クスリ、ヤクザ、貧困ビジネス…大阪・西成での日々を綴った潜入ルポ
大阪市西成区あいりん地区。この地に軒を連ねるのは、生活保護受給者や日雇い労働者などを対象にした、通称「ドヤ」と呼ばれる簡易宿泊所。1泊1000円ほどと格安で利用できることから、東南アジアの安宿を利用するような感覚で、近年ではバックパッカーのような旅行者や出張ビジネスマンにも重宝されているのだとか。
今回ご紹介する『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』は、そんな貧困地域に潜入した日々を描くルポルタージュ。著者の國友公司さんは1992年生まれのフリーライター。筑波大学を卒業するも就職活動に失敗し、卒業の翌月から、俗に飯場(はんば)と呼ばれる作業員宿舎に住み込みます。解体作業などの肉体労働に従事したほか、生活保護受給者から搾取する貧困ビジネスが横行する現場も目撃することに。
最終的には、使用済みの注射器がザクザク出てくるホテル(ドヤ)のスタッフとして働きますが、ここで同僚となったのは、刺青が入った「皆川さん」、コミュニケーション能力に欠ける「K太郎」など、いずれも訳アリな顔触れ。
働きながらこの地域に流れ着いた人々を観察した結果、「あくまで体感として、その内の六割が覚せい剤を経験し、四割が元ヤクザといった感じである」(同書より)と言います。また遭遇した社会不適合者の面々の中には、恐らくADHD(注意欠如・多動性障害)などの何らかの発達障害が背景にあるように見える人もいたと述懐。
西成の感覚にどっぷり浸かりつつあった著者は、東京に戻るタイミングを亡失し、当初1カ月の滞在予定が78日間にも及ぶことになりますが…。
「お前はこれから西成の本を書くんやろ? その本で有名な作家になって、K太郎のことや俺らのことや西成のことなんてさっさと忘れて次に進め。お前も自分がどうなるか分からないって不安があるのも理解できるが、お前にはこの街にいる人間と違って未来があるんや。とにかく頑張り」(同書より)
そんな同僚の言葉をきっかけに、まもなくそのホテルを辞め、執筆したのが同書。新人フリーライターが「大阪市民も恐れる魔窟」(同書より)にどっぷり浸かった日々を綴った同書は、現代日本に生きる私たちに知られざる裏社会の存在を伝えてくれる、稀有な一冊と言えるでしょう。
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