組織の中で、自分の「タイプ」をどう活かす?――経営・組織コンサルタント×リクナビNEXT編集長対談<後編>
前編では、職場で「この人とはやりづらい」と感じる理由に、「視点の持ち方」「思考のパターン」「行動の重点」の違いがあることをお伝えしました。
相性が良くないタイプとの摩擦や衝突を避け、うまく協働するために、秋山氏は、まず自分のタイプと相手のタイプを知り、その上で建設的な会話方法を実践することを勧めています。 タイプ診断テスト(タイプを知るための30の質問)については別記事にて掲載をしております。ぜひ試してみてください。
プロフィール
秋山進(あきやま・すすむ)<写真左>
プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役。リクルートに入社後、事業企画に携わる。独立し、経営・組織コンサルタントとして企業の事業構造改革等に従事。現在はグループ代表として、経営リスク診断、組織設計、幹部人材育成等に携わる。著書:「社長が将来役員にしたい人」(日本能率マネジメントセンター)、「一体感が会社を潰す」(PHP新書)、「社長!それは「法律」問題です」(共著:日本経済新聞社)など。
藤井 薫(ふじい・かおる)<写真右>
「リクナビNEXT」編集長。1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任する。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。2016年4月、リクナビNEXT編集長就任。リクルート経営コンピタンス研究所兼務。
秋山氏(以下秋山) ミクロ視点×マクロ視点、直感意味的思考×事実論理的思考、WHAT重点×HOW重点。タイプの違う2人が対峙するとき、ちょっとした声がけによって相手と目線を合わせることができるようになります。例を挙げてみましょう。
ミクロからマクロへの視点の切り替えを促すには…
「○○さんの、小さな変化を見逃さない観察力はさすがです。同じ方法で業界全体の構図を考えてみると、どうなると思われますか?
マクロからミクロへの視点の切り替えを促すには…
「○○さんの広い視野からの知見を、今起きているこの事態の改善に活かすとすれば、どういう方向性が考えられるでしょうか?」
直感意味から事実論理への切り替えを促すには…
「まさに○○さんならではのユニークで洞察力のある見解です。データはまだ十分にありませんが、まずはできる範囲で検証し、だんだん精度を上げていきませんか?」
事実論理から直感意味への視点の切り替えを促すには…
「科学的に確かと言える範囲はそこまでなのですね。では、ここからは将来検証を行うことを前提とした仮説づくりのため、今後、起こりうる事態を自由に想像してみませんか?」
WHATからHOWへの視点の切り替えを促すには…
「おっしゃるとおり、『我々がどうあるべきか』を決めることこそがもっとも重要な課題ですね。では、目先のこの問題を具体的にさっさと解決してしまった後に、本来の議論をしっかりやりませんか」
HOWからWHATへの視点の切り替えを促すには…
「実務的に考えるとすれば、○○みたいなことはどうすれば可能でしょうか。さらに、もし今考えていらっしゃるような制約条件がないとすれば、何をするのが理想だと思われますか?」
秋山 こうした言葉を丁寧に投げかけると、相手は喜んで対応してくれるものなんです。相手のタイプとクセを理解して、相手が得意とすることの重要性を認めた上で、今やるべきことに誘導すべく虚心坦懐に話をする。
藤井 右利きと左利きの人が正面に立って握手しようとしてもできない。でも、横に並んで立つと握手できる。特質はそのまま活かしつつ、立ち位置を変えればいいということですよね。自分の特質を変えて相手に合わせようとしたり、相手を変えようとしたりするのではなく、立ち位置を変える、と。秋山さんは確かサッカーがお好きだと思いますが、チームメイトとしては相手の利き足に向けてパスを出すべきですね。
秋山 何かと「エビデンス(根拠)は…」という人がいたとして、自分はそれが苦手だとする。そういう人に対して適当に「こんなことを検証したいのでよろしく」と投げると反抗的になってしまいます。「何も知らない奴に説き伏せられるか」と。そんなときは、「こんなこと考えたんですが、まだ何もエビデンスはないんです。間違っているかもしれないけど、一緒に検証してもらえませんか」と持っていけば、「自分がわかっていないことは、よくわかっているんだな」と思われ、仲間になれる。たったこれだけのことで、強力な補完関係が築けるのです。敵と思ったら大損ですよ。
藤井 自分とは異質な意思決定をする人にも、大事にしているものがある。そこに気付くだけでなく、近づこうと努力するのは大切ですよね。ちゃんと勉強していけば、「そこまで勉強してきてるんだったら教えてあげよう、協力してあげよう」となるでしょうね。「僕の利き足を分かっていて、そこにパスを出してくるのならシュートしちゃおうか」と。
