職人未満・素人以上のセミプロが活躍!KILTAが育てるセルフリノベインストラクターとは
自分で自宅をDIYでリノベーションする「セルフリノベ」に興味を持つ人が増え、体験施設も急増しています。しかし、セルフリノベのインストラクター認定までおこなっている施設はありません。そこで、今回はセルフリノベのインストラクターを育てる施設「KILTA(キルタ)」を運営する一般財団法人KILTA代表理事であり、KUMIKI PROJECT株式会社代表取締役の桑原憂貴(くわはら・ゆうき)さんに、KILTAをつくった背景と目的、今後目指している方向性についてうかがいました。
KUMIKI PROJECTが掲げる「DIT」とは?
「KUMIKI PROJECT」は、2013年に奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市でスタートしました。国産杉のブロックキットを使って、地元の人たちと21坪の集会所をつくろうというプロジェクトから始まった会社です。
2017年には事業エリアを首都圏にも拡大すべく、本社を神奈川県二宮町に移転。現在は、東北を中心とした国産材を素材に、小規模のお店やオフィスをサポートしようと、セルフリノベーションによるお店づくりやオフィスづくり、ワークショップまで手がけています。
そんなKUMIKI PROJECTが掲げるコンセプトはDoing It Togetherを意味する「DIT」です。「『ともにつくる』を楽しもう、ということを大事にしたくて使っている言葉なんです」と桑原さんは言います。岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)
「僕自身、5年前までDIYはやったこともありませんでした。実は、被災地で集会所をセルフビルドしたのがはじめてのDIYだったんです。ともにつくることで、みんながつながっていく。その光景はとても印象的で、KUMIKI PROJECTの原点になっています。だからといって、みんなにつながりこそ何より大事だと、無理強いするつもりはないんです。つながりは強くなりすぎるとしがらみになってしまう可能性もある。むしろ、今のライフスタイルにあったつながり『方』を増やしていきたい」(桑原さん、以下同)
無理につながろうとする、というわけではありません。あくまでつながりたい人が、つながることができる機会をつくるのが大事、それがKUMIKI PROJECTの思いでもあります。
KUMIKI PROJECTの活動の中で生まれた「KILTA」
KUMIKI PROJECTは活動当初、国産の杉材でつくる家具キットを開発し、販売していました。でも、売上を伸ばすのは大変だったそう。国産材でつくるから、大きな家具量販店が製造する量産品に比べると、価格がどうしても高くなってしまう。家具キットの製造販売という方法だけでなく、どうすれば被災地の国産材をより多く使ってもらえるのかを改めて考えた結果、たどり着いたのが「キットをツールとして使い、オフィスづくりやお店づくりのセルフリノベーションをお手伝いすること」だったのだそうです。
「例えば、100万円ほどの予算でお店づくりを行うとします。これまでのように建築事務所や工務店などの専門業者に相談して進める場合、この予算ではできることがかなり限られてしまうのが現実です。でも、僕らの場合、職人さんではなく、お店をはじめる人と一般の人々が一緒に手を動かし、ワークショップ形式で空間づくりを進めるため、『コストは抑えながらも、愛着はいっぱいなお店づくり』が可能になるんです。これまでつくってきた国産材の家具や内装キットを使うため、DIY初心者でもクオリティを守った空間づくりができています。
お店をはじめる人からすると、最初の負担を下げることができるだけでなく、手間をかけることで愛着が生まれます。そして、ともにつくった人たちは自分のお店の大切な応援団になっていく。そんなお店づくりで、僕らの価値が発揮できるようになりました」空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJECT 写真撮影/八幡 宏)
しかし、そこで持ちあがった課題が、こうしたワークショップでセルフリノベを教える「先生」の不足。素人だけでは分からない空間の構造や、工具の使い方や材料の加工方法について現場でサポートしてくれる先生、インストラクターが必要でした。
「家具や内装はキット化しているため、職人さんじゃなくてもできるようになっています。だからこそ、例えば、地域の子育て中のお母さんが、お子さんが学校に行っている間に、インストラクターをやるというのでもいい。地域の人たちがインストラクターになり、地域の材を家具や内装キットにし、地域で空間づくりをはじめる人を支える。そんな循環ができるといいと思っています。
そのためには、セルフリノベーションに関する知識と技術を伝え、インストラクターになりたい人を育てる拠点が必要でした。例えば、床の張り方、壁の塗り方や張り方、家具の造作の仕方などを学んでもらうプログラムをやるためにつくったのがKILTAなんです」
KILTAのインストラクターは「職人未満・素人以上」
KILTAのインストラクターは「ものづくりやインテリアが好きだから仕事に活かしたい。でも、職人として技術を極めて仕事をしたいわけじゃない人」なのだと桑原さんは言います。DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月頃から本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)
