河瀬直美監督「自然の環境がバランスを失っている」 最新作『Vision』に込めた思い

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河瀬直美監督「自然の環境がバランスを失っている」 最新作『Vision』に込めた思い
J-WAVEで放送中の番組『GOOD NEIGHBORS』(ナビゲーター:クリス智子)。6月5日(火)のオンエアでは、映画監督の河瀬直美さんが登場。吉野の森を舞台にした新作映画『Vision』について伺いました。

河瀬さんは、1997年の初の劇場映画『萌の朱雀』で史上最年少で第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞、2007年の『殯の森』で第60回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞しています。長編劇場映画では『2つ目の窓』(2014年)、『あん』(2015年)、『光』(2017年)などの作品を発表する傍ら、執筆活動や映画祭の審査員など、幅広く活躍しています。

■美しい自然の森が危機を迎えている

6月8日(金)から全国公開される、河瀬さん監督による最新作『Vision』。紀行文を執筆しているフランス人エッセイスト、ジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)が、1000年に1度姿を見せるという幻の植物「Vision(ビジョン)」を探すために、奈良・吉野の山深い森を訪れ、そこで山守の男・智(永瀬正敏)と出会い心を通わせていくというストーリー。

河瀬さんが「日本人の原点といえる場所」と語る吉野の深い森。ご自身は舞台となる美しい自然の森が危機を迎えていると感じているといいます。

河瀬:作品中で智も言うんですけど、「山の様子がおかしい」。毎日山に入ってこそ感じるんですけど、パッと見る感じは美しい自然なんですけど、風のなびきや、光の入り方など、「何かが少し違和感がある」と言うんですよね。その感じは私も数年と言わず、十何年という単位で感じはじめていて、それこそ『萌の朱雀』の頃からですね。土砂崩れがすごく頻繁に起きたり、自然の環境がバランスを失っているような感じで、そこで山守さんと知り合ったことから、この作品の構想がはじまっています。

■スクリーンなのに、気配が全部森だった

キャストはジュリエット・ビノシュさん、永瀬正敏さん、岩田剛典さん、森山未來さん、田中 泯さん、夏木マリさんといった顔ぶれ。河瀬さんは出演者について「森と一体化する人たちなんです。すぐに気配とか大地とかを感じて、そこにいてくれるというのがすごい刺激を受けましたね」と明かし、作品のストーリーや表現について話してくれました。

河瀬:「今って今かな? もしかして未来? 過去?」という時間の軸のズレみたいなものが、森にいると曖昧になってくるんですよ。木とかがそのままフワッと風を受けて流れると「私は今存在しているんだっけ?」というような、だからといって私はそこでわかりづらいストーリーではなく、むしろシンプルなストーリーを心がけたつもりなんですけど。
クリス:そこの流れは素晴らしいですよね。
河瀬:それね、吉野の森の山守さんがわざわざ東京の試写会に来てくださって、「吉野からすごい時間をかけて来たのに試写室に入って2秒で吉野に戻っちゃった」って。「スクリーンなのに、気配が全部森だった」って。それは音なんですね。音を映像以上にすごい纖細に作ってて。小曽根真さんの曲なんですけど、小曽根さんが何度も森に通って降りてきたメロディを弾いてくださった。そこでの実際の川の音とか、葉っぱが1枚落ちる音も纖細にデザインしているんです。

夏木さんや永瀬さんはクランクインの前から森で生活していたそうで、「なかなか大変だなと思う人たちもいると思いますけど、山小屋で衣食住のケアはしながら、気配が全く違うので、彼らが聞く音とか感じることというのは、都会からポッと来て演技をするのではなく、『生きる』ことを積んでいくという所作の中でカメラを介在していくという形だったんです」と撮影での取り組みを明かしました。

■人間と森、これからの関わり方は?

作品を通して感じるであろう、人間と森とのこれからの関わり方については、次のように思いを語りました。

河瀬:森の変化や様子を感じながら、何が変化しているのか、ものすごくみずみずしかった場所が乾いてきているなとか。雑木林だったところをスギ・ヒノキに植林するということは、人間が手を加えて山の植生を変えているわけだから、ずっと人間が手入れをし続けなければならないんですけど、それが担い手が少なくなってしまって、でききれてないという、人間本位の自然との向き合い方がバランスを失ってしまっているというところがあるので、もう一度私達がそこに心をよせて、ひとりひとりが「自然ってなんだろう」と。自然は物も言わないし、何か大変なことになっていても危機を知らせてくれるのではないのだけど、私たちが感じる気持ちで接していれば、何かが前を向いていくんじゃないかと。ジャンヌもここに入ってきて、すっと一筋の涙を流すんですけど、その涙の意味というのは、私はハッキリとは説明していないのですが、何か皆さんの中で感じてもらえること、それから一歩踏み出すことがあるんじゃないかと思っています。

トーク後半では、本作にも通じる河瀬さんの畑やお米づくりなども行う自然と共生した生活スタイルについて訊きました。

映画『Vision』は6月8日(金)から公開されます。ジュリエット・ビノシュさんは初日に関西、9日(土)は東京で舞台挨拶を行います。彼女が全国を行脚することは珍しいそうで、「彼女の森に対する想いや、2児の母として生きることへの真摯な取り組みのあらわれだと思う」と河瀬さんも語っていました。スケジュールなど詳細は公式サイトをご確認ください。

さらに9月20日から24日の日程で、河瀬さんがエグゼクティブ・プロデューサーを務める『第5回なら国際映画祭 2018』も開催されます。ご自身でも「神様のお庭で行うユニークな映画祭」と語るイベントにも注目です!

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【番組情報】
番組名:『GOOD NEIGHBORS』
放送日時:月・火・水・木曜 13時−16時30分
オフィシャルサイト:http://www.j-wave.co.jp/original/neighbors/

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