オリ急よりシベ超! お正月こそ楽しみたい名画『シベリア超特急』基礎講座
オリ急こと『オリエント急行殺人事件』が好評なようで、幾度となく映像化でこすられているものの、監督のケネス・ブラナーに称賛が集まっている、とかいないとか。その上、原点を同じくする水野晴郎(監督名:MIKE MIZNO)の『シベリア超特急』シリーズも再評価されている……という事実はないが、この退屈なお正月休み、惰性で映画を観がちじゃないですか。ただ同じダラダラ見るなら、普段見ない世界をのぞいてみたい、そんな知的好奇心が止まらないアナタにおすすめしたい名作が『シベ超』だ!
『シベ超』とは? 映画評論家の故・水野晴郎の戦争へのルサンチマン
この『シベリア超特急』シリーズとは映画評論家の故・水野晴郎氏が、映画評論家としての人生を投げうってまで映画製作に心血を注いだスーパー反戦映画で、水野先生自身が主演を務めたほか監督・原作・脚本・製作・訳詞などマルチな活躍を披露。第二次世界大戦前夜、満州国に向かうシベリア超特急内で殺人事件が毎回起こり、たまたま乗り合わせていた日本陸軍大将・山下奉文(水野)が、鮮やかに事件を解決する密室ミステリー。これまでに正史では映画が4本、舞台が2本製作され、派生作も多数ある。
当時山下奉文演じる水野先生の驚異の棒読み台詞や、ザルのように穴が開いているミステリー構成など、常識的な映画ファンからは総ツッコミを喰らったものの、戦争体験者である水野先生の熱い反戦の精神は称賛に値するもので、単に駄作とは切り捨てられない情熱&魅力が、熱狂的なファンを生み、みうらじゅん、関根勤などの支持も得て2000年代にはブームに。
したがって普通であれば金字塔的である記念すべきパート1を紹介することがセオリーだろうが、映画を観る側に観劇偏差値が要求されるパート1を市井の人々におすすめしたところで、猫に『ニュー・シネマ・パラダイス』状態だ。ゆえにあえてここでは、初心者向けの3作品を紹介したい。
■『シベリア超特急3』(2003)
『シベ超』ビギナーに最初におすすめしたい作品がコレ、パート3だ。実は3作目という経験値が奏功しているため、ほんの少々<観られる映画>になっており、ショックが薄い効果が。物語も約60年前の事件と現代の事件がシンクロするという壮大なスケールで、三田佳子、宇津井健、内藤武敏といったベテラン大物俳優の共演も実現して、あふれ出る超大作感が間口を広くしていると思われる。だがしかし、コトは『シベ超』だけにそう簡単には終わらず、回想シーンに登場する外国人キャストへの演出なども話題となり、とりわけ激走するシベリア超特急と併走するウクライナ線の老婦人(インゲ・ムラタ)の名演(名演出)は、作品がスケールアップしているだけに<なぜその演出でOKとした?>など解せない場面が満載。処女作の香りも残っているちょうどいいカルト、な感じが楽しめる快作だ。
■『シベリア超特急5』(2005)
『シベリア超特急3』(2003)の次の鑑賞は、パート5をおすすめしたい。オープニングのモスクワ駅構内の再現セットに膨大な製作費をかけるなど、そうとう普通の映画に近づいた外観を呈しているものの、そこはマジックマイク、いやマイク水野マジック、見た目はハリウッド映画のようでもシベ超イズムが消えることはない好演出の数々で観る者を翻弄する。物語は、あの片岡愛之助演じる冒険家の主人公が源義経が隠したという財宝のありかを記した地図を追ってシベリア超特急へ乗り込み、おなじみの展開に巻き込まれていくという荒唐無稽感が爆発しているストーリーだが、筋運びやキャストの演出にみるカルト感ではなく、シリーズ初の本格CGが度肝を抜く珍場面で使わていて、劇場公開時に大いに話題に。パート1やパート3に存分に漂っていた『シベ超』臭は正直薄まったものの、<なぜ誰も止めなかったのか?>と思うほどのスペクタクルが待っている。ちなみに筆者もチョイ役で出ているので、個人的にもおすすめな一作だ。
■『シベリア超特急2』(2001)
実は『シベリア超特急5』(2005)と『シベリア超特急3』(2003)でシベリアンな世界観に慣れたところで観てほしいタイトルが、『シベリア超特急2』(2001)となる。このパート2、そもそもシベリア超特急そのものが出てこないというアグレッシブな続編で、満州菊富士ホテルを舞台に山下閣下の名推理が鮮やかに炸裂するという展開だ。この続編は特筆すべき点が多いシリーズの成功作で、その最大のポイントは地下映画的だった前作のカルト臭を継承しながらも、明るくポップなテイストで信じられないことが連続で起こるという奇跡をブチ上げたことでマニア間で人気爆発!
たとえば回想シーンで何度も死ぬ羽目になる熱演の長門裕之、ゴージャスな宝塚感がうるわしいオーバーアクトの加茂さくらをはじめ、(新人)というカッコ表記が『シベ超』ファンの間で大人気の須藤温子、これが映画デビューの寺島しのぶ、後にディズニーファミリーとなる『モアナと伝説の海』マウイ役の尾上松也など信じられないキャスティングが実現。その上、ただ落ちているだけの階段落ち、ただ長いだけの『羅生門』的告白シーンによるイージーなオマージュなどもシリーズの人気を決定づけた。しかも、MIKE MIZNO監督の評価を映画評論家の水野晴郎が絶賛するという、ピコ太郎と古坂大魔王システムを16年前にやっていたこともメモだ。
■この3本の衝撃が快感だったら……ようこそ晴郎ワールドへ!
上記の『シベ超』を 無事に制した後も、、、
●もう二度と従前の価値観に戻れないかもしれない、恐ろしいまでの破壊力を持っている<パート1>
●そもそも映画ですらない伝説の舞台版の<パート4>
●数々の<バージョン違い>
●筆者自身も長時間の副音声解説を担当した<裏シベ超>
などなど、まだまだお楽しみが待っているゾ!
解説を待望する声が多ければシリーズ全作品詳細解説も試みたいと思うが、まずは上記3作品とともに2018年の新しいスタートを切ってほしい!
※画像はAmazon.co.jpより引用。
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(執筆者: ときたたかし) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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