佐藤秀峰の「BOOKSCANに行ってみた」

「第3回ネーム大賞」の募集を終え、早速「第4回ネーム大賞」への作品を募集している電子書籍サイト『漫画onWeb』!!
げんきんなサイトです!!みなさま、どうぞよろしくお願いします。

今回は、漫画家・佐藤秀峰がBOOKSCANさんにお邪魔した際の、
インタビューまとめ日記を公開です!! どうぞ〜♪

(自炊代行ドットコムさんにお邪魔した回は、こちら

* * * * *

さて、1ヶ月ほど前のお話しになりますが、蔵書の電子書籍化サービスでお馴染みのBOOKSCAN(ブックスキャン)さんにお邪魔してまいりましたよ。

紙の本をスキャナーで読み取り、自前の電子書籍を作る作業を代行する、いわゆる「自炊代行業」ですが、出版、漫画業界では著作権侵害の恐れがあるとして、かねてより問題視がなされておりました。

本日付けのニュースでは、東野圭吾さんら作家7人がスキャン行為の差し止めを求めていた自炊代行差し止め訴訟において、被告2社のうち川崎市の業者が27日、請求を認める「認諾」を表明したことが伝えられています。

スキャン差し止め請求受け入れ…自炊代行1社(YOMIURI ONLINE)

と、そんなタイミングではありますが、法律論ばかりを振りかざす前にまずは現場を知ろうじゃないかということで、本日はBOOKSCANさんからの現場レポートをお届けします。

前回の「自炊代行ドットコム」さんへのインタビューに続いて取材(?)第2弾となります。
BOOKSCANさんは、1冊100円で書籍を裁断し、スキャナで読み取りデータ化するサービスを行なっており、日本だけでなく、アメリカ、韓国でも事業を展開している国際的な企業です。

いわゆる自炊代行業界では業界最大手となります。

依頼を受けた書籍はデータ化の後、原本が再流通しないように溶解処理をするという徹底ぶりで、出版社や著者への配慮はもちろん、OCRオプション(透明テキスト)を追加注文すると、例えば数千冊の本の中から目的のフレーズを検索可能にできるサービスまであります。

さらには、特許取得サービスのBOOKSCANチューニングラボでは、納品後のデータを使用する端末に合わせて最適化することまでできるのです。

これは他にないサービスですね。
詳しいサービス内容をお知りになりたい方は、ぜひこちらのサイトをご覧ください。

* * * * *

さて、オフィスにお邪魔して、まずは注文を受けてから納品までのフローをご説明いただきました。

ご説明してくださったのは、社長の岩松さん、取締役の藤田さん、大木さん。

畏れ多いですな〜〜。

何でもお三方は幼稚園、小学生の頃からの幼なじみなのだそうですよ。
データ化の注文はホームページに会員登録(無料)してもらいマイページから、本が到着したら裁断、スキャン、納品、廃棄と、ごく一般的な代行サービスと変わらない物ですが…、どうも何かが違います。

フローが異常に細かい……。

作業工程が細分化されており、関わる人の数がとても多いのです。

書籍の到着から受付、到着確認、ラック収納、納期の予定組、作業開始報告、裁断、スキャン、冊数確認、全ページチェック、再スキャン、サーバへアップロード、承認確認、承認、納品、廃棄と、1冊の本がデータ化されるまで少なくとも7名が関わるそうです。

社員はアルバイトを含め約200名。

東京本社に加え、大分県の作業所と提携しているそうです。

作業はすべて専用サイトで管理されており、作業員全員にマイヘページが割り当てられ、作業の進歩状況が自動でグラフ化され一目で分かる仕組みになっています。

社員同士で交流できる社内SNSまでありました。

以前はチェックシートを作成し、それと照らし合わせながら作業をしていたそうですが、ミスがある度にチェックシートを調べ直す手間がかかるため、現在は完全にデジタルでの管理に移行しているそうです。

うーんと…、なんかすごいぞ…。

2010年に事業を開始されたと聞いていましたが、「この管理サイトを作るだけでも2年くらいかかるんじゃないの?」という充実ぶりです。

お見せできないのが残念。

アルバイト社員を含む社員全員にiPadが支給され、情報を共有しているそうです。

こちらは廃棄前の書籍の保管所。(*画像を加工してあります)

裁断済みの本が詰まった段ボールが、所狭しと積み上げられております。

確かにこの量の作業をチェックシート頼りに行うのは難しそうですね。

こちらは試作中の次期裁断機。

え?

裁断機って市販の物を使うんじゃないんですか?

自社開発してしまうって…。

さっきの管理サイトの充実ぶりと言い、なんかすごいですね…。

こちらはスキャナ。

やはり市販のスキャンスナップではありません。

それらとはクオリティの面で大きく異なるそうです。

お値段を聞きましたら、おぅ…、リアルですなぁ…。

さらにすごいのがサーバーです。(*画像を加工してあります)
どーーん!!

