輪入道『27歳のリアル』で再評価されるラッパー「狐火」の世界 

輪入道『27歳のリアル』で再評価されるラッパー「狐火」の世界 
狐火
人気番組『フリースタイルダンジョン』のモンスターとして人気を集める輪入道が、なんと狐火27才のリアル」をカバー。

2017年末のことだったが、改めて数々のラッパーに影響を与えた狐火の「27才のリアル」、そして空也MCのバージョンを紹介する。

すでに10年選手、輪入道の八面六臂の活躍

人気ラッパー、輪入道の新曲「27歳のリアル」が一部で話題を呼んでいる。

輪入道は千葉県出身のラッパーだ。MCバトルを中心に活動しており、27歳にしてすでに10年のキャリアを誇る

2017年の「KOK」(KING OF KINGS)でも準優勝に輝いたが、「THE罵倒」や「B BOY PARK」といったMCバトルでの優勝経験もあり、精力的に音源もリリースする。

中でもYuto.comが手がけた「徳之島」は、輪入道が徳之島で出会った温かい人々に捧げられた人気曲。


哀愁漂うトラックに「仁義」を感じさせる輪入道のリリック。バトルで輪入道のファンになったという層からも強く支持されている。

輪入道は最近では、その人気と実力から『フリースタイルダンジョン』の二代目モンスターに抜擢もされた。中山美穂がラップを披露して話題となった『世にも奇妙な物語』の「フリースタイル母ちゃん」などにも出演している。20代のラッパーの中では期待のホープだ。

輪入道が吐露する「27歳のリアル」

そんな輪入道が選んだ新曲は狐火の「27歳のリアル」のカバーだった。しかしカバーとは言っても丸々コピーというわけではない。輪入道自身によって一語一語新たに紡がれた言葉が並ぶ。

意外だった。この曲に映ってるのは、筆者の知っている輪入道ではない。輪入道はいつだって威勢があって、顔と髪型が勇ましく、酒が強くて、ラップが上手くて、でも仁義に溢れたラッパーだと思っていた。

でも「27歳のリアル」の向こう側にいる輪入道はちょっと違う。

会社を辞め、音楽で生計を立てることを選びながら、不安に打ちひしがれる。その姿を恥じることなくこの曲ではさらけ出している。これが『フリースタイルダンジョン』でチャレンジャーの前に立ちはだかる輪入道と同じ人物だと誰が思うだろう

〈仕事が欲しい〉と心の底からシャウトし続ける。バトルで見る、自信に満ち溢れた彼の姿はそこにはいない。震えながら笑ってラジオの仕事をこなしたと、等身大の己の気持ちを吐露する。人気番組のレギュラーも獲得し、冠番組も持った彼は、〈でも思うんだ/いつまでこんな生活続けられるのかな〉と漏らす。

しかしそこにあるのは不安だけではない。〈やっぱ好きなことで稼ぎたい〉決意にも覚悟にもとれる輪入道の暑苦しい想いが伝わってくる。弱さを開き直るのではなく、「弱さを晒すことができる『強さ』」を見せつける。まさに揺れ動く「27歳のリアル」だ。

〈CD買ってくれてありがとう/Tシャツ買ってくれてありがとう〉その利益一つ一つが輪入道の生活の糧となっていることに改めて感謝の気持ちを込めながらラップしており、輪入道の人間臭さが漂っている。この曲をきいてより一層輪入道が好きになった。

「27歳のリアル」狐火が積み上げてきたもの

この曲のオリジナルを歌っているのは狐火だ。狐火はポエトリーリーディングラッパーを自称する変り種のラッパーである。アルツハイマー病の祖母についてラップで歌った「マイハツルア」で注目された。

己の強さを誇示するでもなく、何かへの怒りを表現するわけでもなく、ただ、誰かのことを想って歌うHIPHOP。

秒針一秒一秒越しにじょじょに愛おしい思い出が消えていくならその空いた穴は何で埋まるでしょうか?
あなたの記憶からオレがいなくなる前に後何回オレの名前を呼んでくれるかな
後何回ありがとうを言えるかな、教えてください
狐火「マイハツルア」より一部引用

そして勢いをつけた狐火が放ったのが「27才のリアル」だった。就職を目指し、壁にぶつかる若者の心情を歌う。これまたラッパーらしからぬ曲だが、音楽活動で生計を立てることもできず、かといって入社試験も受からない27才の青年の生々しい想いが描かれている。

勇気が欲しい、特に上司が活発で生意気な年下でも余裕で頭を下げられる勇気が欲しい/本当は1つの事を信じて続ける勇気を一番欲しい
狐火「27歳のリアル」より一部引用

これが若者の共感を呼び、ジャパニーズHIPHOPの中でも誰も立つことができない位置に狐火は立つこととなった。決して万人受けするわけではない。韻を踏まないスタイルはHIPHOPじゃないと言われることもあるだろう。でも狐火は狐火というジャンルをつくり出すことに成功した

通知表に評価されて育って、社会に出たら給与明細に評価され、自分の価値は銀行通帳の残高に反映されてるような感覚
狐火「27歳のリアル」より一部引用

「音楽では食っていけないので兼業サラリーマンをやってます」と彼は自虐的に言うが、彼のリリックに救われたというファンは少なくない。

更に空也MCもこの「27才のリアル」をカバーしているが、こちらも評価は高い。


「ラッパーとして売れたい」という切実な願いがリリックに込められている。堅実に就職している同級生には馬鹿にされ、久しぶりに実家に帰れば親にも祖母にも生活を心配される日々。ラッパーとして彼らが納得するくらいの結果が欲しいというリリックに仕上がっていて、こちらも生々しい。

これから27才を迎える若者たちにはもちろんのこと、もう既に27才を通り過ぎたという方にもぜひ聴いてもらいたい。「27才の頃、どんな弱音を吐いていたっけ」そう考えながら聴くのも面白いと思う。

狐火はその後も「リアル」シリーズをリリースし続けて、最近も「35才のリアル」を発表した。それぞれ立場が異なっており、心情がリリックに反映されているので聴き比べるのも面白い。

「29才のリアル」では会社員になった狐火が、〈コピー機の前で頭を抱えトイレの鏡で不敵に笑え、社会に出たら非常階段ですら逃げ道ではないんだからね〉とラップ。「31才のリアル」では〈絶対こんなはずじゃなかった/オレこんなはずじゃなかったんだよ/上司に怒鳴られトイレで叫んだ/「あんたらステージ上じゃ無力だ」/こんな会社明日辞めてやる絶対に明日辞めてやるからな〉と、サラリーマン兼業ラッパーとしての苦悩を吐き出している。

狐火は「身内には『弱音が過大評価された男』と言われてる」と自虐的に笑う。しかし弱さは人々の共感を呼び、時として人の心の慰めにもなる。

ジャパニーズHIOHOP界隈で今もっとも人気を集める唾奇も狐火を聴いていたという。そして輪入道や空也MCも狐火の世界に感化され、正直な心情を作品として吐き出した。それぞれが歌う「27才のリアル」をぜひ聴いてみてほしい。

引用元

輪入道『27歳のリアル』で再評価されるラッパー「狐火」の世界 

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