【NHKサッカー解説者福西崇史】元日本代表直伝!“裏話”を知ってW杯を10倍楽しむ方法
いよいよ始まるサッカーFIFAワールドカップ2018:ロシア大会。4年に一度、世界中が熱狂するサッカーの祭典を、心待ちにしている人も少なくないだろう。では、今回のワールドカップの見所はどんなところにあるのか。お話をお聞きしたのは、NHKサッカー解説者として日本代表の初戦6月19日のコロンビア戦などをはじめテレビ中継で解説する元日本代表・福西崇史さん。2002年のトルシエ監督率いる日韓ワールドカップ、2006年のジーコ監督率いるドイツワールドカップに出場。2度のワールドカップを代表選手として経験している福西さんならではの、ワールドカップの楽しみ方を聞いた。
国歌が流れる瞬間「日本を背負っているんだ」と実感
――サッカー選手にとって、ワールドカップというのは、どんな存在なんですか。
福西:プロサッカー選手にとってワールドカップは最高峰の舞台であり、それ以上の場所はない。そういう存在です。
――その代表に選ばれるというのは、やはり特別、なのですね。どこで知るんですか。
福西:日本代表の発表は、事前に個別連絡とかはないんです。みんなと同じように、テレビで監督が発表しているのを見て、知ります(笑)。選ばれるとか選ばれないとか、それは監督が決めることですから、選手本人はもう意外に割り切れているんですね。むしろ、家族をはじめ周囲のほうがピリピリして、ドキドキしていたみたいです(笑)。
名前が呼ばれた瞬間は、もちろんうれしいですよ。でも、同時にすぐに、やらなきゃ、という気持ちに襲われます。プレッシャーが押し寄せてきますよね。
――福西さんは、実際に体験しておられますが、ワールドカップのピッチは、やっぱり特別な雰囲気ですか。
福西:思ってもないところ、でしたね。緊張しました。僕がはじめて出場した日韓ワールドカップのときは、足が震えました。やっぱり、ワールドカップへの思いが強ければ強いほど、緊張感は出てきてしまうのかもしれないですね。
それまで日本代表としていろんな試合をしてきましたけど、ワールドカップは特別でした。まったく違った。世界が真剣になる大会、というのを実感しましたね。ただ、経験というのは大事で、2度目のドイツワールドカップはそこまでの緊張はありませでした。ただ僕自身2度目の出場ではあったもののドイツでの開催でしたから、自国開催とはまた違う雰囲気もありました。
――満員で大歓声が鳴り響くスタジアムに入っていく瞬間は、さぞや気持ちいいでしょうね。
福西:入場するときは、本当に気持ちいいですよ。高揚感がどんどん高まってきます。あの瞬間は、みなさんにぜひ味わっていただきたいです。僕が一番、感動したのは、やっぱり国歌が流れているときでした。ああ、日本を背負ってるんだ、とそのとき改めて実感するんです。やるぞ、頑張るぞ、と。それはもう幸せです。
ただ、ここで緊張を高めすぎてもダメなんです。僕は日韓ワールドカップのときにそれを経験していたので、ドイツのときはできるだけリラックスして入るようにしていました。
合宿中は、DVDを見たり、研究したり、しゃべったり
――ちょうど今、選手は初戦に向けて準備をしているところだと思いますが、始まるまでは、代表選手はどんなふうに過ごしているんですか。
福西:普通に過ごしていますよ。毎日、練習が入っていて、チームでやるミーティングもあったりもしますけど、時間はたっぷりあって、自由です。本番に向けてどう調整していくか、個人に委ねられます。僕はDVDを見たり、ゲームをしたりしていました。選手によってはサッカーを見ていたり、相手チームを研究する時間に充てている選手もいました。散歩したり、寝ている選手も(笑)。
――選手同士のコミュニケーションは、どんな感じなんですか。
福西:僕たちのときは、みんなよく食堂に集まったりしてましたね。一人だと、だんだんやることがなくなるんですよ(笑)。今と違ってスマホもないし、一人一台パソコンを持ったりもしていなかったですし。ゾロゾロ勝手に食堂に集まってきて、気が付いたら2時間も3時間もみんなでしゃべってて、「そろそろ帰ってくれ」と食堂の人に叱られたりとか(笑)。サッカーの話もするし、遊びの話もするし、プライベートの話もするし。いろんな意味でコミュニケーションが円滑になったのは、良かったと思います。練習中でもゲーム中でも、コミュニケーションの取り方はとても大事ですから。
スターティングメンバーの発表は試合の数時間前
――福西さんといえば、ジーコ監督時代の2006年、当時の代表、中田英寿さんと練習中に言い合いになったと報道されて、話題になりました。
