「優れた声優は、優れた俳優」ベテラン声優とスタッフが不可能を可能にした実写映画『D5 5人の探偵』監督GEN TAKAHASHIインタビュー

人気ベテラン声優の緑川光さん、小西克幸さん、浪川大輔さん、森久保祥太郎さん、岸尾だいすけさんの5人が主演する実写ミステリー映画『D5 5人の探偵』が5月5日より劇場公開中。

『D5 5人の探偵』は、ある劇場に招集された個性豊かな5人の探偵たちが、客席に座る1人の亡くなっている謎の男を巡って、犯人との攻防を繰り広げるシチュエーション・ミステリー。

それぞれ演じるのは、

緑川光さん:叶井 三樹夫(ミック) 元FBIのアメリカ的感覚の探偵。
小西克幸さん:山崎 耕平(デカ) 元・要人警護のSP出身で銃の達人。
浪川大輔さん:矢作 丈士(ジョー) 日本の古武術、格闘技を極めた武術家探偵。
森久保祥太郎さん:根木屋 圭介(ネギ) 財閥の息子という超お坊ちゃん探偵。
岸尾だいすけさん:吉本 清夏(キヨカ) 世界で暗躍する天才ハッカーの探偵。

元々、アニメ化を視野に企画された本プロジェクト。その第1弾となったのが、なんと声優での実写映画化! 劇場の舞台上で繰り広げられる会話劇がメインとなっている本作ですが、一部アクションシーンもあることが話題となっています。

監督・脚本を手がけたGEN TAKAHASHI監督にたっぷりお話を伺ってきました!

撮影された映像はたったの48時間

――この映画企画の経緯を教えてください。

GEN:「声優5人を集めて作品を作らないか?」という話があって。一番面白そうだなと思ったきっかけは、不可能だといわれていたこと。不可能だと言われるとチャレンジしてみたくなって。

――最初からこの5人のメンバーは決まっていたんですか?

GEN:ほぼ決まっていました。どちらかというと、内容のほうが同時進行で決まっていった感じです。最初にプロデューサーがスケジュールの調整など「とても大変だ」と言うし、業界的には映画の内容がどうのというよりも、この5人が揃ってやるという事自体が不可能だから話を持ってこられても……、という感触だったらしいんですよ。そういうことを聞くと、チャレンジの面白さがある。こんなにチャレンジした映画撮影はうちのスタッフもおそらく初めてだったと思います。

――そこまでですか。

GEN:だから、万が一のことを考えて、今回は現場に監督が5人いましたからね。僕が監督だけれど、助監督にベテランの人たちを入れ、ものすごいスピードで撮影が進みました。

声優の人たちも、会話劇という部分でものすごく仕事が早い。アニメのアフレコで短い時間でセリフを作品に入れるのに慣れているので、一般の俳優のように演技NGや、ましてやセリフNGはほぼゼロ。撮影期間は延べ日数で言っても4日間。それで、後から撮影した映像を全部見たら、カメラで実際に撮影した時間は48時間だったんです。

――えっ! アクションシーンなど全部入れてですか!?

GEN:全部入れてです。奇しくも、劇中で「48時間以内に事件を解決してください」と言われているのと偶然一致したんです。しかも、5人の探偵を5人の監督でやっているしね(笑)。

――すごいリンクですね。

GEN:カメラマンをはじめ、スタッフもみんなベテランだったんですが、さすがに最初は「大丈夫ですか?」という声は出ていました。みんな、こんなスケジュールでやったことがないから(笑)。

撮影条件がものすごくタイトだったので、それをどうアイデアでカバーするかが必要だった。基本的に、映画出身の僕らは、“映画は編集で作る”という教育を受けてきている。ちょっとおじさんみたいな言い方になってしまうけど、最近の若い監督たちは、テレビとかビデオ映像の方が馴染んでいるから、あまり編集でガラッと変わるような撮影はやらない人もいて、撮影したままがドラマになっているパターンも多い。

僕は北野武映画をほぼ全作やっている編集の大田義則さんと何作か組んでいて、彼は古い映画人だから、今回もあのアクションシーンを編集でなんとか作ってくれるだろうと思っていたんです。実際にはバラバラで、暗闇の中で様々な動きや演技をしているのを、編集で上手いこと繋げてくれとお願いして、現場ではとにかく素材を撮った。浪川くんは一部殺陣とかやっているけど、パッと見得を切ったら全然違うところにいたり、他の探偵もどこにいるのか、位置関係を明確にしていないんです。

