聞き手がワクワクするストーリーを仕立て、スライドを作る──澤円のプレゼン塾(その22)
「連想」を駆使したスライド作成・後編は、システムウェア移行の提案をするプレゼン資料を例に、スライド作成のコツを紹介します。
話す方も聞く方も楽しくなる、澤さんならではのスライド作成テクニックをお伝えしていきます。
不要なアプリケーションを「引越し前の荷物の仕分け」に例える
前回に続き、「システム移行」と「引越し」を掛け合わせてプレゼンテーションを作ってみたいと思います。
まず、「不要なアプリケーションの洗い出し」の部分。プレゼンの時、私は必ずこう切り出します。
「皆さん、引越しの時最初に何をしますか?」
ピンときてないようなら、こうかぶせます。
「すべての荷物をダンボールに詰め込むことはないですよね?」
そう、荷物の仕分けがまず必要であることを理解してもらうのです。
実際の引越しの時も、要るものと要らないものに分けて、箱に詰めたりゴミとして処分したりするのではないでしょうか。既存のシステムの棚卸をする作業を、「引越し前の荷物の仕分け」になぞらえて理解してもらいます。
システムの移行で、もっとも陥りがちな罠は、「すべての機能やデータを新システムでも再現しようとすること」です。
これは、保守的な日本人の国民性を色濃く写し出している傾向です。ほぼすべての顧客が、とにかく全部持っていこうと最初考えます。
でも、実際の引越しで「前と全く同じ部屋を再現したい」と思う人はあまりいないと思います(一部例外はいるでしょうが)。どちらかといえば、より便利で洗練された生活をしたいと考えているのではないでしょうか。
そう考えれば、陳腐化したもの、完全に時代遅れになったものは捨ててしまって、身軽になって引っ越した方が心豊かに暮らせるはずです。
そのことに気づいてもらうために「引っ越すときにまずやること」としての「荷物の仕分け」を連想して、それに伴う作業の詳細と、得られるメリットについて語るわけです。
ただ、「不要」という言葉を顧客が開発したアプリケーションに向けて発してしまうのは、ちょっと心遣いがないとも言えます。もちろん、実際にはそのようなアプリケーションはあるでしょうが、あなたに言ってほしくはないかもしれませんね(笑)。
その辺りもふまえて、ちょっと表現方法を工夫したいと思います。 すでに利用する頻度が下がっていることがはっきりしているアプリケーション 特定の人たちがごくたまにしか使わない機能
上記のようなものから、また連想してみます。
家の中の「滅多に使わないもの」の代表格はなんでしょう──おそらく、シーズンが限られる趣味のグッズなどが該当するのではないでしょうか。キャンプ用品やスキー用具などです。これらのものは、かなり長期間タンスの肥やしになっていることでしょう。
とはいえ、単価が安いものでもないので、捨てるには惜しい。ではどうするか。
「みなさん、滅多に使わないものってリビングや寝室に置かないですよね?」
「であれば、そういうものは別に借りた倉庫に置いておけば部屋は広く使えるし、機材も無駄になることはありませんね」
といったかんじに論理展開できます。これをスライドに落とすわけです。
重要なアプリケーションを「家具の新調」に例える
次は「重要度に応じた移行アプリケーション選定」の項目です。これも引越しに絡めて連想してみましょう。
パッキングの時、引越し先で必ずすぐに開ける箱には何が入っているべきでしょうか。これは2種類あります。「すぐ使うもの」と「すごく大事なもの」です。
「すぐ使うもの」というのは、寝具や洗面用具、日常の洋服の類です。そして、「すごく大事なもの」は、実印や銀行通帳、各種契約書や証明書の類です。
上記の二つの特徴を持つアプリケーションをそれぞれ紐付けて考えると、棚卸しがとても楽になるのではないかと思います。
「すぐ使うもの」に該当するアプリケーションは、日次でデータ入力が求められるようなアプリケーションになるでしょうし、「すごく大事なもの」は機密情報や顧客データ、設計データなどが含まれるアプリケーションになります。
このようなアプリケーションの移行重要度は高いと言えるので、プライオリティを上げて対応する必要があります。これらのアプリケーションの移行はしっかりと準備をするだけの価値がある、という共有認識をしっかりと作ります。
最後の「移行後必要となるアプリケーションの新規開発」は引越しとどう紐付けましょう。実際のプレゼンテーションをイメージしてみましょう。
「引越し先の家具が、何から何まで前の家のままでは、ちょっともの足りないかもしれません」
「引っ越した先がモダンなデザインのフローリングの部屋なのであれば、長年使ってきたこたつなどは今一つ雰囲気に合わない可能性があります」
「そこがまさに投資のしどころ。部屋に合った家具を新調するのは、生活を豊かにするだけではなく、利便性も大幅に向上することでしょう」
このストーリーをスライドに反映させてみることにしましょう。
「アプリケーションの作り直し」という印象を持つとネガティブに感じる人もいますが、新居に合う家具を新調する、という観点で考えれば、同じことであっても印象がずいぶん変わるはずです。
とかく「木を見て森を見ず」になりがちなシステム移行という話題を、「引っ越し」というキーワードを使うことによって、できる限り俯瞰しつつポジティブな意識で取り組んでもらうための工夫をしてみました。
当然、引っ越しは誰にでもわかるキーワードなので、この連載でなどか取り上げさせてもらった「伝言ゲーム」でも効果を発揮します。社内で稟議を回したり上司の方の了解を得たりする時にも、この比喩表現は十分に使えるはずです。
連想力を駆使してプレゼンテーションを作れば、話す方も聞く方も楽しいスライドを作ることができます。
次回は、この連想力をいかに鍛えていくか、そのトレーニング方法について考えてみたいと思います。
著者プロフィール
澤 円(さわ まどか)氏
大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術」
Twitter:@madoka510
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。
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