誰もが知っている“複数の要素”を使って、プレゼンを組み立てる──澤円のプレゼン塾(その23)
澤さんはプレゼン力を磨くには、連想力が欠かせないと言います。伝えたいものを「誰もが知っている事象」に例え、それを二つ以上の要素を組み合わせることで、連想力を鍛えるられるのだとか。
例えば「会社の持つ強み」をどうプレゼンしたら、相手に印象深く伝わるか──。澤円のプレゼン塾・第23回は、澤さん流の連想力トレーニング法をお伝えします。
澤円流「連想力トレーニング」のルーツ
突然ですが、澤はもともとITエンジニアです。
COBOLのプログラマとしてキャリアをスタートし、Visual Basicでコードを書いたり、Lotus Notesのインプリメントをしたり、ITコンサルタントとしてExchangeやSharePointの導入支援を行ったりしていました。
ただ、エンジニアとしての能力は、極めて低いと自分では思っています。コードは一発でコンパイルが通ることなんてありませんでしたし、製品仕様を理解するために、人の何倍も時間をかけて資料を読まなくてはいけませんでした。
後で調べてみてわかったのでしが、澤は脳の特性として最も向いていない職業がエンジニアだったのです。向いてないエンジニア職をなんと12年もやっていました。ある意味、「よくやった自分!」とも思いますし、「もっと早く気付けよ自分!」とも思います(笑)。
とはいえ、エンジニアとしての経験は無駄にはなりませんでしたし、「澤の説明はわかりやすい」と言ってもらえることがとても多かったです。
なぜこんな話をしているかというと、今回のテーマでもある「連想力」を磨いたことで、自分が大きな成功体験を得たことを知っていただきたかったのです。
もともとエンジニア向きではない自分自身に対して、ちゃんと理解させるためには、連想力は不可欠な能力でした。
そして、この能力は日々のちょっとした意識付けによって、誰でも伸ばすことができます。そのノウハウを皆さんにお伝えしたいと思います。
連想の具体例──マイクロソフトの強みをアピールするには?
では、連想に関する具体的な例を挙げてみたいと思います。
ためしに、私の所属しているマイクロソフトという会社について連想し、企業としての強みをアピールしてみましょう。
マイクロソフトの特徴をいくつか出してみます。 開発している製品がたくさんある 複数の製品を統合して使える 一つの窓口で、どの製品のサポートも受け付ける それぞれの製品に違う競合他社が存在する
こんなかんじでしょうか。
アピールしたいことは「企業としての強み」ですので、「競争力がある」ということを表現しなくてはなりません。そこで、「競争」から連想していきます。
連想は「誰もが知っている事象」につなげる
「競争」という言葉を聞いて、皆さんは何が連想できましたか?
社会人の方はビジネス上の競争を思い浮かべるかもしれませんし、プロ野球やJリーグのようなプロスポーツを思い浮かべる方もいるかもしれませんね。
また「競争」の読み方である「きょうそう」から、運動会の「競走」を思い浮かべた方もいるのではないでしょうか。
連想するときにぜひ心がけて欲しいのが「誰もが知っている事象」につなげることです。そうすれば、極めて汎用性の高い比喩表現を作ることができます。
運動会は誰でもやっていますので、なにかしらのスポーツ競技を連想するのは悪くなさそうですね。
二つ以上の要素を組み合わせて連想する
そして、もう一つの連想力を磨くポイントは、二つ以上の要素を組み合わせて連想することです。
前述したマイクロソフトの特徴の中に「たくさんの製品がある」というのがありました。ここで、「たくさん」と「スポーツ競技」を組み合わせてみましょう。
私はいいものを思いつきました。陸上競技の「十種競技」です。陸上競技の世界において、十種競技は「キング・オブ・アスリート(競技者の王)」と呼ばれる、陸上界での花形競技です。日本でもタレントの武井壮さんのおかげでずいぶん有名になりましたね。
十種競技は以下のような競技日程で行われます。 一日目:100m走・走り幅跳び・砲丸投げ・走り高跳び・400m走 二日目:110mハードル走・円盤投げ・棒高跳び・やり投げ・1500m走
一人でこれだけの競技をこなすのですから、王様扱いされるのも納得です。
ちなみに直近のオリンピックであるロンドン大会での金メダリストは、アシュトン・ジェームス・イートンさんというアメリカの選手です。
そして、一つここで気づくことがあります。この中にあるすべての競技は、単体でも行なわれ、それぞれに世界記録保持者がいるのです。
100m走であれば、ウサイン・ボルトさんが無敵の王者として君臨しています。ボルトさんのベストタイムは9秒58、アシュトンさんは10秒21ですから、100m走だけでこの二人が競った場合、結果はだいたい決まっていますね。(もっとも、10秒21だって、とんでもない記録だと思いますけど)
でも、もしも円盤投げと1500mも合わせて競ったらどうでしょう。おそらくはアシュトンさんが勝つのではないでしょうか。
ここでマイクロソフトの特徴とつなぎ合わせるわけです。
「たくさんの製品があり」「それぞれの製品に競合がある」のが特徴なので、十種競技とつなぎ合わせて強みをアピールするなら、「二つ以上組み合わせれば、どの競合にも勝てる」となります。
事実として、複数製品を組み合わせれば、購入価格も安くなりますし、ユーザーは製品の管理もしやすくなります。
そのあたりを踏まえてプレゼンテーションすると、以下のような流れになります。
「マイクロソフトは十種競技の選手のような存在です。コンシューマからエンタープライズまで、多種多様な製品を開発・販売しており、それぞれにおいて業界でもトップクラスの地位にあります。
とはいえ、それぞれの製品ごとに強力な競合他社が存在することも事実です。例えばデータベースならオラクルさん、クラウドプラットフォームならAWSさん、検索エンジンならグーグルさんがいます。
でも、二つ以上の製品を組み合わせた場合、我々は非常に大きなアドバンテージを持つことができます。購入価格を安くすることもできますし、サポート窓口を一本化することもできます。また、相乗効果でそれぞれの製品の強みをより大きく発揮することもできます。
サポートという観点でいえば、十種競技の選手をサポートするスタッフは、一人の選手分で済みますが、十種類の競技を別々の選手で行うと、サポートスタッフは十倍必要になります。マイクロソフトはすべての製品のサポートを一社で行うわけですから、コスト削減にも貢献できます」
ざっくりこんなかんじでしょうか。
もちろん、私が別の会社に移れば、まったく違う形でその会社の持つ強みを連想してプレゼンテーションすることになるでしょう。
著者プロフィール
澤 円(さわ まどか)氏
大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術」
Twitter:@madoka510
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。
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