5人で撮影したのは6時間のみ!90%が合成

GEN:普通のドラマ部分の撮影のところもぼぼみんなバラバラに撮っているので、編集上共演しているようなもの。だから、映画全体が編集で成立している要素が大きくて、それが可能だったのが、やっぱり各声優の持っている技術力が一般の俳優よりも台詞の技能が高かったから。

例えば、一般の俳優の人だったら、同じ段落の同じシーンの台詞をバラバラに撮って繋げると、やっぱり少し調子が違っていたりする。だけど、今回やってみて、声優の人たちというのは、昨日、今日と一行バラバラにして撮った台詞を繋げたとしてもちゃんと繋がるんです。その意味では、声優さんだったからこそ、そういったバラバラに撮ったものを編集で共演するというか、編集で全体を作りあげることができた、というのはありますよね。

――では、あの舞台上に全員揃ってはいない?

GEN:ほぼ揃っていないですね。

――あたかも普通の劇のように舞台上で演じているように見えました。

GEN:実際に5人が同じスタジオに揃ったのは、6時間だけ。それで1時間半の映画を作るというのはまず不可能なんですよね。だから、映画の冒頭や終わりなど、どうしても5人が同じフレームにいなきゃいけないところだけ、その6時間以内に全部撮っているんです。その間の抜けている部分は、2人や1人でバラバラの状態で共演者はいない中で演じている。

劇中に出てきた舞台そのものは実際に埼玉県に実在する1000席以上ある大劇場なんですけど、あの現場に行けたのは浪川くんと森久保くんと小西くんの3人だけ。だから、映画の90%以上が合成のグリーンバックで撮影しています。グリーンバックの撮影スタジオにロケで使ったソファなどの同じセットを持ち込んではやっていますけどね。

――90%以上が合成!

GEN:実際に映像上、舞台に5人がいるかのように見えているところは、ぼぼ合成。それをなるべく違和感のないようにCGでまとめる後処理の映画技術も相当使っています。映画なんだから当たり前なんだけど(笑)。

なおかつ、あえて1970年代のアメリカ映画のような、少し古めかしいざらついた感じを出している。わざと画面上にフィルム粒子をのせているんです。なぜそうしたかというと、いつも見ている彼らとは違う、映画の中のキャラクターとして見えるように作り込むために、映像自体も映画の技術を使い、元の撮影した映像とはだいぶ変えています。

ベテラン声優の技術力の高さ

――実際の撮影期間はタイトでしたが、一番初めに、台本の読み合わせみたいなものはあったんですか?

GEN:そうですね、撮影の半年以上前に1回だけスタジオに集まってもらって。出演俳優が集まって台本のセリフを一通り読む「読み合わせ」はどんな作品でも行いますが、一般の俳優さんは「読み合わせ」の時はあまり力が入っていないし、こっちも本番レベルの演技を求めない。でも、今回の「読み合わせ」は声優が本業の方たちだから、読んでいる段階でほぼ完成されているんです(笑)。目を閉じて聞いていると、出来上がってるものを聞いている感じ。これだったら何も問題ないなと思いました。逆に声だけで成立するので、舞台劇みたいな内容でも引っ張って行けるなと確信しました。

GEN:そして撮影現場では、彼らは声の演技だけでなく、細かな演技も部分も組み立ててきていました。彼らが描く細かなキャラクター、例えば小西くんのデカは堅い感じで、など僕が指示したものではありません。最初は緑川くんのミックは、ちょっとベタすぎじゃないかなと思ったんだけど、ちゃんと彼は5人のキャラクターのバランスを見ているんだよね。だから、映画の中で見たらそんなに変じゃない。“FBI帰り”という設定を仕草で出していく、というのを意識的にやったんだと思うんですよね。普段あんな人じゃないから(笑)。やっぱり優れた声優というのは、優れた俳優だから、最初から心配しなくても全然問題なかったんです。

――よくゲスト声優でアフレコに挑戦した俳優さんにお話を伺うと、本当に声だけの演技は大変だった、とおっしゃるので、声優さんの方が演技をするときの想像が出来ているのかもしれないですね。

GEN:もう反射速度がすごかったですよ。例えば、「もうちょっと感情をのせて」と指示した場合、その修正のされ方がすごいんですよ(笑)。もう1発で声だけでその感情表現が修正されて出てくる。これにはびっくりしたし、改めて専門家だなと思いました。まさに、会話劇で成り立つミステリーという映画の内容は、彼らの声の技術があったからこそ、1時間半引っ張れたと思います。

