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国境麻薬戦争を描く映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』 衝撃の“デル・トロ撃ち”は実際に出来るのかやってみた

アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争の現実をリアルに描き、アカデミー賞3部門にノミネートされた『ボーダーライン』(2015)の続編である、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』が全国公開中です。

【ストーリー】アメリカ国内の商業施設で市民15人の命が奪われる自爆テロ事件が発生。 犯人一味がメキシコ経由で不法入国したと睨んだ政府は、 国境地帯で密入国ビジネスを仕切る麻薬カルテルを混乱に陥れる任務を、 CIA工作員のマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)に命じる。 それを受けてマットは、 カルテルへの復讐に燃える旧知の暗殺者アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)に協力を要請。 麻薬王の娘イサベル(イザベラ・モナー)を誘拐し、 カルテル同士の戦争を誘発しようと企てる。 しかしその極秘作戦は、 敵の奇襲やアメリカ政府の無慈悲な方針変更によって想定外の事態を招いてしまう。 メキシコの地で孤立を余儀なくされたアレハンドロは、 兵士としての任務と復讐心、そして人質として保護する少女の命の狭間で、 過酷なジレンマに直面していく……。

本作で、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロが披露しているのが、なんとも特別な銃の撃ち方! 予告編の0:30あたりからご注目を。

『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』予告編
https://youtu.be/V84vyonVrrI?t=30 [リンク]

通常、銃は両手を添えて真っ直ぐ構えて狙いを定め、グリップを握る手の人差し指で一発ずつ引き金をひいて撃ちますが、デル・トロ演じるアレハンドロは右手でグリップを握り伸ばした左手の指に引き金を次々とぶつけるようにして高速連射するのです。劇中でも大変印象的なシーンで、アレハンドロがなぜこんな撃ち方をしているのか? 物語の背景にある悲しい復讐心がこめられている素晴らしい演出なのです。

この”デル・トロ撃ち”実際に出来るの? ということで、今回は映画評論家であり銃器の専門家でもあるライターの石井健夫さんに”デル・トロ撃ち”のやり方から、映画の見所まで色々とお話を伺いました!

――今回は映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』に出てくる、デル・トロの銃の撃ち方を教えていただきます。ますは本作を観た感想を伺えますでしょうか。

石井:大変興味深く拝見しました。これはアメリカ映画ですが、彼らにとって今メキシコは一番大きな問題と言えるので、リアルだな、タイムリーだな、と思って観ていました。本作のシリーズはメキシコの非合法組織=麻薬カルテルをテーマに描いています。’80年代中盤からアメリカは中南米、特にコロンビアあたりの麻薬組織に深く介入し、彼らをほぼ壊滅させてしまいました。しかし皮肉にも彼らが力を失ったいま、隣国のメキシコ=すなわちアメリカと地続きの国でその問題が膨れ上がっているのですから、むしろ問題はさらに悪化し、より深刻になってしまったという有様なのです。

――なるほど…。エンターテイメントでありながら、社会情勢を反映した作品であると。

石井:そうですね。非常にリアリティを感じました。特にアメリカの観客は背筋が凍る思いなのではないでしょうか。

――石井さんのご専門というか、得意分野でもある銃や装備の描き方は如何でしたか?

石井:日本の映画でもアメリカの映画でも、時々「こんなピカピカの銃や新品まっさらの装備を使っているS.W.A.T.なんでいないぞ」とツッコんで観てしまうことがあるのですが、この作品では本当に細かな所まで掘り下げて描写していて、道具や所作の監修も素晴らしいと思いました。マット(ジョシュ・ブローリン)が使っている銃や装備も、本当に何年もこの世界で生き抜いてきた人に相応しいカスタマイズがされていて「使い込んだ感」も最高でしたね。

――やっぱり石井さんが映画をご覧になると「この場面でこの銃はないだろ!」とか思ってしまうわけですね。

石井:そうですね。でも作品によりますよ。どんな作品にも厳しく目くじらを立てている訳ではありません。『ジョン・ウィック』とか『マトリックス』とか、そういうリアリティ無視のお馬鹿映画もぼくは大好きです(笑)。でも本作のようにリアルテイストのシリアスな映画では、やはり見方もそれなりに厳しくなります。しかし本作はそんなハイレベルな期待にも十分以上に応えてくれています。

――本作で、アレハンドロ役のデル・トロが個性的な銃の撃ち方をしていますが、あれは実際にある撃ち方なのでしょうか?

