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Interview with Sayo Nagase about「THE VOID」

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11月にGALLRY360°にて開催された永瀬沙世の展示「THE VOID」。そこで披露されたのは、10年ほど前から撮り始めたスナップ写真のコンタクトシートの中に写っている女性の脚を、顕微鏡のレンズで再撮したシリーズだ。独自の発想とアプローチで宇宙、そして”VOID”を表現した本展示とブックは、もはや写真だけにとどまらないヴィジュアルアートとして確立しており、無を体現したが故にどこまでも広がる彼女の新たな可能性を示唆している。

——今回の「THE VOID」はGALLRY360°が移転前に青山で行う、最後の展示でもあるんですよね。

永瀬「そうなんです。あの空間でできて、本当に良かった」

——最初から話がずれてしまうようですが、GALLRY360°というのはものすごくのんびりとマイペースに素晴らしい作品を展示しているアートの良心のような場所だと思っていて。前回もそうですが、そこで永瀬さんの展示を拝見できるのは豊かな体験でした。

永瀬「映画の『ミッドナイト・イン・パリ』でピカソがガードルード・スタインに絵を見てもらっている場面があったけれど、GALLRY360°にはそういう自然とアーティストが集うサロンのような雰囲気もあって大好きです。いま、自由で生き生きしたアーティストでいられるにはどうやったらいいかをものすごく考えているところなので、GALLRY360°で自由にやらせてもらえていることは、私にとってとても意義があるんです」

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——前回の「CUT-OUT」も本展も、以前よりアート色が強いものでした。

永瀬「ピンと来るものを探していたときに、海外で古本屋に行っても、おばあさんが編み物している本や子どもが石にペイントする本ばかり買っていて。伝統的なものや身近なものも自分のハートを通して面白く新しいものにできるんだと思って、そういうことも今の活動と繋がっているのかもしれません。前回の展示も伝統的とも言える切り絵で、今回も顕微鏡で日常のものを見るというところからヒントを得ていて。星を見ていた時に、望遠鏡を通してあの星を撮れるのかなあと思ったところから始まって真逆の顕微鏡になっていったんです」

——ああ、でもミクロとマクロは繋がっているからイコールですよね。

永瀬「そう。望遠鏡を見に行ったら隣に顕微鏡が売っていて、同じだと思ったんです。身体の細胞、ミトコンドリアは宇宙に通じるから」

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ーー顕微鏡からさらに女性の脚という被写体に行き着いたのは?

永瀬「そこが、謎で(笑)。最初は、沢山のアーカイヴの中から全部のコンタクトシートを顕微鏡で見ていたんです。顕微鏡を見ていると、黒い枠の中にポコンと被写体が写って、それこそ本当に惑星のように見えて。脚の大群が惑星そのものに見えたんです。しかもフィルムで撮っているから、ぼやけて見えるし、コンタクトシートを焼く時に混入した点が見える。それが太陽の黒点のようで、おもしろいと思って。他にも葉っぱや腕も見てみたけれどなにかが違っていたので、脚だけに決めました。しかも展示された写真たちは同じように見えるけれど、一枚一枚全て違っていて、再現も不可能なんです。例えば、旅先の海で女の人が10人立っていて、その10人のうちの1人の脚を撮ったような感じで、その場で顕微鏡を覗いて撮っているのでもう戻れない。ちょっとズレても違うし、ピントと倍率の調整すら再現できないから二度と撮れないんです。写真として撮ったものを、顕微鏡のピントと倍率を調整しながらオートマティックで撮るという、特殊な作業でした」

——そのレイヤーはとてもおもしろいですね。写真だけでなく、あの展示は全体的に「瞬間」が凄く大切にされていて、そこにとても感動しました。前回の切り絵とはまた違う形の立体になっていてインスタレーションのようで。特殊な素材を貼られた床に映った自分が、まるで小さい時に影を追いかけたように離れると追いかけてくるのもとても興味深い表現でした。

永瀬「嬉しい、ありがとうございます。写真をライトで反射させたりもしていたんです。写真はライトが当たったら見えにくいから普通は直接当てないんですけど、テカってもいいかもと思って。見る角度を変えればいいだけですもんね。だから写真も縦に並べていて。横に並んでいると、人間は一枚一枚を観賞してしまうので、それを変えたくて。
本当は横で撮ってる写真もあったんだけど無理矢理縦にしました。今回、写真展と名付けているけど写真展とは思っていないんです。写真展という概念から自由になりたかった」

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——銀色で覆うというのはどういう意図で?

