【必読】女神転生スタッフ対談 / 鈴木一也の邪教の館・出張インタビュー: サウンドクリエイター増子津可燦
バズプラスニュースにて「大司教の邪教の館」のパーソナリティーを務める鈴木一也が、メガテンなど数々のゲーム音楽で世界的に知られる増子津可燦(ますこつかさ)にインタビュー。
・古い仲魔が集結
ふたりはアトラスの創立時に出会った古い仲魔である。その後何度も共に仕事をし、今回『十三月のふたり姫』で再びタッグを組む。両名にとって懐かしいアトラス時代の秘話から、今に至るまでを一気に語る。
・そのルーツはテクモ!
鈴木大司教「お久しぶり~~でもないか」
増子津可燦「おひさ~でもないね」
鈴木「そうですね。新作ゲームの『十三月のふたり姫』の打ち合わせで3月に会っていますしね(笑)。さっそく昔話からでも始めますか」
増子「ですね」
鈴木「まず、増子さんとアトラスとの出会いは?」
増子「テーカン(現: テクモ)で、夜遅くに原野さん(※註1)と上田さん(※註2)がゴニョゴニョしているところに参加したところから始まるかな」
鈴木「ということは、アトラスの原野社長がテクモから社員を引き抜いて独立するのに参加したってわけね?」
増子「そうそう。最初は原野さん、上田さん、プログラマー、自分の4人だった」
鈴木「私はその1年後くらい後にアトラスに入るわけだけど、出会ってから何年経ったっけ?」
増子「何年だっけ(笑)?」
鈴木「ええっと……(ふたりともすぐに計算できない)……31年も前!?」
増子「31年前か~~(笑)!」
鈴木「CPU使ったゲーム業界では、一番古い付き合いになるねえ、私にとって」
増子「おや、名誉なことですね」
鈴木「増子さんはテクモではアーケードがメインだったみたいだけど、アトラスではまずファミコンの音作りからだよね?」
増子「テーカンでも『マイティーボンジャック』とかファミコンでやったけど、確かにアーケードがメイン」
鈴木「当時のゲーム音楽とはどんな感じ?」
増子「ファミコン音源に限って言えば任天堂のクオリティが頭一つ抜き出ていた。だけど、海外の超マニアックな音使いが出てきて、一気に創意工夫の密度が高まったねー。4chで6~7ch分の音を1/60秒単位で操作する内容だもの」
鈴木「じゃあ、海外の音作りに影響されたってことになるわけ?」
増子「たまたま見せてもらった海外のゲームが刺激になりました……タイトル何だっけ?」
(しばしの間……)
鈴木「年取るとアレだから(笑)」
増子「だよね~(笑)」
(まだふたりとも50代だが……)
※註1: 原野直也:元アトラス創業社長。日本船舶振興会の当時の会長、故笹川良一の部下として、インドネシアで沈没船のサルベージをするという異色の経歴を持つ。
※註2: 上田和敏:当時のアトラスのディレクター。『女神転生』シリーズ含め、アトラスの作品の多くが上田氏のディレクションの元で作られた。ユニバーサル時代の『Mr.Do!』『レディバグ』などが初期作品。
・その魂にはロック!
