劇団ひとり演じる春樹先輩の幸福論とは?
少し前まで、哲学者の言葉を名言集風に分かりやすく解説した書籍が反響を呼んでいましたが、ここ最近、新たなムーブメントが生まれています。
それが、芸人が哲学者の言葉と対峙し、風刺のきいた言葉や解説を加えるというもの。小説家としても才能を発揮している劇団ひとりさんは、おバカなヤンキーのキャラクターに扮し、幸福論と真摯に向き合って、シンプルで本質的な言葉を突いていきます。
「幸福だから笑うのではない。むしろ、笑うから幸福なのだ」
この有名な言葉は、フランスの哲学者アランの『幸福論』の中に収められています。
生涯市井の人々に哲学を教え続け、「実践的人間哲学」の新しいスタイルを作った哲学者アランの代表作『幸福論』は、1900年代前半の混迷の時代を生き抜いた彼の言葉が集められており「世界でいちばん美しい本」と呼ばれ、難解でありながら、今でも様々な示唆を与えてくれます。
そんな『幸福論』と、劇団ひとりさんのつぶやきがコラボレーションしたら、どんな化学反応が起きるのか?
『幸福論と。』(劇団ひとり/著、飯田かずな/写真、主婦の友社/刊)はフォトグラファー・飯田かずなさんが撮影した青空の写真とともに、アランの幸福論と劇団ひとりさん扮する茨城のヤンキー・春樹先輩のつぶやきが載せられています。
春樹先輩は、アランほど頭が賢くなくボキャブラリーも少ないし、早くから快楽に溺れて、自分がどう生きようかあまり深く考えていないキャラクターです。けれども、そんな春樹先輩の言葉はとてもシンプルで、そして生活感に溢れています。
例えばアランは、人間はもらった楽しみには退屈し、自分で獲得した快楽のほうをはるかに好むものだが、なによりもまして、行動し、征服することを好むと言っています。つまり、人間は行動を伴わない楽しみよりも、むしろ行動を伴う苦しみの方を選ぶのだと述べています。
このアランの言葉を読んだ春樹先輩は、次のようにつぶやきます。
「いつだって夏になれば
暑い暑いって文句たれる
なのに
ハワイに行きたい」
確かにそうかも知れません。夏の暑さは嫌だけれど、ハワイや沖縄など暑い南国地域には自ら行きたがります。暑いのは全く同じなのに。
恋愛や仕事、家族、食など、日常生活の中のさまざまなことについて幸福とは何か、苦しみとは何かについてアランと春樹先輩の2人が、飯田さんの「青空」の写真とともに語り合います。
劇団ひとりさんはこの本を執筆するために、飯田さんの撮影した写真を見ながら、アランの『幸福論』を深いところまで読み切り、仕事の合間をぬって何度も何度も推敲を重ねていったといいます。
そうして生まれた芸人の個性溢れる言葉は、おバカな雰囲気をかもし出しつつも、風刺がきいていて、笑いと爽快感を与えてくれます。
昨年の東日本大震災をきっかけに、多くの人が自分の生き方と向き合い、幸福について考えはじめた人は多いはずです。だからこそ先人たちの考えた「幸福論」が今、注目を浴びているのではないでしょうか。
そして、本書でつづられているアランと春樹先輩の言葉は、その考えるための一助となるはずです。
(新刊JP編集部/金井元貴)
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