永瀬「銀のフィルムは、反射する、宇宙的なイメージ。宇宙はいつも大切なインスピレーションの一つですが、映画の『インターステラー』を観たことで五次元にとても惹かれて調べていたんです。その結果、”VOID”に行き着いた。“VOID”は無、無秩序、空白、つまりゼロ地点です。写真展の概念というところにも通じますが、私はゼロになりたかった。無は無償の愛の無でもあるし、利己心が無いことも無。そういうイメージでやりたかったんです。”SUPERE VOID”という、宇宙に何も無いところがあるそうなんですけど、そこの絵が顕微鏡の写真ともリンクしていたし、利己心のようなものをどうやって取り除くかに命がけで臨んで達成できたし、いろんな意味で“VOID”がテーマでした」

——前回の「CUT-OUT」は古代がテーマでしたが、よりさらに無重力で自由だったのはそういうことだったんですね。

永瀬「自由になるのには訓練が必要なんですよね。例えばなにかやろうとするときに、一回思考を切る。その思考を切るということを最近訓練しているんですけど、すっごく難しいんです。思考を入れた方が安心するので、どうしても考えようとしてしまう。でもそれを全て本能に聞くようにしたくて、今回あまり目も使わなかったんです。写真のイメージも、無音。目に頼らず、五感を使わず、本能みたいなものを使おうと思って、この数ヶ月はずっとそのトレーニングをしていた気がします。前回はまだ思考が入っていたけれど、徐々に減らしていて、今回の展示は本能でやれたから自由だったし、無重力を視覚で表現できたのかもしれません」

——アートにおける無は凄く重要だと思います。エゴを捨てるというのは、道を究めるということでもあって。どんどん自分というものがなくなって自分が宇宙になって作品が出来上がる。

永瀬「まさに。重力がなくなると、上に向かっていく。その感じもすごく大切だと思います。振り返ってみると、これまでは無意識に日常との差をつけたくて、刺激を受ける、興奮するというものを作品制作に求めていた。でも今回そうした興奮などがなくてちょっと焦ったんですよ。情熱が無くなったのかもと。でもそれは作品に刺激物を求めたり、依存したりということがなくなったということで、悪いことではない。そのままの状態で、ニュートラルに作品を作れた。それをパーフェクトにできたのが良かったと思います。私は十代の時に色々と挫折したんですが、そのときに鍛錬して色々なものをくっつけていった。幅広い知識も得たし、技術もつけ、それが刺激だった。その加えていくというものが完成したら、今度はいつ頃からかそれを壊していくことを始めていて。外す作業は大変だし、怖いけど、今ちょうどそれを壊し終えたところです。でもこの展示の次に、どういう風にしていくというのはノープラン。今まではこれをやったから次はこれをしたいというのが見えていたんだけれど、今回は作る前から本当に力が抜けていて、無重力だった。だから今後どうしていいか分からないのです。でも食わず嫌いはいけないので色々トライしてみようと思っています」

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『THE VOID』
限定400部
A5変形 16ページ(絵本製本)
定価 2,800円(税込)
Yomogi Books刊

永瀬沙世 SAYO NAGASE |
兵庫県生まれ。東京をベースに活動するアーティスト、写真家、ヨモギブックス主催。現在まで9冊の写真集を制作。「Asphalt & Chalk」(2011年)と「PINK LEMONADE」(2013年)はパリを拠点とするストックホルムの「LIBRARYMAN社」から出版された。2016年 写真集/個展『SPRITE(スプライト)』をAL(東京・恵比寿)、『CUT-OUT』をGALLERY 360°(東京・表参道)で開催。2017年11月『THE VOID』展をGALLERY 360°で開催。

SAYO NAGASE | 

Sayo Nagase is a Tokyo-based artist, photographer, and founder of YOMOGIBOOKS. Sayo has published nine photography books including “PINK LEMONADE” and “Asphalt & Chalk”, published by the Paris-based Stockholm publisher Libraryman. Sayo released her photography book “SPRITE” in the summer of 2016, and later held a solo exhibition “CUT-OUT” at the Tokyo-based Gallery 360 in September. In November 2017, she will unveil another solo exhibition titled “THE VOID”, hosted by Gallery 360.
http://www.nagasesayo.com

interview & edit Ryoko Kuwahara

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