会社に対する想いを共有し、本音で言葉を交わし、「どうすれば良くなるか」の知恵を出し合った。そこから生まれた、変革に対する考えをもとに社長に直談判。「OPEN ROOTS ESS」活動が始動した。
OPEN ROOTS ESSの活動を主導するメンバー
左から西岡佳朗氏、金子将人氏、草清和明氏、岡田愛氏
メンバーたちは、なぜ会社の危機に対して立ち向かう意志を持ったのか?
中心となった4人のメンバーのうちの1人・草清和明は「もともと意識が高いわけではなく、自分から動いて何か変えたいというタイプでもない。でも今回は動き出すことができた」と話す。
前編では、草清の視点から、変革へのチャレンジのプロセスを紹介する。
リーダーシップがあるわけじゃない。でも自ら動くべきだと思った
2017年のゴールデンウィーク。草清は同期の友人たちとタイを旅行中だった。アユタヤに向かう電車の中、1通のLINEメッセージが届いた。事業部は異なるが、以前から懇意にしている同僚からだった。 「真面目な話なんやけど、東芝を熱意を持って働ける組織にするために、一緒に命を懸けない?」
リゾート気分は吹き飛び、脳が硬直した。メッセージは「改革案を議論する会を設けるので協力してほしい」と続く。戸惑いながらも、15分後に返信した。 「1日考えさせてもらえませんか?ほんまに命懸けてまで変えたいのか、自問自答の時間ください!」
電力事業を手がける東芝ESSには、原子力、火力・水力、送配電・変電という3つの主要事業がある。このうち、原子力事業は東日本大震災時の福島原子力発電所事故をきっかけに逆風が吹いている状況。さらには、海外原子力事業の核となっていた子会社で1兆円規模の巨額損失が発生し、会社全体が危機に瀕した。
逆風は火力発電にも吹き付ける。世界的に環境意識が高まる中、CO2を排出し地球温暖化を加速させると指摘される石炭火力発電は市場が縮小へ。重電業界全般が打撃を受けているのだ。
こうした背景から、東芝ESSは苦境に陥っていた。事業の将来像が見通せず、多くの仲間が去っていった。
しかし、そうした状況下にあっても、草清は日々の仕事に充実感を抱き、満足していた。目の前の業務に取り組むことで精一杯。会社のために何かしようという気持ちはほとんどなかったという。
▲草清和明氏
そもそもリーダー気質ではなく、先陣を切って新しいことを始めるタイプでもない。高校時代の野球部でも、大学時代の農業サークルでも、チームの中では足りない部分の穴埋めに入るような、サポート役の存在だった。そんな自分が会社に変革を起こせるのか。そこまでの覚悟を持てるのか。悩み抜いたが、「参画する」と決断した。
「ここで何もやらずに会社がつぶれてしまうぐらいなら、何でもいいから自ら行動を起こしたいと思ったんです。自分だからできること、役に立つこともあるはずだ、と。そして、先に動いていた同僚から、現場が抱える問題点を整理した資料を見せてもらったとき、満足していたのは自分だけで、会社の中には日々もがき苦しんでいる人が多くいることを知った。それに、今は自分がやりたい業務をやれているけれど、それをこの先も続けていくためには、会社が健全な状態でなければならないことにも気付いた。会社の状況が他人事ではなく自分事になり、主体的に取り組む覚悟ができたんです」
トップと現場のギャップを埋める「対話会」を企画
有志が集まり、最初に行ったのが、「社長と一般社員の対話会」だった。
従業員約6,700人の会社の社長は雲の上の人。多くの一般社員は普段会うことすらなく、どんな人なのか、何を考えているのかも分からない存在だ。「経営陣は現場のことが何も見えていないのではないか」――そんな不満の声が沸き上がっていた。
「年1~2回発信される社長メッセージが、ただの『文面』にしか見えていませんでした。けれど、有志メンバーで社長に直談判した際、社長の人となりを知り、組織や従業員への熱い想い、変革への意欲に触れることができたんです。これはもっと多くの社員に知ってもらうべきだし、それにより一般従業員の不満解消にもつながると考え、直接対話する会を企画しました」
だが、開催当日までは不安でいっぱいだった。
「どれだけの人が関心を持ってくれるのか」「皆、冷めてしまっているんじゃないか」「1人も来なかったらどうしよう」……。
しかし、フタを開けてみると、会場は70人もの参加者で埋まった。部門も年代、ポジションもバラバラの参加者たちには、共通の想いがあった。「社長はどんな人なのかを知りたい」「会社の将来像を社長の口から聞きたい」「自分たちが抱える課題・悩みを伝えたい」。
中には、「一言もの申す!」と意気込んで参加した管理職もいたが、その管理職は結果的にその言葉をぶつけることなく飲み込んだ。社長も自分と同じ想いを抱き、社員には見えないところで行動していることを知ったからだ。対話会の後には飲み会も開催。一人ひとりが社長と膝を突き合わせ、語り合う時間を過ごした。
▲対話会の様子
「想いの共有」を機に、事業部の枠を越えたネットワークが生まれた
当初の目的だった「社長の想い、人となりを知ってもらう」は達成された。
さらには、それ以外の副次的効果も生まれた。参加した社員同士のつながりだ。
「当社は縦割りの組織。例えば原子力事業部と火力・水力事業部の社員の交流はほぼゼロです。でも、所属が異なっても、会社に対する想いや不満は共通している部分が大きい。社長対話会という場に集まり、グループディスカッションを行い、本音で話し合ったことで、事業部の枠を越えるつながりが生まれたのです。意気投合した者同士で対話会や勉強会、趣味のイベントを開催するなど、活動の幅が広がっていきました」
この1年ほどの間に、大きなイベントから小さな勉強会まで、さまざまな活動を行ってきた。延べ動員数は1,000人に達する。
社員は「何かしたい」と思い立ったとき、「OPEN ROOTS ESS」というプラットフォームを活用し、共感してくれる仲間を集めることができる。組織変革を目指して発足した「OPEN ROOTS ESS」は、社員と社員をつなぐハブの役割を果たすようになった。
「この活動を通じてわかったことは、想いを持った人たちが会社にはたくさんいるということ。その人たちをどうつなぐかということが、会社を良くするために重要だと感じています。会社を変えよう、良くしようと思っていても、1人ではアクションできないものです。けれど、同じ想いを持った人とつながった瞬間、『よし、やってみようか』と、アクションまでのハードルが低くなる。なぜなら、異なるバックボーンを持つ複数人が集まることで、それぞれの持つ人脈や得意なことを活かすことができ、社内での活動を進めやすく、知恵や選択肢も広がるから。また、お互いに励まし合うことができるので、モチベーションを維持しやすくもなります。会社として組織・風土改革の推進に本気で取り組む人たちの活動とも相まって、『社員発』の取り組みが少しずつ生まれてきています。1年半前に比べ、社内の中で対話する雰囲気ができてきたと感じます」
「OPEN ROOTS ESS」では、社内のネットワークを結ぶだけでなく、社外を巻き込んだ取り組みも行っている。
後編では、さらに広がる活動内容、活動を軌道に乗せ長く続けていくためのポイント、そして、メンバーたちは活動を通じて自身がどう変化し、成長したと感じているかを紹介する。
後編<誇りを持てる仕事なのに、会社が危機だからって「辞める」なんてもったいないと思った。~東芝エネルギーシステムズ株式会社 変革へのチャレンジ(後編)>はこちら EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭(一部、東芝エネルギーシステムズ株式会社 提供)
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