バカらしいほど愛情とコストかけられすぎな三菱 パジェロは恐るべし本格クロカンだ!!
▲現行型パジェロは、今流行りのデザインとは違う魅力にあふれている。アウトドアシーンはもちろん、おしゃれなニュータウンにもしっとりとなじんでしまうデザイン力を再発見した
本格クロカンとしての理屈と風格がこの車にはある
「松本さん、週末に雪山のロケに行こうと思って今パジェロ乗ってるんですが、笑っちゃうくらい面白い車なんで乗ってみません?」
編集部の大脇さんから陽気な電話があり、とりあえず合流した。
久々に三菱 パジェロをじっくり見たが、クロカンとして実に理にかなったスタイリングをしている。短いフロントオーバーハングは急斜面などに突入する場合に効果的だ。
パジェロはビルトインフレームという、昔ながらのラダーフレームとボディをドッキングした方式を採用している。
昨今のシティ派SUVのようなスタイリッシュさはない反面、本格的な四駆としての性格がにじみ出ている。
FRだとノーズが長くなりがちだが、パジェロはそのあたりをうまく処理しており短い。
そして、堂々としたデザインで大きく見えるが、近くで見ると意外とコンパクトに感じるデザインが巧妙だ。このあたりにデザイナーのこだわりと工夫を感じる。
▲フロントオーバーハングの短さ、つまりアプローチアングル(車軸からバンパーの先端)が短いことのメリットについて説明中。これだけ短ければ急斜面や悪路に向かって遠慮なく侵入ができるだろう
ニヤつきが止まらない、粋なドライビング感覚
「なんか、トラックを運転しているみたいで妙に気分がアガるんですよ、コレ。今はそういった車あまりないですからね」
それはそうだ。何といってもこのパジェロのエンジンは3.2L 4気筒4バルブのディーゼルターボ。4M41という型式のエンジンで、4M系統のディーゼルエンジンといえばトラックの「キャンター」にも搭載されている形式。つまり耐久性や信頼性は抜群に高いのだ。
恐らく50万kmくらいの走行はへっちゃらだろう。エンジンより先にミッションが悲鳴を上げてしまうような代物だ。そして、最新のディーゼルと比べるとエンジン音も大きい。
▲運転席からの見切りがすこぶる良い。この見切りの良さは悪路を走行する際、絶対に必要だ。低中速重視の特性を持つディーゼルエンジンは力強い。5速ATも軽やかにシフトアップしていき、およそ2トンを超える重量ボディをグイグイ引っ張る。それにしても久々に味わうこの感覚は実に楽しい。大脇さんの言っている「トラックみたい」や「気分がアガる」というのもうなずける
隠れた実力派メーカー、三菱車の今後に注目せよ
ここ4年くらい前から、三菱車の試乗会などでエンジニアの誠実さを感じていたということもあったが、僕は最近の三菱車に期待をしている。
例えばデザイン。アウトランダーPHEVやデリカD:5などは古くならないデザインだと思っている。これは車を長く所有するユーザーにとっては車両スペック以上の価値だろう。
さらに、先日雪上試乗したエクリプスクロス。この4WDのセッティングの安定性が抜群に良いのだ。それについてエンジニアが熱く語っていた印象が強かったことも理由かもしれない。
そして三菱は鉄板のプレス技術が高い。エクリプスクロスもそうだが、日産と合弁で作った軽自動車のekシリーズも、ドアまわりのプレスの仕上がりはかなりいい。
こういった細かいところまで見てみると、そのメーカーの真の技術力が見えたりするものなのだ。
▲三菱が4WDを得意とするメーカーであることをあらためて知るきっかけとなったエクリプスクロス。この車は本当に良くできた4WDを搭載している楽しみなモデルだ
なんと、現行型パジェロは12年間変わっていない!?
