将来人口推計から見る居住用不動産投資のゆくえ
不動産投資は「そのエリアが将来どうなるか」という需要を読み解く必要がある
年金をはじめとする社会保険について高い期待が持ちにくい昨今、資産運用として不動産投資に興味を持っている方もおられるかと思います。今回、不動産投資に関して将来の人口推計から住居用の不動産投資をどのように考えるべきか、考察してみました。
不動産投資は、売却時に最終的な収支が確定します。不動産投資ポータルサイトには販売価格、想定利回りなどの指標が表示されていますが、将来の家賃、空室率、維持管理費用、税金、金利、売却価格などを自分で分析し、収支を見込まなければなりません。その最適時に売却するシナリオを描く必要があります。
不動産投資として貸家を考えた場合、そのエリアの将来需要をデータから読み解く課題をクリアしなければ、高額の投資には踏み切れません。
例えば、年齢別人口・家族類型別世帯数変化、新設貸家供給見込み、家賃相場見込み、未婚率、初婚年齢、物価上昇率、世帯収入など、対象エリアターゲット顧客層の将来像と競合状況を分析する「鳥の目、虫の目、・・・」的な視点を持ち合わせる必要があるかと思います。
さらに、誘導政策、制度変更が不動産投資に影響を与えることも考えられます。
古くは2000年の都市計画法規制緩和により自治体の調整区域不線引き化選択などから、住宅建設のハードルが下がり、低価格分譲住宅、新設貸家供給が増加、一部地域で貸家供給過剰となる問題や、近年では2015年相続税法改正から貸家新設が増加、空室問題が都市近郊で発生していることなどがあげられます。
また、最近では、立地適正化計画制度の居住誘導区域指定により徐々に現れる影響、既存住宅流通の活性化政策による貸家・持ち家需要の変化、住宅要配慮者に対する新たな住宅セーフティネット制度の創設などがあります。
近い将来では、緩和策は取られていますが、2022年生産緑地指定解除による新設貸家や新築住宅の供給増加などの影響が話題となっています。物件取得後でも敏感な政策ウォッチャーになる必要があるかもしれません。
長期推計として信頼性の高い「将来人口推計」をもとに考えてみる
住まいの需要は持ち家、貸家とも人口・世帯数に相関が高く、その中身、トレンドを把握することが最重要です。さらに、人口推計は経済予測などよりブレが少なく、長期推計として信頼できるものだと思います。
2017年4月に5年毎に実施されている「新たな全国将来人口推計」が国立社会保障・人口問題研究所から公表されました。
「30〜40歳代の出生率実績上昇を受け、人口減少速度・高齢化進行度合いは若干緩和」と解説されていましたが、高齢化人口減少トレンドは大きく変わりません。
来年度以降に地域別の人口・世帯数推計も順次公表されると思われますが、東京都心部以外の傾向は変わらないと思っています。
都内23区の人口ピーク推計年は2003年推計では2010年でしたが、東京一極集中の流れの中、2008年、2013年推計では人口ピーク年が2015年〜2020年と後ろ倒しとなり、上方修正されています。前回推計以降も都心部のタワーマンション建設などの再開発が進んでいますので、次回推計でも、さらなる「トウキョウ」の一人勝ちが、データとして読み取れるのではないでしょうか。
しかし、いつまでも「トウキョウ」も勝ち続けるわけにはいきません。老年扶養指数(高齢者人口/生産年齢人口)の推移をみますと、東京都においても15年〜20年先には地方圏と同じような老年扶養指数推計値となっています。逆に言えば、人口に関して「トウキョウ」は流行遅れで、今の地方を見れば、15年〜20年後の東京を見通すことが出来るかもしれません。
人口推計からエリアの住宅需要を読み取る方法として、国立社会保障・人口問題研究所の市区町村別将来人口推計があります。
現時点では2040年までの市区町村別、5歳年齢階層別、男女別の将来人口推計が公表されています。ご自身の住まいの自治体とその周辺の自治体との人口推計の違いを見比べるだけでも「将来の街の違い」に気づくかもしれません。
さらに各自治体で公表されています町丁別年齢別人口をあてはめますと、より細かいエリアで人口構成の変化を類推することも可能かと思います。また、家族類型別都道府県別の世帯推計もトレンドとして参考になります。
不動産需要をデータから読み取るうえで参考になる指標とは?
不動産需要をデータから読み取る上で参考となる指標があります。
家計主持ち家率:30歳代37.5%、40歳代59.5%、50歳代71.5%、60歳以上79.8%(平成25年 住宅・土地統計調査)
住宅一次取得平均年齢:マンション39.4歳、分譲戸建36.9歳、注文住宅39.4歳(平成28年度住宅市場動向調査)※住宅一次取得年齢とは初めて持ち家を取得した年齢
住宅の所有に関する意識:土地建物ついて両方とも所有したい79.3%、賃貸住宅でも構わない13.8%、建物を所有すれば借地でも構わない4.6%、わからない3%(平成28年度 土地問題に関する国民の意識調査)
2016年平均寿命:女性87.14歳、男性80.98歳(厚生労働省 平成29年)
2015生涯未婚率:男性23.37%、女性14.06%(社人研 平成29年)
2015平均初婚年齢:夫31.1歳、妻29.4歳(厚労省 人口動態統計)
住宅ストックの平均床面積:持ち家戸建133.0㎡、持ち家共同建71.7㎡、民営借家44.4㎡(平成25年 住宅・土地統計調査)
人口ボリュームとして、やはり団塊世代は注目に値します。
都市部郊外に多く居住している持ち家率の高い団塊世代が、2030年頃から一次相続が発生し、相続や住替えに伴う中古住宅販売、古屋付土地販売、賃貸化が進み、お手頃価格の物件が増加する可能性が高いとみています。
その時期の受け皿となる住宅一次取得年齢層との人口ギャップが市区町村によって異なります。ギャップが激しい市区町村では、ファミリー向け賃貸の家賃が下落することも予想されます。
家賃下落、空室率上昇は物件価格の下落を招き、さらに金利上昇も不動産投資希望者の借入額にキャップが掛かる為、物件価格下落要因になります。「安い時期、若しくは安く仕入れることが成功の秘訣」であることは不動産投資でも変わりません。さらに、手間をかけ、低コストで購入物件をバリューアップする再生事業家であることも望まれます。
人口推計から不動産需要のフェルミ推定的な最適解を求められては如何でしょうか。
(屋形 武史/住宅コンサルタント)
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