石井:実際にありますし、少し練習すれば誰にでも出来ます。引き金を一度引いたら弾が出っ放しになるフルオートマチックの銃というのは、法的には多くの国で軍や警察以外は使ってはいけないことになっています。もちろん殺傷力が高すぎるからです。なのでそれらを買い揃えられない下級ギャングとか、一般のエージェントが時として使うのがあの「バンプ・ファイアー」というテクニックです。引き金を引く毎に一発ずつ弾が出るセミオートマチックの銃でも、やろうと思えばフルオートのような連射が出来る、ということになります。ただしもちろん命中率は期待できないので、実際には「こちらにはフルオート火器があるんだぞ!」と敵に警戒させ威嚇するのに用いる程度らしいです。ちなみにぼくは昔、アーケードのシューティングゲームで的(敵)がたくさん出てきた時などに多用していました。この撃ち方じゃないとどうしてもクリア出来ないステージが結構あったんですよね(笑)。

――私はこの映画で初めて観た撃ち方だったのですが、銃に詳しい方は昔から知っていたわけですね。でもあの撃ち方だと弾がすぐなくなりませんか?

石井:あのシーンでアレハンドロが使っていたのは「M92FSコンパクト」という銃で弾倉には15発の弾が入るんですが、全弾を撃ち尽くしていましたね。もちろんあの撃ち方ではちゃんと狙えないので命中率は低いのですが、彼の場合はそれだけ怒りが激しかった、という事なのでしょう。また、カルテル同士の抗争に見せかけるため、敢えて遺体を酷く損壊させる目的もあったのではないでしょうか?

――デル・トロさんの撃ち方は石井さんから見ても決まっていましたか?

石井:とても訓練されている、と思いました。いい役作りだな、とも。マット(ジョシュ・ブローリン)はCIA所属のアメリカ政府正規職員ですが、本作では「ブラック・オペレーション」つまり国際法では許されない作戦をやっているわけです。映画の1作目(『ボーダーライン』)と本作をよく観ると分かるのですが、マットの部下は全員がC.I.A.というわけではないんです。ある人は陸軍から、ある人は海軍から、そしてFBIや警察からも抜擢されて来ている。つまりマットはいつも「出自の異なる寄せ集め集団」を束ねているわけです。そしてアレハンドロはその中の一人で、得体の知れない雇われのフリーランスです。だから彼だけはちょっとトッポい技を使います。政府機関の訓練だけでは習得出来ない「裏社会での実戦」が身に染みついている男なのです。デル・トロはその空気感を上手く表現していますね。

――銃の扱い方・撃ち方だけで、そのキャラクターの背景が見えるわけですね。

石井:アレハンドロはとても冷静で優秀なキャラクターではあるのだけど、一人になると自分の感情を持て余す時もありますよね。そこが本作のデル・トロの見どころだと思いました。脚本のテイラー・シェリダン氏は、たぶん銃にものすごく詳しい人です。『ボーダーライン』シリーズはテンポが早いので細かい描写が難しいと思うのですが、それでも画面の端に映る人の「銃の弾の込め方」や「銃の取り扱い」が非常に綺麗で手際が良いです。それも「これ見よがし」な感じではなく「分かる人には分かる」というさり気ない演出が素晴らしかったですね。

――銃が好きな方にとってテイラー・シェリダン作品は見逃せないという事ですね。

石井:少なくともぼくは見逃せないですね(笑)。今年公開された『ウインド・リバー』などは主人公が調整する弾の種類にまで「裏の意味」が込められていて唸ってしまいましたし、前作『ボーダーライン』(2015)に続く本作ももちろん凄かった。もうあと2〜3本手掛けるうちにアカデミー賞だって獲得してしまうのではないかな? と期待してしまいます。

ところで、今後もハリウッドでは「ブラック・オペレーション」をテーマにした作品が増えていくと思います。これはアメリカの政治と深く関わっているように思います。つまり共和党政権は正規軍を動かして(軍産複合体の直接利益になる)大きな戦争を行いますし、民主党政権は軍を引っ込める、と見せかけて(結果的にはやはり軍産複合体の利益になるように)秘密裏に小規模な戦闘行為を各地で画策するのです。例えばオバマ大統領は中東から米軍を撤退させましたが、逆に現地で活動する特殊部隊や民間軍事会社は大幅に増加しました。一説にはドローンなどの無人兵器を使用した作戦は4倍にも増えた、と言われています。なのでトランプ大統領=共和党が政権を握っている今は、民主党政権が行って来た数々の「ブラック・オペレーション」を暴く、あるいは示唆するような作品を、テイラー・シェリダンや他の作家たちが次々と世に出していくのが必然なんじゃないか? と、ぼくは深読みしてしまいます。きっとこれからも驚くような作品が製作され、公開されると思います。

――『ボーダーライン』は3部作ということで、次回作にも期待が高まります。今日は大変素晴らしいお話をどうもありがとうございました!

最後に、石井さんのレクチャーを受けながら、ガジェット通信のオサダ記者が“デル・トロ撃ち”にチャレンジ! ぜひ動画をご覧ください。

【動画】『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』の“デル・トロ撃ち”を実際にやってみた
https://www.youtube.com/watch?v=Lru6bwrtleY

■石井健夫さんのブログ
https://takeoishii.militaryblog.jp [リンク]

■ロケ地:アキバベース
http://akiba-base.com [リンク]

■『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』公式サイト
https://border-line.jp [リンク]

(C)2018 SOLDADO MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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記者:

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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