鈴木「ゲーム以外に、その当時はどんな音楽を聞いてました?」
増子「MTV全盛期だったから、主に洋楽だよね。チャート賑わしていたのは大概聞いていたと思う」
鈴木「嗚呼、MTV懐かしい」
増子「SONY Music TVのVHSテープは今も残ってる(笑)」
鈴木「良く保存されてる!!」
増子「当時は80年代後半から90年台頭だよね」
鈴木「でも、メガテン音楽は当時のヒットチャートからは外れた感じ。どっちかっていうと70年台ロックなとこあり」
増子「元々、自分が聞いていたハードロックや、プログレとかの影響は多分に出ていると思います」
鈴木「企画側もプログレとメタルってお願いしてたから、ちょうど合致したわけね!」
増子「プランナーの大町さん(※註3)とは音楽の話ばっかりしていたかも。南米とかイタリアのプログレとか……(笑)」
鈴木「あ~、彼マイナーなプログレ大好きだったから」
増子「ゴブリン※註4)が今も活動していることに驚きを隠せない!」
鈴木「うんうん」
増子「大町さんがUNION(※註5)で借りてきたレコードを会社で夜中にコピーして、ずいぶん分けてもらったっけ」
鈴木「ああ、私もかなりテープをもらった。曲名までしっかり細かくカセットのインデックスに書かれててね」
増子「大町さん今どうしてるかね~」
鈴木「今彼はユーチューバーとして、昔のアイドルの動画をアップしては、(事務所からのクレームで)消されてるよ。なんか外人にすごく受けてるらしい」
増子「あ、その動画見てみたいかも(笑)」
鈴木「当時はアトラスに棲んでるみたいな人、いっぱいいたよね」
増子「ポルターガイスト現象も体験したし」
鈴木「霊現象はアトラスの日常」
増子「最初事務所があった飯田橋ラムラは堀の上に建てられてたし、次の若宮神社の近くは湿気がすごくて、地下に池ができてたから(笑)」
鈴木「それ前提を知らないと話通じないよ。霊現象は水が絡むところに良く発生するっていうの」
増子「え? 常識じゃないの?」
※註3: 大町辰也:当時のアトラスのプランナー。実は鈴木とは前職から同僚関係の腐れ縁。『女神転生』ではレベルデザインとシナリオを担当。
※註4: ゴブリン:イタリアのプログレッシブ・ロック・バンド。G.E.ロメロの金字塔的映画『ゾンビ(Dawn of the Dead)』で音楽を担当し、一躍世界的になった。
※註5: UNION:東京では有名な中古と輸入レコード店。
・音作りのこだわりはノイズ!
鈴木「話は脱線したけれど、けっこう音源とか極めてたでしょ? 当時は音源自体も増子さんが作ってたんだよね?」
増子「ファミコン音源に関しては弄り回したかったけど、処理速度を2msec以内にしてほしいとプログラマーさんにお願いされて、その範囲以内でという感じ」
鈴木「てことは、もっと出来た可能性あったんだ」
増子「もっと処理時間を使っていいなら、色々出来たと思う」
鈴木「それでも当時のファミコンとしては、他にちょっと無い音を出してた思う」
増子「PCエンジンのときにも感じたけど、他の人と使いたい周波数帯域が違ったみたい」
鈴木「なるほど! では、スーファミになってかなり音は広がった?」
増子「どちらかというとノイジーというかディストーションの音を狙っていたけど、スーファミは逆に作りづらかった」
鈴木「もう決まった音しか出せないって感じ?」
増子「オケ系統にはいい音源だと思う。でもノイズ系には厳しい」
鈴木「なるほどね」
・やっぱメガテン2がキョン2の次に凄い!
鈴木「メガテンの音楽はどこまで作ったんでしたっけ?」
増子「『真・女神転生 if…』までかな? 3でも自分の曲のアレンジが使われているけど」
鈴木「じゃあ私が関わったのと同じだったのか」
増子「その直後に偽典(※註6)だよね」
鈴木「あ~~、偽典もやっていただきました!」
増子「でも結局『女神転生II』が一番時間を掛けてる気がする」
鈴木「あれはビクターからもサントラが出て、年間で最も売れたゲーム音楽CDになって社内表彰受けたものね」
増子「おかげでビクターのパーティーに呼ばれて……」
鈴木「キョン2とか荻野目洋子とか生で見られた」
増子「広瀬香美さんとは一緒に写真撮りました。あと鮎川誠さんもいたねえ」
