「そこら辺の男なんて同じ目鼻のついた人間とも思えない」超絶イケメン帝のお成り!下心が編み出したデメリットの多い”第3の道”とは ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~
下心が編み出した、結婚でも愛人でもない”第3の道”
台風の秋も過ぎ、いよいよ年末。源氏は年明けから、玉鬘を射止めたい男たちを弄んできましたが、自分が彼女にのめり込みすぎてしまい、今は「自分の妻(というか愛人)にしたい、他の男と結婚させたくない!」というのが本音です。最初はちょっと楽しいな位の気分だったのが、意外にも本気になりすぎちゃってヤバイな、ってところでしょうか。
このままでは紫の上コースをたどることは自明……ですが、そうなると実父の内大臣(頭の中将)には打ち明けなければならず、世間体も悪い中、表向きは派手派手しく「やれ結婚式だ、お婿さんだ」と大騒ぎされるに決まっている。普通に考えて、かつての親友の娘と結婚するのは相当気まずいと思います。
自分の愛人扱いでもなく、他の男との結婚でもない道はないものか。悩みに悩んだ源氏が編み出したのは、”宮仕え”という第3の道でした。現在、宮中には女官のトップ・尚侍(ないしのかみ)の欠員があったのです。
尚侍は高貴な女性が就く名誉職です。朱雀帝代の朧月夜のように、女御や更衣に並んで帝の寵愛を受けることもありました。尚侍になれば普段は宮中暮らしですが、帰ってくれば自分のもの。以前の「婿取婚にして玉鬘を手放さず愛人扱い」をブラッシュアップした作戦です。……しかし冷泉帝は実は源氏の息子なので、あくまでも帝のお手つきにならないことがポイントですが。
そんなわけで源氏はこの頃、玉鬘に宮仕えを勧めていました。でも聡明な彼女はあれこれ想像して「とても大変そう。私なんかが出ていったら恥ずかしい思いをするのでは」と渋っています。
別に結婚もしたくないけど、ここにいても困ったことが起こりそうだし、でも宮仕えはハードルが高そう……。どっちを向いてもスッキリ決められませんね。
圧倒的存在感!超絶イケメン帝を拝す
そのうち、帝が直々に鷹狩にお出かけになる『行幸』が決まりました。身分の上下に関わらず、あらゆる人が帝のお成りを一目見ようと集まります。更に、この行幸には大臣クラスを筆頭に多くのセレブがお供をしたので、一層大々的なイベントになりました。
時々ちらちらと雪が舞う、寒い当日の朝。すでに移動ルートはお祭りのように牛車がぎっちりで、身分の低い人の貧弱な牛車は圧迫されて壊れたり、大変な騒ぎです。
玉鬘も牛車の中から冷泉帝のお姿を拝見しました。源氏によく似ていますが、更に若々しく気高く、堂々としたご様子です。お付きの者は全て青の衣装で統一する中、帝のお召し物だけが赤なのが、目にも眩しく映ります。神がかった超絶イケメン、冷泉帝のお成りです。
セレブ生活にも慣れ、玉鬘も貴族のイケメン達もずいぶん見慣れてきていましたが、それとは比べ物になりません。若い女房たちがキャーキャー騒ぐ男達なんて、同じ目鼻のついた人間とも思えない。圧倒的な美しさと存在感にうっとりするばかりです。
続けて、さり気なく自分の実父の内大臣もチェック。確かに立派で、ダンディで素敵な中年紳士です。いつも猛烈アタックをしてくる蛍宮の姿もあります。
一方、髭黒はあだ名の通り、ヒゲがもじゃもじゃで毛深く、ガタイの良い色黒のオッサン。役職は武官(右大将)で今日は鷹狩ということもあり、弓矢を背負ってキメているのですが、玉鬘はひと目見て(まあ、イヤ)。毛深くてゴツいオジサン好きで「クマさんみたいでカワイイ~!」みたいな性格なら良かったんでしょうが、残念!
