不利な状況を打破するための必要条件は「○○」と「場所」の2つーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。三田紀房先生の『マネーの拳』、第10回目をご紹介します。
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「私達の技術は最高よ!」(『マネーの拳』第2巻 Round.11より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
「技術者とは、プライドの生き物」
西野の縫製工場を引き継ぎ、隣のプリント工場も買い取った花岡。ところが、工員たちは新経営者・花岡に対してストライキで対抗します。西野が一時、黙って失踪したことによって、すっかり工員たちの信頼を失っていました。
工員たちの中心となっていたのが、片岩八重子(かたいわやえこ)という技術者です。工場で商品のサンプルをつくれるのは八重子一人だけとあって、何とか味方に引き入れようと、一計を案じる花岡。そこで「話し合おう」と八重子を連れ出し、かつて自分が所属していたボクシングジムに向かいます。
花岡はジムの会長から、後援会が着用するTシャツを受注します。花岡から「ウチの最高の技術者です」と紹介されても、「おだてには乗らない」という八重子。しかし、選手からの「たかがTシャツ」という心ない一言が、八重子のプライドを傷つけます。思わず「二度とそんな口が聞けないように、びっくりするくらい素晴らしい製品をつくってみせる」と啖呵を切るのでした。
まんまと花岡の策にハマったことを悟った八重子。お昼をご馳走することと引き換えに、サンプルづくりに同意するのでした。
人と交渉する際に「意識すべきポイント」とは
今回、物語のキーパーソンとなる技術者・片岩八重子が登場しました。見た目は一介の主婦に過ぎない八重子ですが、花岡がビジネスを展開していく上で、重要な役割を演じます。
八重子が自分の縫製技術に並々ならず情熱と自信を持っていると見て取った花岡は、第三者の前で、それを尊重してみせます。と同時に、何も知らないジムの選手に軽んじられたことが、八重子の職人魂に火を点けます。八重子の技術者としてのプライドを、うまくくすぐったワケです。
花岡と八重子との駆け引きには、人と交渉する上での重要なヒントが隠されています。それは、
(1)相手のプライドを満たす代わりに、優先順位を入れ替えさせること
(2)いつもと違う場所で交渉を行ったこと
の2つです。
もともと、社長の交代を機に、八重子と工員たちは、自分たちの待遇を改善させようと目論んでいました。花岡がアパレルの素人だと知り、足元を見られます。そうした劣勢を一気に挽回できたのは、花岡が「彼らが真に求めているもの」に気づき、そこに訴えかけたからでした。
場所が変われば立場が変わる
有利な立場にある相手を、交渉のテーブルにつかせるためには、「自分だったら、望むものを与えられる」と相手に悟らせることが必要です。そのために、物語では八重子に対して一芝居を打ったわけですが、さらに花岡が巧妙だったのは、交渉する場所を変えたことです。
場所を変えるということは、「自分の普段、慣れ親しんだ場所から引き離される」ということを意味します。つまり、自分が王者である場から離れることによって、自己防衛することを迫られます。また、場所が変われば「キャスティング」も変わります。
万一、花岡が交渉をそのまま工場内で行なっていれば、みんなが見ている手前、八重子もうかつに態度を変えることはできなかったでしょう。場所を変えることによって、それぞれの立場が変わり、「従業員VS経営者」という構図から「職人VS理解者」へと変化しました。これがお互いに歩み寄るきっかけとなったのです。
人は、お金だけでは動かない
働いている人に、「あなたはなぜ、働いているのですか?」と聞くと、多くの人は「お金のために働いている」と答えがちです。しかし、今回の話は必ずしも「人はお金のためだけに働いているわけではない」ことを示しています。
もし、人が本当にお金だけが目当てで働いているのだとしたら、八重子がお昼と引き換えにサンプルづくりに同意するはずもなかったでしょう。お金もさることながら、とりわけ職人は、それ以上に「自分の力を活かしたい」「自分のことを認めてもらいたい」というプライドを持っているものです。
人がもっとも本領を発揮できるのがどういう時かと言えば、それは「自ら進んで行動している時」です。ですから、常日頃から「いかに(あたかも自分の意思で決めたように)気持ちよく動いてもらうか?」と考えている人が、商売人としても経営者としてもうまくいく人です。そのための大きなヒントとなるのが、「相手がどうしても避けたいことは何なのか?」「喉から手が出るほど欲しいものは何なのか?」を考えることなのです。
俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
俣野成敏 公式サイト
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