VOL.40 井之脇海さん(俳優・映画監督)

VOL.40 井之脇海さん(俳優・映画監督)

若手実力派俳優との呼び声高い、井之脇海さん。実は映画監督として作品を手掛けたこともあり、自らが出演、監督、脚本を務める短編映画『言葉のいらない愛』は、カンヌ国際映画祭マルシェ・ドゥ・フィルムの「ショートフィルムコーナー」に並んだことで大きな注目を集めています。そんな井之脇さんは、どんな作品からインスピレーションを受けることがあるのでしょうか。ご本人にお話を伺いました!

◆◆◆

——話題の作品『言葉のいらない愛』ですが、学生時代に撮影したと伺っています。
井之脇さん(以下、敬称略):大学一年のときに撮影しました。小学生の頃から役者をするなかで、たくさんの現場でいろいろな監督と接する機会をいただき、映画をいろいろな側面から見て、高校生の頃から映画を撮ってみたいという気持ちが出てきたんです。当時は芸能コースのある学校に通い、役者をやっているクラスメイトがたくさんいたので、彼らと作品を撮ったりしたら楽しいんじゃないかとぼんやり考えたんです。

——この作品、山奥に一人で住む男のもとに、ある日言葉を操ることができない少年が現れて二人で暮らし始める、というストーリーから始まりますね。
井之脇:タイトル通りセリフがひと言もない作品となっているんですが、仕草や目線一つでどうやったら伝わるかにこだわりました。おそらく観る人によって、僕が意図したことと全然違った風にとらえてくださる方もきっと多いと思います。役者だからこそ撮れて、なおかつ監督業を職業にしていないからこそ自由に撮れたというか。自主製作というものの強みを活かすということを考えて、役者がやるからこその脚本、演出、カメラワークなどに力を注ぎました。

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——俳優である井之脇さんだからこそできた作品というわけですね。ところで、井之脇さんはどんな映画が好きなんでしょうか?
井之脇:レオス・カラックスが僕にとって大きな存在で、映画が好きになったきっかけでもあります。それと、カラックスと相反するんですけど、デヴィッド・フィンチャーも僕の映画の入り口となった人物で、特に『ファイト・クラブ』(1999年)が好きですね。

——ブラッド・ピットが主演の名作ですね。
井之脇:そうです。僕はフィンチャーの作品がすごい好きなんですが、『ファイト・クラブ』は構成とかサブリミナルを使ってるところとかがすごい好きで、かっこいいですし、本当にこだわってるんだろうなって思います。それと、『ゴーン・ガール』(2014年)も。

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——こちらはベン・アフレックが主演の作品。
井之脇:彼女が演じる主人公の家の照明なんですが、豆電球とかを含め50灯くらい焚いているらしいんですよ。それぐらい完璧主義で。なおかつ、エキストラが外を通るタイミングに納得がいかなくて「グリーン」を張ってCGで変えたらしいんですよ。それぐらいこだわっているんですね。それであんなスタイリッシュでかっこいい映画が撮れるっていうのがすごいなって。キメキメでかっこ良くて勢いがあって、でも重いテーマがあって、どちらかというと衝動的なのに、結構見やすい作品になっていると思うんですよね。

——なるほど、ひとつのシーンにおいて手を抜かない感じなんですね。
井之脇:ええ。相反してカラックスは、映画を観慣れてない人にとっては一見「何だこれ」っていうような世界かもしれないですけど、人物だけを切り取ってないというか、街の中に人が動いてるというか……人を動かす物語じゃなくて、空気が動かす物語、そういう世界観がすごい好きで。この作品、高1のときに出合ったんですが、それまでは役者とか現場が好きだったんですけど、映画の幅の広さを知ったというか……映画が好きになったのはまさにこの作品を観てからなんです。

——ちなみに、ジャンルでいうとどういう映画がお好きなんですか?
井之脇:幅広く好きなんですが、先ほどもお話した通り、人が進める物語より空気が進める物語が好きなんです。日常を切り取っているような作品。人が頑張って次の展開に進めていくんじゃなくて、しかるべくしてそういう流れになっていくというか。もちろん、キメキメでかっこよくて、「今から殺しに行くぞ!」みたいな映画も好きですけど(笑)、でも本当の好みはやっぱり「リアルな映画」っていったらいいですかね。

——井之脇さんが映画を撮る際、そういった部分というのは影響を受けたりしているんでしょうか?
井之脇:切り取り方とかはもちろん影響を受けています。ただ、『言葉のいらない愛』に関しては、全然日常じゃなく世界観的にはぶっ飛んでるので(笑)。たとえば是枝裕和さんの作品『空気人形』(2009年)もそうだと思いますが、(人形が)心を持つというのは非日常ですが、作品としては日常的でリアル。そういうシチュエーションのなかで、リアルを切り取ったような作品が好きですね。あとは、育児放棄された子どもたちのリアルな生活を映している作品とかも興味があって影響を受けたりしていると思います。

——最後に、俳優としての今後の活動についての抱負をどうぞ!
井之脇:映画を始めとした映像作品に少しでも多く長く関わっていきたい、本当にそれだけです。1本でも多くの作品に役者として関われるには、少しでもいい役者にならないといけないなと思っています。そのなかで、見た目は変わらなくても、役によって中身がちゃんと変わる人になりたいです。見た目はもう努力の問題。筋肉ゴリゴリに付けるとか髪を坊主にするとか。そこじゃなくて「内側」でちゃんとその役になって変わって。役としていろいろことに反応ができる役者になりたいですね。

(取材・文/小山田滝音)

***

レイトショー『愛と酒場と音楽と』
9月29日、渋谷ユーロスペースにて上映


『言葉のいらない愛』
出演:沖正人、井之脇海
監督・脚本・編集:井之脇海

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『BOURBON TALK』
出演:雑賀克郎、桑山元、宮崎恵治、豊田崇史他
脚本:沖正人
監督:コーエンジ・ブラザーズ

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『BEATOPIA』
出演:佐久間悠、黒さき海斗、小川紗良、麗俊浩他
監督・脚本・編集:小川紗良
制作:BEATOPIA製作委員会

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