「でも、三菱の4WDのご先祖様はやっぱりパジェロじゃないですかね。20年以上前に峠で、トヨタのAE86とか日産 180SXに交じってショートボディのパジェロがドリフトしているのを目撃しておったまげたことがありますよ(笑)」
パジェロはかつて、国内にRVブームを巻き起こすきっかけとなった三菱を代表するモデルだ。確かに大脇さんの印象どおり、三菱の4WDのご先祖様はパジェロと言っても間違いとは言えないかもしれない。
実は、現行型パジェロといっても2006年から12年間もほぼ同じなのだ。
しかも、先代の3代目とは外観やパワーユニットなどは変わっているものの、基本はその当時から一緒なので、およそ20年前の設計に手を加える地道な作業で現在に至っていることだ。
逆に言えば基本設計がかなりしっかりとしいるから今でも耐えられるとも言えるわけだけだが。
今は、貴重すぎるハンドメイドの受注生産モデルとなっている!?
「でも、今は月販60台くらいしか売れてないんですよね……。こんなに面白い車なのに」
なんと、1日2台くらいの製造……。ただ、パジェロは価格以上にコストをかけているある意味お買い得モデルと言える。
製造工程で手作業の部分が多く、塗装も職人が丁寧に手で吹いている。車を1台1台丹念に検査する人数も多い。ホームページにその様子が見られる動画があるがそれを見ると、もう車の良し悪しは通り過ぎて、ただただ「いいなぁ」という温かみを感じる。
今このような製造方法は一部の高級モデル以外では行っていない。多くの人が携わってクオリティを安定させるのは難しいのだ。
また、三菱のFRベース車は現在パジェロだけ。それも考えると、とんでもないコストをかけているモデルなのだ。そして、ノスタルジーを感じるヘビー級の新車も、国内ではすでにパジェロだけであろう。
一部のド級の高級車を除けば、大衆的な量産車ではこのような車作りは将来的に廃れてしまうだろう。
経験ある職人が一緒に力を合わせてハンドメイドで車を作るということは、技術の継承という意味において大切だということを考えさせられる1台だ。たとえそれが採算度外視だとしても……。
だからこそパジェロよ、もっと売れてもいいと思うんだけどなぁ……。
▲パジェロはサイドシル(シートとドアの間を通るボディ下部のフレーム)が浅いから乗りやすい。そのせいもあり、着座位置とドアが近くて薄いので有料パーキングの駐車券が取りやすいというメリットも発見できた
▲ATのシフトノブが大きくてごっつい。男らしいが、今見るとグリップが異様に大きい。セレクターのデザインに昭和のショーカーを感じる
▲トランスファーを使ってローレンジも選択できるところが本物。恐ろしいトルクをこのギアで発生し、アイドリングだけで結構な坂を上っていけるはずだ。デフロックのボタンはシフトレバー前に配置している。悪路ではデフロックのほど強力な武器はない
▲「さすがパジェロ!」を体感したく、雪積もる山道を目指した。調子に乗ってこの道の先まで冒険した結果、『マズイ!!』という状況に追い込まれるものの、駆動システムを「4LLc」にセット、デフロックスイッチをオンにした途端、クリープ現象だけで雪に埋もれそうになっている状態からスルスルと脱出できてしまった。恐るべし本格クロカン! 恐るべしパジェロ!
【SPECIFICATIONS】
■グレード:スーパーエクシード ■乗車定員:7名
■エンジン種類:直列4気筒DOHC+ターボ ■総排気量:3200cc
■最高出力:140(190)/3500 [kW(PS)/rpm]
■最大トルク:441(45.0)/2000 [N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:4WD ■トランスミッション:5AT
■全長×全幅×全高:4900×1875×1870(mm) ■ホイールベース:2780mm
■ガソリン種類/容量:軽油/88(L)
■JC08モード燃費:10.0(㎞/L)
■車両価格:495.18万円(税込)
text/松本英雄
photo/篠原晃一
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