プレゼンの「核」を作るために必要な棚卸しとは──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その4)

プレゼンの「核」を作るために必要な棚卸しとは──マイクロソフト澤円のプレゼン塾(その4)

プレゼンテーションの何を「核」にするかということが、非常に重要であることは前回(第3回)お伝えしました。では、具体的にどう棚卸しすべきなのか?

技術プレゼンのエキスパート澤円氏による「プレゼン塾」第4回は、プレゼンの「核」を作るための棚卸しの方法に関する講義です。

棚卸しの方法──エンジニアになるまでのプロセス

プレゼンに必要な棚卸しとは具体的にどんなことを指すのでしょう?

これは、レジュメ書きほど丁寧に自分の歴史を洗い出さなくても、もう少し直観的なものでも構わないと思っています。
子供のころから家にコンピュータがあり、触るのが好きだった 映画の中でエンジニアがコンピュータを操っている姿がかっこいいと思った 学校の成績で理系の方が得意だったので、何となく流されているうちに

この程度で十分です。

これくらいの情報があれば、十分に「核」を作ることができます。この情報を念頭に置いて、プレゼンすべきテーマを思い描いてください。そうすると、そのテーマの伝え方が変わってきます。

もともとコンピュータを触るのが好きだったあなたは、長年の経験に裏打ちされた技術的なスペシャリストと言う視点からプレゼンを構成しましょう。

映画のエンジニアに憧れたあなたは、よりキャッチーな表現を織り交ぜながら、印象付けを狙いましょう。

なんとなくエンジニアになった人は、文系の人に教えるような平易さをもって表現しましょう。

これがプレゼンテーションにおいて、あなたにしか出せないテイストの一番根底に流れる要素になり得るのです。

これらのバックグラウンドを、あえて説明する必要はありません。せいぜい一言「子供のころからずっとパソコンを触っていたのですが」とか「好きな映画の中に登場したエンジニアに憧れて」とか、自己紹介の中で軽く触れれば十分。

でも、プレゼンテーションにおいては、このバックグラウンドこそが下地になって展開されていくのです。

棚卸しの方法──エンジニアとしてのタイプ

そして、自分はどのようなタイプのエンジニアなのか、しっかり棚卸しするのも大事です。

これは経済産業省などが指定したカテゴリがあるわけではありません。自分なりにぼんやり分ければ十分です。
スマートなUIを追求するデザイン志向 コードの美しさを追求する芸術家肌プログラマ あまり細かい技術は知らないけど、話題のものは一通り触って覚える新しもの好き

どれも素敵な個性です!すべてがエンジニアに許された生き方です!こういった自分のタイプを理解することも、プレゼンテーションがぶれなくなる「核」を構成する要素になります。

自分のエンジニアとしてのタイプを理解することは、「自分の視点」を理解することで「他者との違い」を意識するために、必要不可欠なプロセスです。このプロセスを経ることで、「自分の興味範囲に偏った独りよがりなプレゼンテーション」になることを防ぐ効果があります。

自分の興味範囲がそのまま他者の興味範囲ではないことは、皆さん理解できると思います。でもプレゼンテーションをするとき、ついついそれを忘れて話してしまい、相手に理解されないプレゼンテーションをしてしまうこともあるかもしれませんよね。

営業やマーケッターは、顧客を意識したり市場を意識したりすることが、業務特性上強く求められます。でも、エンジニアなどは、どちらかといえば技術偏重になりやすい。つまり、自分の興味範囲のことを語りやすい傾向があるのです。

自分のタイプを踏まえた上で、次に説明する「何を届けることができるのか」「どのように相手に力になれるのか」を意識して話せば、まさにエンジニアしかできない、素晴らしいプレゼンテーションを行うことができます。

言葉は自由です。ぜひ自分のエンジニアとしてのタイプを定義してみてください。

棚卸しの方法──何を届けることができるのか、どう力になれるのか

さあ、いよいよあなたが「何を届けることができるのか」「どう力になれるのか」を考えるフェーズです。

これ、「明日から御社に3か月常駐してこの作業をします」とか「今日からずっと社内のサーバールーム内で不眠不休でメンテナンスします」とか、無茶な約束することではないので、くれぐれも勘違いしないように(笑)。

プレゼンテーションのたびにそんなコミットをしていたら、24時間365日働いても間に合わなくなってしまいます。

プレゼンテーションを通じて「私の持っている知識・経験は必ずあなたの役に立つ」と印象付けるのが最大の目的です。

それはすなわち聴衆の「このプレゼンテーションを聴けば自分は得をする」という心理状態を作り出し、満足度を高めることができます。そのためには、「もし自分がプロジェクトを任されたと仮定して、どのように実現するか」をイメージすることが必要になります。

実現方法がまったく思いつかないとすれば、プレゼンテーションは極めて表面的なものになります。もし自分が実際に働くとして、リソース配分はどうするのか、発注先はどこにするのか、開発までの期間はどの程度か──ということを具体的にイメージします。

おそらく、すべてを網羅するイメージが頭に描ける人はごくわずかでしょう。でも、具体的である部分が少しでもあれば、そこがあなたの「強み」であり、「核」を作る上でもっとも大事な要素の一つとなりうるのです。

自分の強みを知れば、それ以外の部分もわかります。そして、自分が知識を持っていない領域や専門外のタスクの部分は「誰ができるのか」「どのような事例があるか」を調べれば十分。全部あなたがやる必要はないのですから。

以上の3ステップが、プレゼンの「核」を作るための事前準備です。

次はいよいよ、「核」そのものを作るプロセスをご紹介します。

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著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界世界No.1プレゼン術」

Twitter:@madoka510

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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