誰が見ても、今日は冷泉帝のひとり勝ちといったところ。玉鬘の心にも若く美しい帝のお姿だけが焼き付いて(ご寵愛ということではなく、ただお勤めだけで毎日お側にいられたらどんなに素敵だろう)と憧れるのでした。
実はデメリット多し!それでも宮仕えをゴリ押ししたい理由
彼女の心を見抜いたかのように、翌日源氏からは手紙で「昨日は帝を拝見していかがでしたか。宮仕えをしてみる気になりましたか?」。玉鬘は図星で苦笑するのですが、さすがに「雪のせいで、あまりはっきり拝見致しませんでしたので、何とも…」と返します。
源氏はその返事を紫の上に見せ、宮仕えの件も話します。「若い娘が陛下を拝見して憧れないわけがない。玉鬘も本当は乗り気だろうよ。
しかし、帝には既に私の養女の秋好中宮と、内大臣(頭の中将)の長女・弘徽殿女御がいらっしゃる。どちらの娘として宮仕えするにも、いろいろ差し障りがあるからねえ」。
そう、もし玉鬘に冷泉帝のご寵愛が移った場合、秋好中宮にも弘徽殿女御にも目障りな(義理の)姉妹、ということになってしまいます。源氏の下心から言えば宮仕えは好都合ですが、すでに後宮で研を競う后妃たちにとって、玉鬘は招かれざる存在なのです。玉鬘本人も、そのことはとても気にしています。
紫の上は笑って「たとえ陛下がどんなにご立派だったとしても、自分から尚侍になりたいです!!なんて言うのは、レディのとる行動ではありませんわ」。確かに、帝がイケメンだからあたしが!とガンガン押してくるお姫様とか、見たくないです。
源氏は「そんなこと言うあなたこそ、陛下を見たらうっとりしてしまうだろうね」と言いつつ、玉鬘へしつこく宮仕えを勧め続けます。冷静に考えるとデメリットの多いこの作戦、上策とはいい難いと思いますが、源氏個人としては恩恵があるので、ゴリ押ししたいって感じですね。
実の祖母が危篤!家族への打ち明けに大急ぎ
尚侍となるには、当然いろいろなステップを踏まなくてはなりません。公務に就くからには、身元を偽るのはもってのほか。源氏の養女として出仕する場合でも、本来は誰の娘であるのかをはっきりさせた上で手続きを進める必要があります。
現在では身分を詐称した場合、法的に罪に問われますが、源氏はここで「玉鬘は藤原氏の娘なのだから、源氏の娘として宮仕えに出したら藤原氏の氏神の春日明神に失礼だ」と考えています。帝は天子なので、神を欺くことは帝を欺くことにもつながるのだと思いますが、なるほどなかなか興味深い点です。
更に、玉鬘は女子の成人式に当たる『裳着(もぎ)』を行っていませんでした。普通は13歳位で行うのですが、九州ではそんな余裕もなかった様子。せっかくなので、源氏は裳着をきっかけに頭の中将に事情を打ち明けようと打診します。
ところが頭の中将からは「母の大宮の看病に忙しいので」と断りの一報。実際、大宮の容態はかなり悪く、夕霧もおばあちゃんの看病につきっきりです。(もし大宮さまが亡くなったら、玉鬘は喪に服すこともできず罪深いことになるだろう。早く真実を打ち明けよう)。源氏は大急ぎで、三条の大宮邸に向かいます。焦るくらいなら、もっと早くこうしていればよかったのに!
大宮は源氏が来て元気が出たらしく、震え声ながらもよくしゃべります。世間話のあと、源氏が頭の中将に話があると伝えると「あの子はねえ、仕事が忙しいみたいであまり来てくれないの。夕霧に会いたくないのもあるのでしょうが……夕霧と雲居雁のことは私からも忠告しているのだけど、息子はいい出したら聞かないので」。
源氏からの話、と言えばてっきりこの話題だろうと大宮は判断したのですが、源氏は「あの2人のことは自然の成り行きに任せましょう。そうではなく、実は……」と、玉鬘のことを話します。
ちょっと天邪鬼、内大臣・頭の中将の胸の内
一方、頭の中将側は源氏がいきなり大宮の見舞いに来たのに驚き。「母上の所は人が少なくて、太政大臣の訪問に対応しきれまい。うちからも応援を出して、失礼のないように!お食事やお酒の準備も十分にせよ」と、息子や家来たちを差し向けます。
「私も行くべきだろうが、大臣2人が会うとなると何かと大げさになるだろうから……」などと言っているところに、当の大宮から連絡が来て(大事なお話があるようだから、私から呼び出された風ではなくいらっしゃい)。
頭の中将も思い当たる件はひとつ。(うむ、これは夕霧と雲居雁のことだな!やっとあの源氏の君も折れる気持ちになったか。なにも言ってこないのでムカついていたが、ついに頭を下げてお嬢さんを下さいと言うなら、否やはないぞ。まあ、彼の出方次第だが。
それにしても、母上を通した話だから断りようもないが、なんだか言いなりにされるようで癪に障る。たとえ頭を下げられても、その場ですんなりウンという必要はないかもしれん。とにかく、行って話を聞いてからだ)。
ちょっと天邪鬼なところのある頭の中将は、こんなことを考えながら息子たちを引き連れて、大宮の元へ到着。国家を担う2人の大臣、かつての親友同士が久々に対面することになりました。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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