鈴木「いや~増子先生のお陰です」
増子「小泉今日子顔ちっさかったねえ」
鈴木「うん、すごい可愛かった」
増子「実はキョン2とも一緒に写真撮りました(笑)」
鈴木「なにいいいいい~~~~~!!」
鈴木「コホン……え~……他にアトラスさんのゲームではどんなゲームがっ……て、すごいたくさんあるんだけど、これはお薦めってゲーム音楽は?」
増子「『究極タイガー』と『達人』(※註7)は楽しかった」
鈴木「それってアトラスゲーじゃないよね?」
増子「アトラスが受けた移植の仕事です。譜面はあったけど、ほぼ耳コピーで。そのまま打ち込むと印象が全然違っていたので」(笑)
鈴木「それはすごい! 増子さんかなり良い耳しているものね」
増子「『アルカノイド』の音作りも楽しかった。こっちは効果音まで耳コピー」
鈴木「人の曲でもいいのか~、よっぽど音楽好きだよ」
増子「ほかには『ダンジョン・エクスプローラー』(※註8)とか。音の綺麗さはPCエンジンの方が良かったかも」
鈴木「あれは音楽も良かった。じゃあ、メガテン系の音楽で、一番印象深いのは?」
増子「短くても雰囲気重視かな? 初代邪教は今でも好き」
鈴木「パイプオルガンいいねえ」
増子「回復の泉だっけ? アレも結構好き」
鈴木「短いのばっかなんですが~」
増子「あのフレーズはなかなか出てこない!」
鈴木「増子さんの曲はかなり音作りが細かくて、楽曲も複雑だから、当時の他のゲーム音楽とまったく違ってたね。それでいて心地よいから、ダンジョンとかず~っと音楽聞きながら進んでいたい」
※註6: 『偽典・女神転生』:鈴木の会社が制作し、アスキーがパブリッシャーとなった、MS-DOSでのメガテン作品。
※註7: 『究極タイガー』『達人』:ともにアーケードのシューティングゲーム。増子がコンシューマー版の音を付けた。
※註8: 『ダンジョン・エクスプローラー』:アトラスが制作し、ハドソンから発売されたダンジョン探索アクション。鈴木はキャラとスキル設定とタイトル命名をした。
増子信者はカリギュラを見るのだ!
鈴木「アトラス卒業後もかなり多くのゲームに音を提供していたと思うんだけど、どんな音楽がお薦め?」
増子「TMネットワークとか?」
鈴木「え? まさか?」
増子「TMネットワークのゲームの曲ね」
鈴木「紛らわし~!」
増子「まぁ冗談はおいておいて、色々とやっているけど、案外記憶に残っているの少ないかも」
鈴木「過去を振り返らない男なのか!?」
増子「『ゴジラ・カードバトル』では伊福部さんにNGもらったし(笑)」
鈴木「あれ? そうだっけか! 私と作ったやつだよね」
増子「今井くん(※註9)と一緒にやった『デモンズゲート』(※註10)も今なら特設サイトで全曲聴けます」
鈴木「あ~、それ私も絡んでたんだった。かなり特殊な音楽になったよね?」
増子「だってリクエストが「オペラで」だったからね」
鈴木「世界観も特殊だし、音楽も良かった。他に最近だと『カリギュラ』でしょ? アニメにも関わってるの?」
増子「アニメにも参加しました。音楽スタッフの筆頭に書かれている。一応毎回自分の曲は使われていますよ」
鈴木「アニメちゃんと見ます!!」
鈴木「ところで最近はどんな音楽を聞いてます?」
増子「最近はYouTubeで散歩することが多いかも。古いの、新しいの、ジャンル関係なし」
鈴木「あ~、私も似た感じだけど レディオヘッドとビョークに偏ってる」
増子「どちらかというと技巧系に惹かれるかも」
鈴木「増子さんすごい聞く音楽は幅広いよね」
増子「ちょっと前のになるけど、ダーティーループスとか……コードでの遊びが凄いんだよね、彼らは。ペリフェリーとかはプログレッシブデスメタル?? 技術でも音楽性でも、惹かれるところが一つでもあれば聞いちゃう」
鈴木「なるほどね~」
※註9: 今井秋芳:アトラス卒業生のゲームクリエイター。代表作は『東京魔人學園伝奇』シリーズと『九龍妖魔學園紀』。両ゲームはアニメ化もされている。他にも『魔都紅色幽撃隊』など。ジュブナイル、伝奇ものにこだわる。
※註10: 『デモンズゲート』:Donutsからリリースされたスマホ伝奇ゲーム。鈴木もストーリー・プロットなどで関わっている。
・企画の発端は!?