福西:あれは普通のことですよ。真剣になって言い争ったりするのは、今もやってるんじゃないかな。でも、争ってるわけではないですから。僕が思っていたのは、正解はない、ということです。どれが正解かわからない。だから、自分も意見を言って、知ってもらうことが大事。こうなったときは、こういう考え方があると思う、と伝える。
だから、「なんだよ!」なんてことにはならない。むしろ、そういうところから信頼感は生まれるんです。それまでにもいろんなコミュニケーションを取っていますしね。言い合っていたからって、どうなるわけでもない。
ただ、今はスマホもあったり、パソコンもあったり、一人で過ごせる時間が長いから、話す機会が少ないんじゃないか、と心配しています。表面的に仲良くなっても、あまり意味はないです。言うときは言えるようになっていないと。
――スターティングメンバーの発表はいつ行われるんですか。
福西:ジーコ監督のときは、練習の中身で、なんとかなくわかっていましたよね。でも、正式な発表は、試合の数時間前のミーティング。このとき、1、2人はメンバーが違っていたりもして。トルシエ監督のときは、直前までわかりませんでしたから、全員、緊張感を高めていました。
――大会が始まったら、どうなりますか。
福西:1戦目の結果にもよりますが、修正のポイントが見えてきます。2戦目のために、何をやるべきか、整理をしていきますね。個々もそうですし、連携もそうですし、チーム全体もそうですし。
大事なことは、そうやって修正ポイントをみんなで話す機会があることです。調子が良ければ、緊迫した話は少なくなります。ワールドカップ直前の試合でいい結果が出ませんでしたから、今はたっぷりやっているでしょうね。
直前が厳しい状況のほうが、意見はまとまりやすい
――監督が替わり、日本代表の最終発表がありましたが、どんなふうに受け止められましたか。
福西:経験者が多い、というのが第一印象でしたが、これはチームとしての柔軟性を意識してのことだと感じました。調子がいい選手を呼ばないのか、という声もありましたが、チームに合う合わない、という問題もあるんですよね。
若い選手が少ない、という声もあったようですが、逆に若い選手がいたら勝てるのか、となりますよね。その判断こそ、監督の仕事。ワールドカップは、結果を出さないといけない大会ですから。それを踏まえて、監督は判断したということです。前監督のスピーディーなサッカーを継続しながら、一方で選手と話をしながら、日本に合う形を作っていくのだと思います。
――となると、日本代表のキーマンは誰になりますか。
福西:やはりキャプテンの長谷部誠選手でしょう。日本人監督になって、選手の意見を日本語で伝えることができるようになった。それを取りまとめるキャプテンの役割は、より大きくなったと思います。チームづくりの担い手としての力が大事になってきます。
実際にどんなチーム戦術にしていくかは、やっぱり試合で合わせていくしかないんです。直前のガーナ戦では3バックをやってみたりしたわけですが、いろいろ試していきながら、積み上げていくしかない。
不安が多い中で、いつも以上にコミュニケーションは重要になってきます。それをまとめる役割をしないといけないのが、長谷部選手なんです。
強いチームは「ギアが変わる瞬間」が本当にある
――日本は「グループH」。コロンビア、セネガル、ポーランドと同じ組です。ここで勝ち抜くのは、やはり半端なことではない、ですよね。
福西:厳しいですね。でも、どの組に行っても厳しいです。ただ、かなわない相手ではない、というグループだとも思います。ブラジルやドイツなど、絶対的なチーム、というわけではない。あとは、戦い方をどうするか、です。
今のサッカーは、研究が本当にものすごいんです。膨大なデータによって、チームは丸裸にされます。そんな中で、どのチームも組織化されてきていますが、個の対策、チームの対策をうまくミックスさせて、まずは対策で相手を上回ることです。
――初戦は6月19日(日本時間21時)のコロンビア戦です。
福西:このグループでは一番強い、と言っていいでしょう。どう我慢するか、というゲームになると思いますが、コロンビアにとっても難しいのは、初戦だということです。絶対に避けなければいけないのは、負けですから。
だから、強豪チームでも様子見になって堅い試合になるというのは、初戦はよくある。ただ、このグループでは、他の3チームすべてが「日本からは勝ち点3」と計算しているでしょうから、後半からエンジンをかけてくるかもしれません。
