けやき坂46が“走り出した瞬間” 全国ツアー最終日に見た未研磨の可能性
けやき坂46の1stアルバム『走り出す瞬間』のリリースに伴う全国ツアー【けやき坂46「走り出す瞬間」ツアー2018】が、7月10日の千葉・幕張メッセイベントホール公演をもってフィナーレを迎えた。
2016年4月に欅坂46が1stシングル『サイレントマジョリティー』でセンセーショナルなデビューを果たし、その後も世間の興味を惹き続ける中、2016年5月より本格始動したけやき坂46(通称:ひらがなけやき)は、“欅坂46”名義でリリースされるシングルやアルバムの収録曲を担当しつつ、2017年以降は単独ツアーの開催や2期生メンバーの加入、地上波でのレギュラー番組開始など、独立したグループとしてのキャリアも着実に積み重ねてきた。そして6月20日、ついに“けやき坂46”名義の最初のパッケージ作品として、1stアルバム『走り出す瞬間』をリリースしたのだ。
前述の通り、単独ツアーは過去にも行っており、今年1月には欅坂46のワンマン公演の振替も含めるものの、日本武道館公演3daysを敢行した。とはいえこれらのライブのセットリストは、「欅坂46のシングル/アルバムに収録された自分たちの曲 + 欅坂46のカバー + α」といった構成であり、欅坂46の後続グループ的な印象を拭い去るものではなかったように思う。なので、1stアルバム『走り出す瞬間』を引っ提げた今回の全国ツアーは、けやき坂46が自分たちのレパートリーだけで組み立てることができる初めての単独ツアーであり、これまでの微妙な立ち位置を確固たるものにする、つまり本当の意味でけやき坂46がデビューを果たすための全国ツアーだったわけだ。
形態別で収録曲が異なるアルバム『走り出す瞬間』のエンド・トラックの一つ「ひらがなで恋したい」からスタートしたツアー最終公演。1冊の分厚い本を模した大スクリーンが存在感を放つステージは図書館を連想させる趣向で、ショーの内容もこれと紐づき、まるでいくつもの短編小説が次々と語られていくように、個性豊かな楽曲群がそれぞれの世界観を表出させていく。装飾や衣装、ライティングまでを含めて、ステージ・プロダクションのバラエティが効いたエンターテインメントだ。1期生による青春サマー・チューン「おいで夏の境界線」も、一転して2期生がアンニュイな歌声を聴かせる「最前列へ」も、テンションの上下動で振り回すのではなく、歯切れの良いメリハリがむしろ進行をリズミカルにしていて、雑多な音楽性を飲み込んだアルバム『走り出す瞬間』のアイドル・ポップス金字塔たる所以を物語っていた。
この【けやき坂46「走り出す瞬間」ツアー2018】は、今まさに走り出したばかりの彼女たちが、それでは果たして今後どの方向に向かって走っていくのか、その選択肢の無限大な可能性を示す日々であった。5都市を巡る中距離走ではあったものの、ツアーを通してパフォーマンスの練度は確実に高まっていき、各々の、特に新人の2期生たちもそのポテンシャルを徐々にアピールするようになってきた。自称“パリピちゃん”の2期生メンバー、富田鈴花による特技のラップから、各メンバーがスクリーンに映されるテーマ・キーワードに沿ったダンスを披露したダンス・トラック・パートも、個性豊かなメンバーが揃うけやき坂46らしい演出。
個を抑圧する社会を風刺した「こんな整列を誰がさせるのか?」は、欅坂46が発する痛烈なメッセージ性とも共振するし、「サイレントマジョリティー」や「不協和音」も手掛けたバグベア作曲の「未熟な怒り」は、ラテン調のパーカッシブなギターとフルートの音色が内省的なリリックと共に哀愁を漂わせる。誰よりも欅坂46に憧れ、誰よりも近い距離で彼女たちを見てきたけやき坂46が、そのフォロワーとして活動していくのだとしたら、この辺りの路線だっただろうか。ただ、これらは飽くまで一つの作風の域を出ることはなく、むしろけやき坂46の表現領域の広さを示す格好となった。