170台くらいあるそうです。

僕もサイトを運営しておりますが、これだけのサーバーをつなげてシステムが美しく動いているだけてでも感動ものです。

オフィス。

会社のロゴ入りの自動販売機まであって、ヤバいっすよ、先輩。

もしかして僕、すごい所に来ちゃった?

と言いますか、管理サイトを見た時も感じましたが、事業開始から2年でここまでシステムを組み上げることができるものなのでしょうか。

オフィスのデザインから工事だけでも、業者に発注したら何ヶ月かは時間がかかるものだと思うのですが。

役員の岩松さん、藤田さん、大木さんは大分県の出身。

すでに東京の企業に勤務していた大木さんが、2009年に飲食業を始めようと、幼なじみで広島の日本料理店で料理長を務めていた岩松さんを東京に呼び寄せ、都内に飲食店を開業…、のつもりがリサーチの結果、飲食店は厳しそうなので、お総菜屋さんを開業。
しかし、まったく上手くいかずに半年で休業。
料理人の岩松さんに、勤めていた料理店をやめてまで上京してもらった穴埋めを、何かしなくてはいけないと思っていたそう。

その頃、その大木さんはiPadの発売に合わせ、自ら蔵書2000冊の電子化を進めていたそうで、その作業の中で、これは自分のような本好きの人に喜ばれるかもしれないと感じたそうです。

そして、また岩松さんを誘い、全く異なる事業でしたが、本の電子化から廃棄までを行うというサービスを始めたそうです。

「こんなサービスを始めます」とネットで発表した所、「それは便利!」「でも、それって著作権法違反 じゃないの?」と話題沸騰、サービス開始と共に注文が殺到し、仕事場にしていた自宅兼ワンルームマ ンションは一瞬でパンクしてしまいました。
2日後には事業拡張のための物件を探し始め、2週間後には機材を増強し2つ目の事務所を開設、同時に世間ではサービスに対するバッシングが渦巻き、作業の様子をUSTREAMで生放送して透明性を訴えるなど対応しました。

また、音やゴミ問題から隣人とトラブルに発展し、事業開始1ヶ月後には3軒目の事務所に移転。

この時は、まだ市販の裁断機やスキャンスナップを使用していたそうです。
事務所はDIYの手作り。

そうか、業者を挟まないんだ。

だから、工事が早いんですね。

冒頭の写真の棚やロゴも社長自らの作だそうですよ。

機材は増強に増強を重ね、さらには改造も加え、最大で55台のスキャンスナップを使用していたことも。

事業開始2ヶ月後には同じビルの別フロアも賃貸し、事業を拡張。
2011年3月にはそれまでの2フロアに加えて、現在のオフィスも開設し、5回目の引っ越しをしました。

さらには韓国、アメリカにも進出…。
今時、こんな分かりやすいサクセスストーリーがあるものなのかと驚くくらいに、一気に成功への階段を駆け上がっております。
う〜む、あやかりたいものですね。

オフィスを見学した後は、いよいよデータ化の作業現場へ。

別のビルの作業フロアに向かいます。

入り口付近には、やはり段ボールの山。

その奥へと進みますと…。

おお〜〜。

ガッシャン、ガッシャン言ってます。

機械が大きな音を立てながら、その中で大勢の従業員さんが黙々と作業にいそしんでおりますよ。

ここへ来る前に伺った通り、全員の席にiPadが設置してありますね。

ノートパソコンを併用している方もいらっしゃいます。

あれ?

こちらはiPhoneです。

全員にiPad支給なんて、やっぱり無理ですよねぇ…。

経費削減?

いや、そうでしょう、そうでしょう。

…と、思ったら違いました。社内向けのiPhoneアプリを開発しており、アプリを起動させてiPhoneのカメラに本をかざすと…。

なんと例の自炊代行問題に絡んで、自炊代行拒否を表明している著者の書籍の場合、エラーサインが出るようになっているのです。

書籍をチェックして本が選別されます。

ここでも作家に配慮がなされていました。

…て言うか、選別用のアプリを開発してしまうってすごいですね。

選別された本は段ボールに詰められ、改めて優先順位などを決めて、納期の予定が組まれます。

こっちは裁断される運命の本。

こちらは自炊代行拒否リストに引っかかり送り返される本。

データ化されて読まれ続ける本と、居場所を失い送り返される本とどちらが幸せなんでしょうね?

予定表に従って、本が裁断されていきます。

自社開発した裁断機に本をセットし、ボタンを押すとサクサクと本が分解されていきます。

さっきから何度も同じ言葉ばかり繰り返していますが…、スゴ〜〜イ!!!

