劣等感や嫉妬を燃料に変えてお笑い界を爆走してきた山ちゃんの自伝エッセイ
今やテレビで見ない日はないと言ってもよい、お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さん。皆さんは彼に対してどんなイメージを持っていますか? 陰湿そう、姑息、毒舌、キモい、アイドルオタク……いろいろあるかとは思いますが、彼の漫才やテレビ番組でのコメントを見るに、そのボキャブラリーの豊富さについては誰もが満場一致で認めるところではないでしょうか。
あの返しのキレや語彙力は生まれもっての天賦の才に思えますが、けっしてそうではないと本人はいいます。「自分は天才じゃない」と悟った日からの自身のこれまでをさらけ出して記した自伝エッセイが本書『天才はあきらめた』です。
テレビでの姿からもちょいちょいわかることですが、山里さんは自身の負の感情を見せることを厭いません。というわけで、本書でもこれでもかというほど彼のダークな部分が出てきます。
NCS(吉本総合芸能学院)時代に同期のキングコングに感じた圧倒的な敗北感、元相方ふたりに対する理不尽で横暴すぎる言動、他の芸人や業界関係者に対する復讐の言葉を綴った地獄ノート、南海キャンディーズとして人気が出た後のしずちゃんに対する嫉妬や不仲……これらはすべて本書の中で赤裸々に書かれていること。
けれど、こうした部分は誰もが多かれ少なかれ、心の奥底に持っている感情ではないでしょうか。そして、世の中の人々の99.9%は天才ではないという現実。その中で、どうやって私たちは劣等感や挫折感と向き合い、夢を叶えるためのエネルギーへと変えていけばよいのか。本書で山里さんは「天才はあきらめた。だけどその瞬間、醜い感情は一気に自分の味方になった。その感情を燃料に変換させるワザを使うことで、努力というしんどい行動が簡単にできるようになったから」と記しています。本書は自伝エッセイであるいっぽうで、負の感情を燃料へと変える方法を山里さんの生き方を通して教えてくれる実用書でもあるのです。
……とはいえ、それでもやはり山里さんは天才だという思いが読み終えた後に強く残ります。それは「努力の天才」。「天才はあきらめた」と言って見せつつも、彼がこれまでやってきたことは凡人には到底できないような狂気とも思えるほどの努力。好きなことに対して死ぬほどの努力ができること、そしてそれが結果として身を結ぶこともまた天才の天才たる所以といえるのでは。
2018年7月の発売以来、約2か月で発行部数10万部を突破したという本書。大ヒットの理由は文筆業もこなせる山里さんのマルチな才能があげられますが、その陰には自身でさまざまな書店に飛び込みをして2000冊以上のサインを書いたという地道な営業活動があるのも事実。これを見てもやはり、努力肌の天才の片鱗がうかがえはしないでしょうか。
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