“ミステリ年末ベストテン”の翻訳ミステリ部門で堂々の4冠! 『カササギ殺人事件』ってどんな本?

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普段ミステリを読まなくても、年末のベストテンが発表されるとなんとなくウキウキして本屋さんに行かれる方は多いのではないでしょうか。もうお気づきかと思いますが、今年はある翻訳ミステリーが話題を独占しています。先週11日に出た今年最後のミステリランキング本「このミステリーがすごい! 2019年版」(宝島社)で1位に選ばれたことで、アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(山田蘭訳/創元推理文庫)が年末ミステリランキング全てにおいてベストワンを獲得したのです! ちなみに年末ミステリランキング本とは、前述の「このミス」、「ミステリが読みたい!」(早川書房)、週刊文春ミステリーベスト10(文藝春秋)、「本格ミステリ・ベスト10」(原書房)の4つを指します。

では『カササギ殺人事件』とは一体どういう小説なのでしょうか。舞台は現在のロンドン。編集者の女性が自宅で原稿を読み始めるところか始まります・・・はい、上巻裏表紙に書いてあるあらすじと違いますね。実は『カササギ殺人事件』というのはこの小説中に出てくる作中作、つまり登場人物が読んでいる本のタイトルなのです。えー? それややこしくない? あんまり本読まない自分には難しいんじゃ・・・と一瞬ビビったあなた! どうかご心配なく。本書には、小説『カササギ殺人事件』部分が始まる際に、表紙に推薦文に登場人物表、そしてなんとシリーズの既刊本タイトルまで載っているんですよ!

混乱をさけるためにここからは「外カササギ」(本書)「中カササギ」(作中作)とします。「中カササギ」は名探偵アティカス・ピュントを主人公としたシリーズものの推理小説で、裏表紙のあらすじはこっちの方なのでした。これがもう面白くって、とりわけアガサ・クリスティのファンの人にはたまらない内容なのです! イギリス南部の風光明媚なサマセットにあるパイ屋敷で、通いの家政婦が階段から落ちて死んでしまいます。関係者の村人たちはそれぞれ何か隠している様子。そこに名探偵アティカス・ピュントが登場し、「家政婦は見た!」のが何だったのかを探るうち、小さな村に不穏な空気が流れはじめ・・・という王道の犯人当てミステリ。そこかしこにクリスティ作品の完璧なオマージュやリスペクトが感じられ、懐かしさと同時に、ミステリの女王アガサ・クリスティの素晴らしさをもう一度思い出させてくれます。「外カササギ」については、未読の方のために内容には触れませんが、ミステリとしての完成度の高さと、読者を一時も離さないストーリー展開、そして鮮やかでキレのある結末はお見事の一言。推理小説の醍醐味を存分に堪能させてくれます。

著者アンソニー・ホロヴィッツの他の作品にはコナン・ドイル財団から公式認定されたホームズもの『シャーロック・ホームズ 絹の家』『モリアーティ』や、イアン・フレミング財団公認の007新作『007 逆襲のトリガー』(全て駒月雅子訳/角川書店)などがありますが、どれも驚くほど続編として完璧な出来。テレビドラマでも『刑事フォイル』や『ニュー・ブラッド 新米捜査官の事件ファイル』のクリエイターとして、そのクオリティの高さは保証済み。本家『名探偵ポワロ』も『白昼の悪魔』をはじめ、多くの脚本を担当しています。
 
ここまで読んで、4冠が最高なの?と思われた方もいるかもしれません。実は2015年度にピエール・ルメートル『その女アレックス』(橘明美訳/文春文庫)が「このミス」「読みたい!」「文春」「「IN☆POCKET」文庫翻訳ミステリーベスト10(講談社)」「本屋大賞翻訳小説部門」で国内5冠を取っています。ただ今年は「IN☆POCKET」が休刊のためランキングが無くなり、「本屋大賞」の発表は春なので、『カササギ殺人事件』もこれから5冠になる可能性があるわけですね。

今年のランキングではもう一つ話題がありました。それは「このミス」「読みたい!」「文春」の3誌でピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』(務台夏子訳/創元推理文庫)が2位になったことです。ガジェット通信でも5月に取り上げたように、
https://getnews.jp/archives/2040776 [リンク]
読んだら絶対人に勧めたくなる鋭い切れ味のサスペンスです。『カササギ殺人事件』とは全く違うタイプのミステリですが、こちらも時間を忘れてぐいぐい読んでしまうことうけあいです。

最後に、受賞した2作を担当された東京創元社の編集者お二人に、その次に読むオススメ作品をお聞きしました。

<『カササギ殺人事件』担当のKさんのオススメ>
エリス・ピーターズ『雪と毒杯』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)
英国の本格ミステリつながりでお勧めします。《修道士カドフェル・シリーズ》で著名な著者によるノンシリーズ作品です。吹雪に閉ざされた村、ホテルに避難した人々、そして起きる殺人――と正統派の道具立てに酔うもよし、そこかしこに潜む著者の企みに驚くもよし、という逸品です。

<『そしてミランダを殺す』担当のSさんのオススメ>
キャサリン・ライアン・ハワード『遭難信号』(法村里絵訳/創元推理文庫)
冒頭の、失踪した恋人を探す物語から一転、後半は閉ざされた豪華客船を舞台にしたサスペンスになります。次から次へと提示される謎や、登場人物たちのエピソードによって息の詰まる緊迫感が生み出されており、巧みな構成で翻弄されます。船酔いに注意しつつお楽しみください!

お正月休みも間近。暖かいお部屋でゆっくりと読書と謎解きを楽しまれてはいかがでしょうか。

【書いた人】♪akira 翻訳ミステリー・映画ライター
月刊誌「本の雑誌」で翻訳ミステリー新刊ガイドを2年間担当。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」HP、月刊誌『映画秘宝』等で執筆中。

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