「シェア(共有する)」によって働き方の未来はどう変わる?

「シェア(共有する)」によって働き方の未来はどう変わる?

物を所有することに固執する時代が終わるかもしれない――

今、場所・物・移動手段・スキル・お金など生活の中のあらゆるシーンに「シェア(共有する)」という概念が芽吹きつつあります。その変化は個人の働き方にも大きな影響を与えそうです。

日本社会において「シェア」という手段の普及、啓発に努める一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長であり、自身もシェアハウスを運営している佐別当隆志さんにシェアリングビジネス(※)に関わって来た軌跡をうかがうとともに、価値観が変化することで働き方がどう変わって行くのかを考えます。

※シェアリングビジネス(エコノミー)とは、インターネットを介して個人と個人の間で使っていないモノ・場所・技能などを貸し借りするサービス(一般社団法人シェアリングエコノミー協会HP(→)より)

 

プロフィール

佐別当隆志(さべっとう・たかし)

2000年ソーシャルメディアのトータルソリューションを手がける株式会社ガイアックス(→)に所属。2016年一般社団法人シェアリングエコノミー協会(→)を設立し事務局長に就任。2017年内閣官房シェアリングエコノミー伝道師に任命される。2017年株式会社Mazel(→)を設立、代表取締役社長。自宅を兼ねたシェアハウスMiraie(→)を運営。

変わりつつある価値観。シェアで“豊かさ”を共有する

―シェアリングビジネスに出会ったきっかけを教えてください。

2010年ごろ、東京・恵比寿にあるソーシャルアパートメントという大きめのシェアハウスに入居したことがきっかけです。

高級マンションをまるまるリノベーションした建物で、個室は5~6畳と狭くバス・トイレは共同ですが、共有スペースであるリビングキッチンは70㎡以上、100インチのテレビやプロ仕様のキッチンがありました。共有することによって一人では味わえない、豊かな体験ができたのです。家賃も安いわけではなく外交官や起業家のようなお金がある人たちも住んでいましたし、職業も年齢も国籍もさまざま。ダイバーシティな環境でした。

―シェアハウスは「コストをかけたくないからみんなで住む」というイメージでしたが、「豊かさを共有するため」に選ばれたのですね。その後、ご自身でもシェアハウスを経営することになりますがどういった経緯でしょうか。

「子育てをシェアハウスでやりたい」と思ってたんです。

シェアハウスで出会った現在の妻と結婚し、夫婦そろって同じ考えだったのですが、衛生面や子ども特有の生活音の問題で、子どもOKのシェアハウスがなかなかありませんでした。

そこで「子どもがいること前提のシェアハウスを作ろう」と2013年に有料のゲストルームがあるシェアハウス兼自宅Miraie(ミライエ)を建てました。ゲストルームを作り、短期滞在者を対象としたのは、“シェアハウスあるある”を回避するためです。長期滞在者同士、生活に慣れてくると、ルーズな面が目立ってくるんですね(笑)共有スペースに私物を置いたり、玄関の靴を片づけなかったり。そこで「短期滞在者がいること前提」であれば、生活にメリハリが出てそういうこともなくなるだろうと。

Miraieはシェアすることで家賃収入を得て住宅ローンを回収する「シェアの先に所有できるストーリー」を目指しました。住まいをシェアする生活を続けることは資産形成ができないですから。資産価値が下がらないように、土地選びは相当研究しました。

―どのようにゲストルームの利用者を募っているのですか?

当初は、海外や地方の友達がビジネスホテル代わりに泊まるのを想定しており、実際に月数回程度の利用がありました。そんなとき、アメリカでシェアリングエコノミーが広がるきっかけを作ったともいえる 民泊の仲介アプリAirbnb(エアビーアンドビー)が日本でリリースされたのです。僕自身、海外で利用したことがあり、有用性がわかっていたので、スマホアプリでパパパッと数分で会員登録したとたん、翌日から次々と宿泊の申し込みが来るようになりました。

自宅をシェアするには、はじめからシェアすることを前提としたマイホーム作りが重要。Miraieは家族のプライバシーを守るため、シャワーやトイレはシェアする人たちとの共有スペースである広いキッチンリビングとはフロアを別にしています

すでに私たちの生活にも「シェア」の文化は浸透しつつある

―カーシェアリングやワークシェアリングなど、「シェア」という言葉を耳にする機会は増えても、身近にそういった施設や設備がないと体感する機会は得難いのではないでしょうか。

「シェアサービスを使っている」という感覚なくても、すでにシェアリングビジネスを経験しているケースは多いと思います。

例えば、フリマアプリもその一つ。最初から長く所有しないことを前提に買い物をして、使わなくなったら売るというのはシェアリングエコノミーの概念に当てはまります。ほかにもファッションやアパレルの分野では、シェアサービスが急成長しています。インターネットで会員登録をし、毎月規定料金を払えば洋服やアクセサリーなどのアイテムが借り放題のサービスなどがそうです。流行を楽しんだり、あまり着る機会のないフォーマルドレスなどTPOに合わせたアイテムを必要に応じて借りたりできます。サイズや好みを登録しておくだけで、スタイリングしてくれるサービスもあり、スタイリストのファッションを楽しめるし、時間がないユーザーの悩みも解決しています。

