むくの木と手仕事にこだわる家具職人・松岡茂樹さんが語る「むく」の魅力
自然素材が好きで、家や暮らしに取り入れている人は多くいる。では、自然素材を扱う人は、その魅力をどう捉えているのだろう。むくの木と手仕事にこだわる家具職人、松岡茂樹さんに話を聞いた。
むくの木に、同じものは一つとしてない
工芸品のような美しさとオリジナリティーをもちながら、しかし、作品ではなく、プロダクト。職人集団KOMAによるむくの木の家具は、親方の松岡茂樹さんがプロトタイプをつくり、弟子たちによって製品化されていく。
「道具をつくる職人として“本物の家具”を追求した結果です」
本物の家具づくりに妥協は許さない。そんな松岡さんが素材として選んだのが、むくの木だ。
「天然の素材ですから、同じものは一つとしてない。同じウォールナットの板でも堅さや木目の入り組み方など一つひとつ全て違って、その板にはそのときしか出合えません。一期一会なんですよ」
それにどう刃を当てて、板も自分も喜ぶような家具に仕上げていくのか。
「生来の飽き性の僕が夢中になってこの仕事を続けているのも、そこが面白いからでしょうね。意外かもしれませんが、僕は樹種にも無頓着。どの樹種かより、目の前の板がどんなものかが大事。常に一対一なんです」
中には、職人魂を刺激されるような飛び切りの木目をもつ板も。
「自然がつくるものには作為がない。だから美しい。その無作為の造形美を、なんとかして製品に落とし込みたいと思うんですよ」カンナや刀などの道具は各自が専用のものをそろえ、メンテナンスしながら使いやすいよう慣らしていく。松岡さんは「自分の道具は人に指1本触れさせない」とか(写真撮影/菊田香太郎)
月日とともにキズも含めて熟成していく
KOMAの家具がむく材でなければならない理由はもう一つ、時間の作用だ。年月とともに劣化する素材は使いたくないという。
「例えば合板などのキズは、月日がたってもキズのまま。しかし、むくの木ならキズも含めて熟すように古くなる。大きな差です」
古さがむしろ味になる。いうなれば、経年劣化ではなく経年美化。目指すのは、「長く、愛着をもって使ってもらえる家具づくり」だ。
「木の家具をずっと使っていると、いつも触る場所に艶が出てきたりしますよね。その人の暮らしのクセみたいなものを映し出すようになって初めて、一つのプロダクトとして完成するんじゃないかと」
特に椅子には思い入れがある。
「人がその体を預ける家具で、最小単位の生活空間といってもいい。座るのに決まった姿勢があるわけではなく、斜めだったり、もたれたり、足を組んだり。どう座っても心地いい形に削り出すことをいつも考えているけれど、終わりがないですね」
座り心地と同じくらい、触り心地にも気遣っている。肌に直接触れたとき、気持ちいいと感じるかどうか。ウレタン塗装では得られない本物の木の手触りを、自ら確かめながら削っていくのだ。
「相棒として共に暮らすように使い込んでもらいたい。やっぱり、むくの木以外にないんです」木の匂いと木粉が立ち込めるKOMAの工房には制作途中の家具が並ぶ(写真撮影/菊田香太郎)
KOMAの家具づくりは、作業のほとんどを人の手で行う。刀を使って削り出した木の風合いは、機械では到底たどり着けないものだと考えるからだ。いよいよ汚れがひどくなっても、むく材なら表面を削ればきれいになる。子や孫の代でも使えるだろう。世代を超えて愛されるのが本物の家具であり、自然素材だ。●取材協力
家具職人/親方(KOMA代表取締役)。
1977年東京都生まれ。幼いころから絵を描いたり、ものをつくったりすることが大好きで、美術学校に進学。卒業後は家具製造会社に入社し職人修行を開始。2003年に独立し、「KOMA」を設立。2013年に直営店を開設した。家具製作を中心にさまざまなプロジェクトにも参加し、国内外の賞を受賞。趣味はバイク、スケボー、スノボー、サーフィンと幅広い。
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