中盤にはユニット・パートも展開。富田鈴花、金村美玖、松田好花が昭和歌謡の色気すら放った「線香花火が消えるまで」、天真爛漫で親しみやすそうな佐々木美玲が純白ワンピースに身を包み、霞を食べていそうな儚さを醸し出したソロ歌唱バラード「わずかな光」と、メンバーの新鮮なキャラクター性が顔を覗かせる場面もあれば、齊藤京子のソロ「居心地悪く、大人になった」では、天性の低音イケヴォイスが存分に生かされ、松田好花、宮田愛萌、そして猫耳を付けた金村美玖と丹生明里の4名が歌った「猫の名前」では、他メンバーもスタンド通路まで飛び出して持ち前の愛嬌を届けに行く。欅坂46が打ち出すシリアスな世界観に対するある種のカウンター・イメージとして、グループの差別化を図る武器となっている“ハッピー・オーラ”の訴求と、その対極な往来から抜け出すように、あらゆる方向に個性を花開かせていく同心円状の成長、その二つを同時進行させているのが、今のけやき坂46だ。
アルバムのリード曲「期待していない自分」から、渡邉美穂の激励シャウトを受ける形で1期生による「永遠の白線」、2期生による「半分の記憶」、再び1期生による「誰よりも高く跳べ!」とノンストップで会場の熱を上げていき、さらに“ハッピー・オーラ”の代名詞とも言える「NO WAR in the future」を息つく暇もなく畳みかけ、「車輪が軋むように君が泣く」で場内大合唱のカタルシスを迎えた地点は、間違いなくこの日一番のピーク・ポイントであったと同時に、メンバーのフィジカルの強さがまざまざと感じられる一幕でもあった。
アンコール冒頭、「今日ライブに出てないメンバーがいますよね?」と佐々木久美に呼び込まれたのは、学業に専念するため一時活動休止を発表していた影山優佳。「ひらがなの大切なデビューのライブに参加することができて嬉しい」と話し、「今このステージに立って思ったことは一つです。やっぱり私ってひらがな(けやき坂46)が大好き」と率直な想いを吐露。続けて「みんながこうして頑張ってくれている分、私もちゃんと高校を卒業して、自分の夢に向かって、自分の力で、自分の意志で進んでいけるように頑張ります」と力強く語ったのだった。影山は後のパフォーマンスにも参加。初期の持ち曲である「ひらがなけやき」と「僕たちは付き合っている」を1期生で披露し、アンコール・ラスト「約束の卵」、そしてWアンコールに応えて「NO WAR in the future」を再投下し、メンバー20人全員で文句なしに感動的な大団円を迎えてみせた。
まだまだ坂を上り出したばかりのけやき坂46。いくつものダイヤの原石のような可能性を秘めた彼女たちが“走り出す瞬間”に立ち会えたことを語り継ぎたくなる、そんなメモラブルな一夜になった。
Text by Takuto Ueda
Photo by 上山陽介 / Yuma Tostuka
◎公演情報
【けやき坂46「走り出す瞬間」ツアー2018】
6月04日(月)神奈川・パシフィコ横浜国立大ホール
6月05日(火)神奈川・パシフィコ横浜国立大ホール
6月06日(水)神奈川・パシフィコ横浜国立大ホール
6月13日(水)東京国際フォーラムホールA
6月27日(水)大阪フェスティバルホール
6月28日(木)大阪フェスティバルホール
7月02日(月)愛知・名古屋センチュリーホール
7月03日(火)愛知・名古屋センチュリーホール
7月09日(月)千葉・幕張メッセイベントホール
7月10日(火)千葉・幕張メッセイベントホール
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