―シェアリングビジネスは、すでに私たちの生活に浸透してきているのですね。

そうですね。昔は「借り物」を堂々と宣言するなんて考えられなかったですよね。「高級品をレンタルするなんて恥ずかしい」みたいな風潮で。でも、今はモデルや有名ブロガーがレンタルしたファッションアイテムを、高級品でもシェアを利用することで多数の選択肢の中から賢く選べると誇らしげにSNSに載せ、多くユーザーの共感を集めています。

所有することにこだわらず、シェアで“豊かさ”を手に入れるのがいい。そのように所有に対する価値観が変わってきているのだと思います。

「個人」が主役の社会へ。「企業」はプラットフォームになる

―シェアリングビジネスのサービスが多様になると、社会はどのように変化していくと考えられますか。

日本ではまだまだですが、世界的にはシェアリングビジネスがかなり普及しており、経済社会の中心が企業から個人に移りつつあります。僕たちシェアリングエコノミー協会のビジョンでもある「個人が主役の社会」に向かっているんです。

環境は、確実に変化しています。例えば、現在は、SNSで個人が容易に情報発信できるようになり、ITもさらに進化したことで、C to Cのプラットホームが拡充されています。フリマアプリで、「この人の出品する物は、みんなセンスがいい」とファンがつくこともある。“個人”がちゃんと評価できるようになってきたのです。

―働き方に関しても同様に、企業に所属することに固執しなくてもビジネスができるようになる、ということでしょうか。

個人でも、企業の代替になり得るという可能性はあります。個人のほうがむしろきめ細かいサービスやニッチなサービスを提供できるかもしれません。また、C to Cの場合、関係はあくまで対等です。シェアハウスを例にとると、ホスト側が「この人は受け入れたくない」と思えば拒否できる。現在のBtoCサービスでは、お金が支払われればサービス提供を拒否できない場合が多いのです。

価値観の変容やITの進歩によるサービスの進化は、シェアリングエコノミーにとっては追い風です。これからシェアサービスを提供する人は、何百万人という単位で増えていくでしょう。そして会社は情報・サービス・商品が交差する“プラットフォーム”になっていきます。

―これまでのビジネススタイルから、大きく変わっていくかもしれませんね。

すでに変わりつつありますね。企業に属しながら個人発信のビジネスを展開する、といったスタイルが生まれています。今の私がそうです。シェアリングエコノミー協会の本部はガイアックスの本社ビルの一室にありますが、本社ビルはガイアックスという社名は使わずGRiDという名称にしています。そして私自身も、ガイアックスの社員であることは最近はあまり知られていないのです(笑)。

しかし、私自身のシェアハウス事業の経験を活かして、仕事をすることで、ガイアックスには、新たなビジネスフィールドが生まれています。つまり、私が個人としてシェア事業を進めていくことで、企業はコストを抱えずに新しい事業を内包することができているのです。企業も個人もwin-winの関係を作っていけると思いますね。

企業にしても、従来の日本企業のような管理型のトップダウン方式は減っていくと思います。社員自らやりたいミッションを見つけて社内外でチームを作り、自分で決めた目標に向かうといった自己管理を推進する企業が増えていくでしょう。

物静かながら淀みない語り口から、シェアリングエコノミーの普及と啓発にかける熱い思いが伝わってきます

シェアリングサービスで「やりたいこと」は実現しやすい環境に

―シェアリングエコノミー協会は「個人が主役となり活躍する社会」ビジョンを実現するためにどのような活動をしていますか。

日本では、カーシェアリングやシェアリングサイクルなどはかなり増えています。少子高齢化による過疎化のため助け合いが必要になって、シェアリングビジネスが生まれている地域もあります。自動車通勤者と通院のお年寄りによるライドカーシェアリングで廃線になったバスや電車の代わりにする、都心で勤めながら、地方にある人手不足の企業の仕事も両立できるワークシェアリングを導入するなどの動きが始まっているんです。

これからも新しいシェアリングサービスが増えて行くことは、間違いないでしょう。協会としては、色々な形のシェアリングサービスがあることを広め、一方でサービスの普及に伴い考えるべき法律の在り方や、福利厚生など、個人が企業に依存しなくても働きやすい環境作りを支援していきたいと思っています。また、自分自身はシェアハウスの運営をしながら、新しいシェアの在り方と具体的な活用の仕方を体現したいですね。

―では、あえて企業に属さない働き方も、選択肢の一つとして考えやすくなっていくのでしょうか。

これまで、起業やフリーランスで働くことは評価がわかりにくく、リスクが高いものでした。しかし、先程も言ったようにテクノロジーの進化により、個人でできることが確実に増えてきています。場所の所有から資金調達など、シェアリングという手段を利用すれば、どんどん可能になってくる。これは、単なる価値観の変容ではないのです。だからこそ、好きなことを仕事にしたい人や、やりたいこと仕事がある人には、非常に追い風だと思っています。

自分自身も、子どももいるシェアハウス、家族と一緒に住みながら民泊も併設した一軒家のように、ニッチだけど、ほかにはないものを作ってきました。この先を生きる人たちには、固定概念を持たずに、自分らしい生活を送るべきだと思っています。

―テクノロジーの発展や価値観の変化により、「シェアリングエコノミー」が浸透し、「好きなことを仕事にできる」環境は、着々と整いつつあるようです。新しいビジネスチャンスとして視野に入れながら構想を練ってみると、夢の実現への道筋が描けるかもしれません。 文:Loco共感編集部 杉本雅美

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