「みんなで楽しみながらつくるために必要な知識や技術は、空間を施工する職人の技術とはかなり違います。例えば、ワークショップに参加したけれど、不安で手が出せない人や、何をやれば良いのかわからなくて手が空いてしまった人などに、楽しんでつくってもらうためのコミュニケーションの取り方や、時間内に終わらせるスケジュール管理、散らばった工具につまずいて転んだりしないように注意するといったリスク管理などができることが求められます。そのうえで、職人まではいかなくていいけど、空間づくりに最低限必要な知識と技術があって楽しくワークショップを進められるっていうことがインストラクターとして大事なことなんです」
昨今のDIYブームもあってか、インストラクターをやりたいという人は多く、昨年末から行った説明会は軒並み盛況だそうです。
「暮らしをつくれる人を増やしたい」全国にKILTAを
KILTAはもともと横浜にあるリフォーム会社とKUMIKI PROJECTの共同事業として始まりましたが、職人不足や高齢化などの課題を抱える建築業界をはじめ、DIY市場の拡大を進めたい建材メーカー、インテリアやDIY情報の発信を行うメディア、多様な働き方を増やしたい地域団体などからこうした動きへの賛同を得られたことから、今年1月に一般財団法人KILTAを設立。同法人で本格的にインストラクター育成事業に取り組むことになりました。拠点も横浜だけではなく、京都や春日部、神戸にも開設準備中であり、全国各地で暮らしをつくれる人材育成に注力していきたいのだそう。
一方でネックになるのが工具の問題。本格的な機械工具や手道具を、インストラクターになった人がすべて用意するのは負担が大きすぎるため、現場で使用する工具類はKILTAがすべて用意する形で考えているそうです。
「壁塗りや床張りなどのワークショップで使う工具一式を詰め込んだ『ツールボックス』と僕らが呼んでいる工具箱を、現場に直送できるようにテスト運用をはじめています。インストラクターになった人は、手ぶらで現場にいき、ワークショップを実施。終了後は、手ぶらで帰っていける形にしようと思っています。ですから、KILTAという拠点は、実は倉庫機能も兼ね備えた存在でもあり、全国にこうした拠点を増やしていきたいと思っています。
いま、全国には公立図書館がおよそ3000カ所あります。図書館が暮らしの知恵を学ぶ場だとしたら、KILTAは暮らしの技術を学べる場所として、同じくらい全国各地のインフラとして増やしていければとよく話しています。
広い工房がなくても、例えばマンションの一室をKILTAという拠点にする。そこには工具を集約し、マンションの修繕をマンションに住んでいる人がインストラクターになって支えるようになるという形もあるのではと思っています」京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)
一方で、インストラクターとなった人たちが、きちんと報酬を得て活躍できるような舞台をつくることも大切。現在は、リフォーム会社などにも働きかけている最中なのだそうです。
「例えば、 建築現場というのは、個人宅の新築やリノベーション、お店やオフィスづくり、公共施設の修繕など、本当に多種多様です。多種多様であるということは、求められるスキルや難易度も本来はバラバラだということです。
にもかかわらず、どんな現場でも、すべて職人さんが仕事として受けているというのが、これまでの当たり前でした。でも、この難易度や必要なスキルをきちんと現場ごとに分析し、分類できれば、素晴らしい技術を持った職人ではなくても対応できる現場が実はたくさんあるのではないでしょうか。
業界全体で建築現場を分類する指標をつくり、必要なスキルを持った人に適切にマッチングすることで、職人未満だけど、素人以上のセミプロであるインストラクターの人々でも十分に対応できる舞台ができると考えています。そうすることで、地域にたくさんの小さな仕事が放出され、一方で技術を持った職人さんは価値ある仕事に集中できる、そんなみんながハッピーな世界をともにつくれたらうれしいです」
セルフリノベーションを通じて「地域に住む人たちが自分の暮らしに『つくる時間』を取り戻していく流れができたら」と考えていたという桑原さん。地域の人たちがKILTAで学び、インストラクターとして活躍できる場が増えれば、ライフスタイルや働き方も変わっていくかもしれませんね。●取材協力
・KILTA
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2018/04/153256_main.jpg
住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
関連記事リンク(外部サイト)
「リノベ・オブ・ザ・イヤー 2016」に見るリノベ最新事情とは?
施主も一緒に。新しい住まいのつくり方[3] 参加しないなんてもったいない。家族でつくる団らんの場
施主も一緒に。新しい住まいのつくり方[4] 新築住宅を自分好みに“育てる”
~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。
ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/
TwitterID: suumo_journal
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。