鈴木「ところで、今一緒にやってるインタラクティブ絵本の企画は、増子さん発なんですがっ!」
増子「ほい」
鈴木「どうしてこうしたのをやろうと思いついたんですか?」
増子「ものすごく単純な言い方をすると Samorost みたいな惹かれるゲームを作りたいというところからスタート」
鈴木「Samorost……これはまた独特な世界観。その世界に入り込める感じ?」
増子「そうですね。まずは世界観。作り込みというかゲームとしては凄く単純だけど、パズルを解こうと絵を見ながらじっと考えている間は、ずっと深く世界観に浸れるのが理想」
鈴木「なるほど」
増子「メガテンもそんな感じがあるし」
鈴木「確かに……作ってみたら、メガテンにはそこでしか吸えない空気が漂っていた」
増子「極端な話、好きなやつは付いて来い的なスタンスで作りたいです」
鈴木「今のゲームって、もう誰でも捕まえて、とにかくサービス、サービスってスタンスだものね」
増子「逆につまらない……」
鈴木「クラウドファンディングだと、もう出資したからにはとことん付き合ってもらいましょう、という一蓮托生!」
増子「でもまだどうなるのかわからないところも多々あるので、そこが楽しみでもある」
鈴木「我々も未体験ゾーンだ」
増子「あと、絵を描く方々と接触する機会が増えて、その辺仕事でリンクできないかなと」
鈴木「今回はアオガチョウさんだけど、別の人たち? このプロジェクトが成功すれば、他の作品も『異譚女子シリーズ』として計画してるんだっけ」
増子「そうそう。続けられると良いんだけどね。ゲームも思いつきとか、ひらめきで解ける……子供のほうが解きやすいみたいなのも理想かも」
・私たちは十三月のふたり姫 コンゴトモヨロシク…
鈴木「『十三月のふたり姫』に関しては、まだしっかりとしたプロットも提示していないので、答えにくいかも知れませんが、どういう楽曲を提供したいですか?」
増子「今回のプロモ用の90秒の曲は森の夜明けをイメージしたものだけど、ストーリーに合わせたものか、または環境音主体になると思う」
鈴木「その中に浸れる手伝いをするって感じ?」
増子「ゲームにおいて音は基本的に手伝い&当たり前にあるものというスタンスで作っています」
鈴木「それで心にじわっと侵入されるのね、増子サウンドは」
増子「プレーヤーと意見が合うと、相乗効果が得られます(笑)!」
鈴木「悪魔の見えざる力がそこに働いている……」
鈴木「では、最後にファンの皆さんにメッセージありますか?」
増子「言い出しっぺの自分ですが、どうなるのか全然分かっていません(笑)」
鈴木「全然は困るんだけど(笑)」
増子「ただ、これだけのメンバーが集ったということは、ものすごい引合せだと考えています。誰もが良いゲームを作ることに貪欲な人たちなので、きっと良いものが出来上がると確信しています。自分もその中で微力ながら手伝わせていただきたいと考えています」
鈴木「微力も困るんだけど(笑)」
増子「そしてなにより、遊んで良かったと言ってもらいたいですね」
鈴木「そこは死守ライン。それにすでにすっごい投資をしてくれてる人がいるようだけど?」
増子「有り難いことです。聞いたときはビビりましたが(笑)」
鈴木「増子さんのファンのお嬢さんですよね?」
増子「彼女とは知り合いなので、おっちゃん頑張るよと伝えました」
鈴木「おっちゃんかあ……我々もそんな年だものねえ」
増子「体の痛みが……(笑)」
鈴木「きょ、今日はどうもありがとうございました! お体大事に!」
増子「そちらこそ!!」
<ゲストプロフィール>
増子津可燦(ますこ つかさ)サウンド・クリエイター、サウンド・エンジニア。主にゲーム音楽を中心に活躍。1984年の『スターフォース』をデビューに、『ボンジャック』や『女神転生』シリーズの作曲、音源を手がける。その他音に携わった作品は膨大な数にのぼる。最新作は『カリギュラ』。
<インタビュアープロフィール>
鈴木一也(すずきかずなり)ゲームクリエイター。シナリオライター。代表作『女神転生』シリーズ、『モンスターメーカー』シリーズ、『偽典・女神転生』『つきびと』などなど。TRPG『真・女神転生』『新世黙示録』。ゲーム専門学校TECH.C.で講師も務める。
もっと詳しく読む: 女神転生スタッフ対談 / 鈴木一也の邪教の館・出張インタビュー: サウンドクリエイター増子津可燦(バズプラス Buzz Plus) http://buzz-plus.com/article/2018/05/05/megaten-taidan/
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