秋山 すごく面白いですよ。この人は、この事象をこんなふうに認識して、こう組み立てているのか…と観察するのは。モデルが増えていって、「この人はこのタイプかな」と思いながら「こうですか」と質問すると、違っていたりして、また新たなモデルが発見できる。そういう感じで会話できたほうが、人生楽しいですよ。
今の役割は、自分のタイプにフィットしているか
今の仕事にやりがいを感じられない、職場で活躍できている実感がわかない……。そんな「ミスマッチ」を起こしている人も少なくないようです。例えば、
「方針を決めろと言われても何をどうやってやったらいいかわからない…」
「マネジメントはどうも苦手、自分で手を動かした方が性に合っている…」
「いつまでも同じ作業の繰り返しでつまらなくなってしまった…もっと上流工程で仕事したい」
こんなことを感じている人は、自分自身のタイプとフィールドが一致していないのかもしれません。
秋山 組織活動には次の3つのフィールドがあります。
自己規定のフィールド
「我々は何か、何をなすべきか」を想定する
体制作りのフィールド
「どんなプランをどのように推進するか」を決める
運用・実行のフィールド
実行し、プランを修正し、さらに実行する
それぞれのフィールドにフィットするタイプは次の表のとおり。今の役割が自分にフィットしていないと感じるなら、意識してフィールドを変えていってもいいでしょう。
各フィールド、すべて1人でこなす必要はないので、チームメンバーそれぞれが自分たちの強みと弱みを知り、お互いに補強すればいい。
藤井 「自己規定」「体制作り」「運用・実行」の各フィールドが連関していることが大事ですよね。連関したチームは最強です。異なる強みを相互補完しながら学習進化する。専門分野を超えて幅広い領域で知能を汎用する。まるでAIの進化系である、汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence)を思わせます。人間集団の場合は、そのAGIをもじった「GIA」を意識するべきだと思います。「Goal Share」目指すべきゴールを共有し、「Insight Share」互いの洞察(視点・思考)を共有し、「Appreciation Share」 相手への尊敬と感謝を共有する。このGIAのもとなら、多様なタイプが混在するチームがうまく相互学習・進化すると思います。
秋山 おっしゃる通りですね。ただ、自分のタイプにフィットするフィールドだけにとどまっていても成長はないですよね。自分のタイプにはフィットしなくても、組織が求める思考や行動のあり方を意識して、対応していく人もいますよ。ある会社での例ですが、営業現場で優秀な成績を挙げていた人物が営業本部に異動になったんです。その人はミクロ×直感意味×HOWの「技能者」タイプ。ユニークな企画が顧客に評価されて大型受注をしていて、そんな自分のスタイルや実績に自信を持っていました。でも、本部の仕事は計数管理や数値分析が重要。現場で起こり得るあらゆることを想定して準備しておく必要があるのに、彼は最初、自分の実例や目先の面白さだけにとらわれてしまっていたんですね。だから異動後しばらくは価値を発揮できなかった。けれど、それまでの自分とは違う思考や行動を求められていることに気付いて努力した結果、もともとの強みだった直観力と分析業務を組み合わせて活躍できるようになったんです。
藤井 自分は、自然の分身である。禅僧の玄侑宗久さんに教えていただいた言葉です。自分は春夏秋冬、刻一刻で変わるものかもしれないですね。その意味では、人間は変われるもの(変人)、人間は分けられるもの(分人)、人間は補い合うもの(合人)。自分は、器に合わせてまるで水のように変われるのかもしれませんね。そういえば、人間の体の60〜70%は水でできています。
秋山 もともと自分がどのタイプであるかに関わらず、組織の中で担う仕事の役割によって、視点・思考・行動のパターンが変わってくることってあるんですよね。自分の本来のタイプより、新しくチャレンジした役割のほうが自分にマッチするようになることさえある。だから、若手の頃にはあまり自分のタイプを固定しないほうがいいと思います。少々の失敗は許される若手のうちに、あえていろんな役割を「演じて」みるといいでしょう。それによって、自分の本当の得意・不得意が明確になるし、周囲の人への理解度も高まる。そうすると、どんなタイプの人にも適応できるハイブリッドタイプの人材に成長できます。 タイプ診断テスト(タイプを知るための30の質問)については別記事にて掲載をしております。ぜひ試してみてください。
参考図書
『職場の「やりづらい人」を動かす技術』
著者:秋山 進
出版社:株式会社KADOKAWA
EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭
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