連日の日大アメフト部謝罪会見。マナーとしてはどう評価すべきか

連日の日大アメフト部謝罪会見。マナーとしてはどう評価すべきか

何のために開くのか?世界的にも珍しい日本の「謝罪会見」のマナーを検証

今ではすっかりおなじみになった日本の謝罪会見。皆さまはどんな気持ちで聞かれていますか?

私は毎回うんざりした気持ちで聞いていますが、今回は大学の運動部の不祥事に関する会見で、監督に続き学生までが記者会見を開き、さらにそれを否定するような会見が監督とコーチにより開かれ、その後学長の会見と、たてつづきに開かれたことは前代未聞ではないでしょうか。恐らく世界でもあまり前例がないことでしょう。

そもそも謝罪会見とは何か?どんな目的で、誰のために、マスメディアを通じて開いているのか?加えて、謝罪会見に当たり、服装や内容にこれといったマナーが存在するのか?今話題騒然の日大アメフト部の謝罪会見を検証してみます。

謝罪会見ではその時々に対して誠意ある対応が要求される

謝罪会見とは罪や過ちを詫びる目的で、マスコミに囲まれ公に対して謝ることと捉えられていますが、そうであれば該当するのは国家公務員や政治家の謝罪会見が中心になってしかりと考えます。

つまりそれ以外の人にはあまり必要ないと思いますが、最近では有名人や社会的影響力が大きい人が、何か不祥事を起こせば謝罪会見を開くのが当たり前になってきた感があります。

従ってテレビで謝罪会見を報道することについて、何ら不思議に思う人も少ないでしょう。ひとえにSNSの発達により、以前に比べて反響があまりにも拡大しすぎるからだと思います。だからこそ、その時々に応じた誠意ある対応が必要不可欠だと痛感します。

直ちに当事者に謝罪しなかった日大側の初期対応の悪さ

今回の日大アメフト部の謝罪会見しかりです。事の発端は大学同士の試合での出来事であり、そこでの不祥事が発覚してけが人が出たら、たとえ意図的である、なしにかかわらず、直ちに当事者に謝罪すべきだったのではと思います。

謝罪する相手は公に対してではなく、あくまで被害を被った相手チームの関学大アメフト部の学生や家族やチームに対してです。この点においても初期対応が非常に良くなかった感がゆがめません。

だから問題が大きくなり、これにSNSの力が加わり、事の重大性が世界規模に発展し大きな騒動になったのでしょう。そこで悪質な反則行為を犯した日大アメフト部の監督が、公人ではないが謝罪会見を開かなければ、世間もマスコミも許してくれそうもなくなり、会見を開くに至ったようです。

しかし、これも誠意が感じられるものではなかったようで、かえって世間や選手から反感を買った次第で、続いて反則行為を行った選手自らが会見を行い、さらにこの選手の主張を否定、反論する会見がすでに辞めた監督にコーチが加わり開かれました。そこでそれぞれの謝罪会見について、マナーの視点でどう評価するか考えてみたいと思います。

最初に開かれた日大内田監督の謝罪会見について

1. 謝罪の対象が不明瞭だった

先ず謝罪する相手は被害者とその家族や相手チームに対してですが、その的が外れていたので、会見そのものが曖昧になった気がします。だから一番大切な「誰に、何を伝えたいのか?」が明確にならなかった気がします。

2. 謝罪のタイミングがあまりにも遅すぎた

謝罪のタイミングがあまりにも遅すぎた気がします。謝罪のポイントは迅速な対応ですが、タイミングがあまりにも遅すぎたように思います。周囲から催促されてからではだめでしょう・・・。

3. 違和感を覚えた服装

謝罪会見では服装は大切です。真摯な謝罪を印象付けるには最もきちんとした服装が基本ですが、個性的になるより、目立たない色がお勧めです。従ってピンクや赤のネクタイは感心しません。また謝罪時の服装にはクールビズもウオームビズもないでしょう。

4. 記者からの質問に対する回答が不十分だった

謝罪のための会見なのに、記者からの質問に明確に答えていません。つまり相手が一番知りたいことに触れなかった点は良くなかったと思います。

謝罪会見を開いた以上は、洗いざらいなんでもしゃべるとの思いで、全員が納得するまで会見を終わって欲しくなかった気がします。多くの人が知りたがっていたことが、不十分のまま打ち切られたことについて誠に残念に思います。

5. 謝罪会見でも誰も納得させることができていなかった

結局謝罪会見で、誰にも納得させられず、最終的には監督やコーチの指揮下でプレーを行った選手までが会見せざるを得なくなった。

相手チームの選手を危険なタックルで負傷させた日大選手の会見について

1.被害者等への謝罪後の会見という順序が良かった

会見を開く前に、被害にあった相手チームの選手や家族に対しての謝罪が済んでおり、順序もよかった。

2.堂々と名前を名乗って会見したのは立派だった

正々堂々と名前を名乗り、多くのマスメディアに登場したのは立派だと思います。

3.真摯な態度で謝罪し非を認めていて好感が持てた

自分の非を明確に認め、真摯な態度で謝罪し、言い訳がましい点も、他者の批判もしなかったのは好感が持てた。

4.質問に対して丁寧で具体的に回答していた

何より多くの人が知りたがっていた、「なぜ?」に対し、丁寧に、かつ具体的に説明したことは評価に値すると思います。

5.自分にペナルティーを科した

自分の非に対して、自分なりにペナルティーを科した点も評価できるでしょう。反省や罪を償う気持ちを大切にするとともに、まだ長い人生を、このことを糧にして再度大きく羽ばたいて、やがて社会に貢献できる人になって欲しいとエールを送れる気がしました。