小難しく演技論みたいなものを勉強すると、元々演劇って声から始まると教わるんですよね。昔のギリシャの円形劇場などは、背中側から見ている人は顔が見えないから声だけで届けなきゃいけない。だから、声の技術というのは元々俳優に求められていたものであって。本来、俳優というのは声の技術を持っているんですよね。

――さらに声優さんはゲームなどでもセリフだけバラバラに収録されたりするので、バラバラの撮影に慣れていたのかもしれないですね。

GEN:そうですね。だから今回の撮影は、撮影時間がないといっていたけれど、それがマイナスには感じなかった。小西くんは、原作の小説を読んでくれていて、役にもとても思い入れを持ってくれた。だから、クライマックスのシーンでデカが叫ぶシーンがあったけれど、あれは僕も指示していないし、小西くんが完全にアドリブでやったことなんです。

――気持ちが入り込んでいたんですね。

GEN:本当は新人があんなことをアドリブでやったら怒られるんだけど。マイクを寄せてるので、いきなりあんな大声を出されたら困りますから(笑)。今回は、録音部も優秀な人だったので、気配を察したのか、スッとマイクを離して。あれは撮り直しなしの演出です。アドリブだからドサッと座るのもいきなりやったのに、あのシーンはカメラの動きも見事で。

――本当ですね。まるで一連の流れが元から出来ていたようでした。

GEN:彼が演技的にどこまで計算していたかわからないですけど、あの叫んだ一言だけで、劇中で多く語られていない過去の事件について、余計な説明はいらずになんとなく観客が「すごい過去だったんだろうな」と受け止めてくれる。あれは、面白いなと思いました。

――他にも彼らなりのアドリブは?

GEN:浪川くんが最初にマイスターQからの依頼のメールを読んでいる時に、パソコンを出して指で触ろうとするところをパシッと遮られるところは、彼らのアドリブ。カメラテストのときにもやっていなくて、いきなり本番で出たアドリブです。特に、浪川くんと森久保くんの掛け合いの間が絶妙なんですよ。あれは演出してすぐできるものじゃないし、森久保くんは特にミュージシャンでリズムを作れる人だから、ドンピシャであの間がわかるのかもしれない。そうやって絶妙な間で突っ込みを入れたり、彼らの演じるキャラクターを彼ら自身が作りあげている。それは、アニメになったとしても、そういった面白さが出てくると思います。

――監督のこだわりの出ている演出は?

GEN:こだわりというか、演出方法でちょっとしたネタとしては、僕はどの映画でもやる方法があって。通称、版権フリーカットと呼んでいるんだけど(笑)、俳優さんに指示をしながらカメラを回しっぱなしで撮影するんです。例えば、「突然振り返って」とか、「そこでうつむいて」「突然笑い出す」とか、5分くらいカメラを回しっぱなしで撮るんですよ。「これは編集でどこでどう使われるかわからない、それは了解してね」と伝えます。

――ストーリーと関係なく演技をしてもらうんですね。

GEN:映画は編集で作るものだから、このワンカットがここにハマる、という面白さが生まれるんですよ。実際にそれが上手くいったケースって多くて。本人がどこでどう使われるって意識しないでやっているから、リアクションがすごく自然に見えるものが多いんです。

今回の映画でも、デカが「その話に触れるな」と大声を出した時にみんなが見たりするところは、この方法で撮ったもの。ミックが悔しそうに足をドンとやるところなどもそうです。でも、その声じゃない瞬間的な演出に対しても、こちらがリクエストしたことに対してものすごく正確に返ってくるんですよ。だから、やっぱり声だけの話だけじゃなくて、演技という感性そのものが鍛え上げられているから、今後逆に全員声優で無言劇をやったらどうなるんだろうなと興味が湧きました(笑)。でも彼らは出来ると思いますよ。

――面白いかもしれませんね。本日はありがとうございました!

池袋HUMAXシネマズでは、上映期間の延長も決まった『D5 5人の探偵』。キャラクターグッズも続々登場、LINEスタンプも発売中です。


映画「D5 5人の探偵」第2弾PV
https://youtu.be/RRJsUqP_uzw

D5公式サイト:
https://www.d5-project.com/

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アニメや可愛いものが大好き。主にOtajoで執筆中。

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