いずれにしても、力のあるチームですから、攻めたくても攻められない、チャンスは少ない、精神力、集中力が問われる試合になるでしょう。それこそ前回大会でも、一気にギアチェンジをされて、惨敗してしまった。そういうことが起こるチームです。
僕もブラジル戦で経験していますが、強いチームは本当にギアが変わる瞬間があるんです。試合中、スイッチが入ったのが、わかりましたから。日本代表は常にギアを上げていかないといけないですね。
第2戦のセネガル戦は、どうしても勝ちたい
――第2戦は6月24日(日本時間24時)のセネガル戦です。
福西:コロンビア、ポーランドに比べれば怖さは小さい。ただ、個人の身体能力は高いです。ボールに足が届いたり、カバーできると思ったら振り切られたり、突拍子もないことが起きうる相手です。常に集中しておかないといけない。また、1対1に強いですから、抜かれたときにどうカバーできるか、助け合えるか、という視点も重要でしょうね。
僕もアフリカ勢との対戦経験がありますが、とにかく身体が強いので、思い切ってぶつかることです。相手も思い切りボールを奪いにきますから、加減する必要はない。あとは足が長いので、ボールをキープするときは普段よりも距離を取ったほうがいい。
この試合は勝ちたいですね。というか、決勝トーナメントに進むためには、勝たないといけない試合です。
――そして第3戦が、6月28日(日本時間23時)のポーランド戦です。
福西:しっかりと組織化されたチームです。3つの中では、一番きっちりしたチームですね。逆にいえば、対策がしやすい、ともいえます。もちろん強いんですが、意外に失点も多いんですね。そこをうまく突くことができたら、勝ち点を取りに行ける。
サイドバックが、高い位置を取ったりしますから、うまくサイドを使いながら攻められるといいですね。俊敏な選手が嫌がられると思いますので、俊敏な選手をうまく使ったら、と思います。
グループリーグ突破のベストシナリオは、コロンビア戦に引き分け、セネガル戦に勝ち、ポーランド戦に引き分けることですが、ポーランド戦のときには、1、2戦の結果がもう出ているわけです。それ次第でも状況は変わります。
ポーランドはすでに決勝トーナメント進出を決めている可能性もありますし、逆にこの試合で進出がかかっている可能性もある。いずれにしても、難しい試合になります。
応援している気持ちは、確実に伝わる
――ワールドカップ全体としては、どんなふうに捉えられていますか。
福西:今回は、波乱は少ないんじゃないかと思っています。気候も含めて、サッカーをするには、とてもいい環境です。対策もみんな練りますし、波乱は出にくいと思いますね。
個人的に注目は、やはりブラジルです。前回のブラジル大会では、開催国ながら準決勝でドイツに1-7と大敗した悔しさは、それはもう尋常なものではなかった。僕は現地で解説していたのですが、そのすぐ近くで中継していたブラジルのテレビ局の解説者が実況しながら号泣していました。サポーターも選手以上に熱いです。前回の雪辱で今大会にかける気持ちは、相当に強いと思います。
グループリーグで注目の試合は、ポルトガル×スペインですね。強豪同士が、グループリーグ突破をかけてどういう戦いをするか。激しい戦いになると思います。ベルギー×イングランドも注目です。日本が決勝トーナメントに進出したときに、当たる可能性がある相手です。
あと、メッシ率いるアルゼンチンが、悲願の優勝を達成できるか。ワールドカップ後に日本にやってくるスペイン代表、イニエスタも見ておいたほうがいいですね。こんな選手がJリーグに来るんです。
――最後に、ワールドカップを楽しみにしている人にメッセージを。
福西:応援してくれる人は、選手にとってはとてもうれしい存在です。その気持ちは、確実に伝わります。それこそ批判にしても、関心があるから批判しているわけですよね。愛情ある批判は、とても大切なものです。意見は本気でぶつけあったほうがいい。そして結果的に、応援している人にいい思いを持ってもらえることが、サッカー選手にできることだと僕は思っています。
だからこそ、一緒になって真剣に見てほしいです。そして、その中で楽しんでほしい。見ている人にそう思ってもらうためにも、僕は選手に楽しんでほしいと思っています。選手が楽しければ、こちらも楽しく見られるんです。
応援してくれる人のためにも、のびのびやってほしい。それこそ、自分のためにサッカーをしてほしい。自分のためにやることが、人のためになるから。僕はそう思っているんです。
文:上阪 徹 写真:刑部友康
編集:丸山香奈枝
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