選手に引き続き緊急記者会見を開いた日大の前監督とコーチの会見について

1.コーチの身だしなみ、言葉遣いには問題なかった

コーチの語尾がややはっきりしなかったものの、きちんとした言葉遣いや身だしなみには好感が持てました。ただし形より心だと思います。

2.謝罪がありきたりの言葉で誠意が感じられなかった

被害者やその家族、そして相手チームや前に謝罪会見を開いた選手に謝罪した点は認めますが、ありきたりの言葉だけで誠意はあまり感じられなかった。

3.緊急会見にもかかわらずいきなり質疑応答だった

緊急会見にもかかわらず、具体的な説明はなく、いきなり質疑応答になったことは残念な気がします。

4.事実上選手への反論に終始し、選手を守るという責任感が感じられなかった

前に開かれた選手の会見では、反則行為を犯した選手自身は、反則行為に対して覚悟を決めて謝罪したが、監督は指示していないと反論しました。さらにコーチも監督と選手の板挟みになって気の毒な面もあったが、結局監督の言い分を支持し、これでは今まで長年培ってきた名門日大アメフト部の伝統はなんだったのかと感じた。

5.司会進行(広報)の態度が悪く会見の意味が不明瞭になった

司会進行を担当した日大職員の態度にも好感が持てず、終始歯切れの悪い、不透明感が残る会見で、全体像がまるでつかめなかった。

進行係は大学やアメフト部のダメージをより少なくするのが役目だと思うのですが、「会見を開いてやった」というような態度が感じられ、火に油を注いだ形になったと思います。結局やらないほうが良かったのでは・・・。

大塚学長の会見について

大学としての対応の遅れが問題の拡大につながったとして謝罪した学長の会見は、まさにその認識の通りだと思います。

一方で「監督が全面的に悪いことになっているが実際はよくわからない」と答え、真相が明らかにされなかったのは残念な気がしました。

再発防止の具体策も語ることもなく、結局、騒動の火消し役にはなりえなかったという印象を与えたと思います。

勝利至上主義のチーム作りが教育機関の本来の目的と一致していない

最近、少子化のせいで学生確保が困難になったからでしょうか?スポーツに関わる政策を戦略的に行う大学が多くなった気がしてなりません。もちろんスポーツの発展には大きく寄与している面もありますが、様々な弊害が起きていることも確かです。

体力向上に加え、自主性、協調性、マナー重視のフェアプレイ精神を育むことが、大学におけるスポーツの目的だと思うのですが、勝利至上主義が幅を利かせ、教育やスポーツ本来の目的が希薄になっている気がします。謝罪会見のあり方も大切でしょうが、学校経営者らがこの点をいかに考えるかが鍵になると思います。

経営危機管理学部のある大学とは思えない稚拙な謝罪会見

監督、選手、前監督とコーチ、そして学長と4回に渡ってたて続きに開かれた謝罪会見は結局世間を納得させるには至りませんでした。

折角メディアに対して4回も会見を開いたわけですから、メディアを国民の代表として捉え、もっと最初から誠実な対応をされていたらと残念に思います。

選手と監督やコーチの言い分には大きな食い違いが生じ、事実関係は曖昧のままです。これでは再発防止策も提示できないでしょう。加えて巨大組織の宿命でしょうか、教育側と運営側の連携が全く取れていなかったように思います。

だから経営危機管理学部を有する大学にもかかわらず、その知識や知恵が会見に全く反映されていなくて、謝罪の在り方、チームワークの大切さ、スポーツを通じて思いやる気持ちを上手に表現できなかったのではないでしょうか。

結果的には指導者として、教育やスポーツの本質を損ねた稚拙な会見に終わった感じがします。

どのようにピンチをチャンスに変えるか?大きな課題が残っている

現時点では、理解の範疇を超えた悪質なプレーが現実に起きた理由が解明されていません。認識の違いだけでは起こり得ないでしょう。構造的改革が必要かもしれません。

しかし「ピンチはチャンス」とも言われています。今回の不祥事を変革のチャンスとして捉え、次回は真相を明らかにして、みんなが納得する再発防止策を示すとともに、周囲に思いをはせる品格の漂う会見で幕を閉じて欲しいと思います。

また今回の謝罪も、迷惑をかけた相手は、世間ではなく関学大のアメフト部と負傷した選手や家族です。従ってまずは、その人たちに膝を突き合わせて誠心誠意謝罪するのが筋で、マスコミや視聴者に対してではないはずです。「視聴者のための会見が必要」といった風潮はマナーの本質から言って歓迎できません。

最後に今回の騒動から何を学ぶか?当事者も、スポーツに携わる人も、教育者も共に真剣に考えるとともに、マナーの大切さを改めて認識していただきたいものです。

(平松 幹夫/マナー講師)

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