【「本屋大賞2018」候補作紹介】『かがみの孤城』――大人の心にも響く優しいファンタジー
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2018」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは辻村深月著『かがみの孤城』です。
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学生時代、世界とは”学校”が唯一であり絶対的な存在――。逃れられない世界に絶望し、生きにくさを感じた人も少なくないはずです。本書はそんな大人にも読んでもらいたい物語。
主人公の安西こころは春から中学生になった早々、クラスメイトの真田美織を中心に無視されたり陰口を叩かれ、決定的な”ある出来事”が起きてから学校を休むようになってしまった女の子。ある日、フリースクールにも行けず、自室に閉じこもっていた彼女が遭遇したのは光り輝く鏡、手を伸ばすと吸い込まれてしまい…。
鏡の奥に広がる異世界で出迎えてくれたのは、狼のお面をつけたレースがたくさんついたピンク色のドレスを着た少女”オオカミさま”でした。「あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれましたー!」とこころを招き入れ、ほかに男女6人の中学生がいること、「願いが叶う城」であることを告げます。
オオカミさまは、この城にある、一人だけ願いが叶えられる「願い部屋」の存在、そして、部屋に入る「願いの鍵」を探すことがミッションだといい、「城のルール」を説明します。
入城できる時間は来年の3月30日まで、9時から17時の間なら出入り自由。ただし、もしも、17時以降に城に残っていた場合、当事者だけでなく連帯責任として、その日城にいた全員がオオカミに食い殺されてしまう。期限内に鍵が見つからなくても、誰かが願いを叶えても、その時点で城は閉じる。城に入れるのは招待された7人のみで、周囲に第3者がいるときは入れない。なお、この城で過ごす時間は現実世界でも進行しているというのです。
城内ではゲームをしても、おかしを食べながらお茶会をしてもOK。7人の子どもたちは、互いに同じ境遇とあってか、最初は意思疎通がやっとだったものの、次第に自らのことを語り出し、ときに励まし合う関係となり心を通わせていきます。
そんな矢先、オオカミさまから告げられた”追加ルール”。かえってそれが結束を強めることになりますが、まだまだ幾多の待ち受ける試練が待ち受けていて……。
子どもたちは無事に「願いの鍵」を見つけ、誰が何を願うのか? そして、なぜこの7人が招待され期限は3月30日までなのか、そもそもオオカミさまとは何者なのか? すべての謎が明かされたとき、きっと自然と涙がこぼれていることでしょう。
逃げられない世界で”今”を懸命に生きる子どもたちに、ときには「闘わない」「逃げてもいい」という選択肢、さらには一歩踏み出す勇気と支え合う大切さを教えてくれる本書。今生きる環境に生きにくさを感じる大人たちにも優しく響き、人生の処方箋となりそうです。
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