こんな本格的な裁断機を持っている自炊代行業者さんって、恐らくこちらだけですよね。

本当にサックサクなんですよ。

まるで柔らかい粘土でも切るように、本がスルスルと機械に飲み込まれてはバラバラになって出てくるのです。

本の代わりにちくわやかまぼこをセットしても、キレイに切れそうですね。

1日にデータ化できる本の冊数は非公表ですが、「国会図書館を丸ごとデータ化してくれと言われれば、頑張って体制を作ることは可能です」とのことでした。

実際に大学の研究室の依頼を受け、蔵書を丸ごとデータ化するようなことはよくあるそうです。

首都圏を中心に多くの大学研究室の蔵書をデータ化しているそうな。
ここに来て、僕は段々と分かってきました。
先ほどの書籍の選別アプリと言い、裁断機を作ってしまう行動力と言い、彼らの成功は単なるラッキーではないのです。

タブレットPCの登場に合わせて、いち早く書籍のデータ化の需要があると気がついたから、という理由だけで成功した訳じゃないのですよ。

要は状況に対する対応能力がすごいのです。

サービスがヒットしたらすぐに事務所を拡張し、機材を増強し、同時に管理システムを作り上げ、アプリを開発し、さらには裁断機まで自社開発してしまう。

170台のサーバーをきれいに動かし、そして、それをわずか2年で構築、特許技術を開発し、海外にまで進出してしまう。
それをやりきってしまう!

やりきれてしまう!!

これは成功すべくして成功しているだけの話です。

これだけのことを2年でできる能力があれば誰でも成功するわ〜〜、と思うと、もう自分の小ささに下を向いてしまうほどです。

さて、顔を上げますと、裁断機の向こうにスキャナが見えます。
裁断が終わると今度はスキャンです。

これまたスルスルと本がスキャナに吸い込まれていきます。

スキャンデータは目視確認され、問題が発見された場合は再スキャン、その後、本番サーバーへアップロードされます。

そこでもチェックが行われ、承認されると依頼者であるユーザーに通知が届きます。

ユーザーはマイページにログインしデータをダウンロード。

これにて納品完了です。

チューニングラボと呼ばれる特許サービスを使えば、各端末用にデータを最適化することもできます。

品質に納得がいかなければサポートセンターに連絡し、再スキャンを依頼することも可能。

本当によくできたシステムだな、と感心しました。

これは彼らを追い越す技術を手に入れることは追従者には無理なんじゃないか、という気さえしてしまいましたね。

そして、それを惜しげもなく初対面の僕に見せてしまえる自信と余裕。

僕は漫画家で、世間じゃクリエイターだなんて呼ばれ方もしますが、これ程クリエイティブな仕事が自分にできているのだろうかと考えると、まさにこれこそクリエイトなのではないかと…、自分は何の役にも立たない漫画を描いているだけではないかと…、いえ、別に自分を卑下する必要はないのですが…。

だって、本当にすごいんだよ〜〜!!
感動したんだよ、僕は〜〜!!

ハァ、ハァ…。
えー…、以上でレポートは終了です。

BOOKSCANさん、貴重な現場を見せていただき、本当にありがとうございました。

 

さて、ここからは私見です。

今年4月2日、出版各社が出資して(株)出版デジタル機構(Pubridge)という会社が設立されました。

出版デジタル機構は、電子出版ビジネスの市場拡大をサポートするための公共的なインフラを整え、読者にとってよりよい読書環境を育むことを目的とし、電子出版、電子書店などへの新規参入を容易にし、誰もが電子出版による言論表現活動に参加できることを目指す会社です。

 

5年後には電子出版の市場規模を100万点、2000億円に拡大することを目指しており、すでに出版社274社が賛同や参加を表明していると言います。

官民ファンドの産業革新機構は3月29日、この「出版デジタル機構」に最大150億円を出資すると発表し、出版界がこぞって結集することで、電子書籍のコンテンツ不足の解消が大きく前進する可能性が期待されていますが、一方で具体案が発表されていないのが心配な所です。

「出版業界が大小合わせて連合を作って、公的援助も取り付けて、予算もたっぷりあるぞ!」という以上に、 具体策がまったく聞こえてきません。

約9万点の書籍の電子化の仮申請があったとの報道もありますが、これらは事前に著者に許諾を得た物とは考えにくいため、またひと騒動あることは容易に想像がつきます。

じゃあ、どうやって書籍をデータ化するの?と質問したら、彼らに「国会図書館を丸ごとデータ化してくれと言われればできますよ」と即答できるとは思えません。

では、すでにそれをできる人たちがいるのに、なぜ協力を求めないのでしょうか。

まだ失望するのは早いとも思っていますが、電子書籍時代において、出版社連合が自炊代行業者潰しに夢中になり、著作隣接権を主張したり、データの原盤権を主張したり、既得権益をどうにか守ろうと動き回っている間に、取り返しのつかない時間とお金を浪費してしまうのではないかと危惧しています。

世界では電子書籍が主流になり始めているのに、日本は国内で利権争いをしているとは何とも残念な気がします。

日本国内の電子書籍事業が進まないのは、自炊代行業者がいるからでも、作家が紙に執着しているからでもなく、出版業界が電子化の流れを拒んできたからではないでしょうか。

日本語の書籍は縦書き、右開きも多いので、その電子化には他の言語にはない工夫が必要です。

それだけに、海外の企業は日本より先に他のアジアの国々での書籍の電子化に力を入れています。

気がついたらアジアで電子化が進んでいないのは日本だけ、という状況が産まれてもまったく不思議ではありません。

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