戦略がないのなら、何もしないほうが“むしろ”マシ!ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

戦略がないのなら、何もしないほうが“むしろ”マシ!ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。三田紀房先生の『マネーの拳』、第3回目をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

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©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「商売で絶対に失敗しない方法とは、商売をしないことだよ」(『マネーの拳』第1巻 Round.1より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

「戦略もなしに商売を始めるくらいなら、やらないほうがいい」

友人のノブオとともに、塚原会長の自宅を訪問し、商売の教えを請う花岡。会長は花岡に、商売の三原則に当てはめて考えた場合、飲食業は素人にとって意外に難しい商売であると伝えます(商売の三原則については「『残念な人は、失敗の原因を“自ら”引き起こしている』ーーマンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス」を参照)。

会長の話によると、飲食で成功するには「出店攻勢をかけて知名度を上げるか、地元密着型のアットホームなお店を目指すかのどちらかしかない」のだと言います。ちょうど、居酒屋以外に焼肉屋も始めようとしていた花岡。「自分も出店攻勢をかけている」と喜びますが、それに対する会長の返答が、今回取り上げた「本日の一言」でした。

会長から「商売をボクシングにたとえるのであれば、今の君は練習もろくにせずにグローブをつけてリングに上がってきた素人のようなもの。そんなアマチュアはものの3秒も経たずにプロにたたきのめされるだろう」と告げられ、我に返る花岡。会長は「客観性を失っている時点で、既に勝負はついている」と言い聞かせるのでした。

なぜ、多くのレストランはファーストフード店に勝てないのか?

多くの人が、商売を始めるきっかけとは何でしょうか?たいていは「自分はラーメンが好きだから、ラーメン屋をやろう」といった好き嫌いか、もしくは他人がうまくいっているのを見て、自分もそれをマネして失敗します。マネをすること自体は、非常に有益な方法です。なのに、ほとんどの人が失敗するのは、中途半端にマネをしているからです。

他人のつくった仕組みを徹底的に取り入れて成功した事例としては、マクドナルドの創業者レイ・クロック氏が有名です。氏は、マクドナルド兄弟が確立した美味しいハンバーガーを安く・早く製造する技術をフランチャイズ化することに成功します。フランチャイズとは、経営ノウハウや商品、システムなどを加盟店に提供し、代わりにロイヤリティを受け取るビジネスモデルのことです。

マクドナルド兄弟のお店を訪れた人は、クロック氏以外にもたくさんいましたが、成功したのは氏だけでした。氏は、マクドナルド兄弟以上に彼らの開発したサービスの価値を理解していました。そして何よりも、この仕組みがたくさんの人により多くの価値を届けるものだったことが、氏の成功を後押ししました。最近、創業ストーリーが映画にもなっていますが、フランチャイズが「コピーを量産する」というニュアンスよりも、「新しいビジネスを創造する」という方が近いということがお分かりいただけると思います。

商売とは、商品や仕組みだけあってもうまくはいかない

高い材料を揃えて手間暇をかけてつくれば、美味しい料理はつくれます。けれどあの価格で、あのオペレーションで、全世界共通の味で、となった時に、やはりマクドナルドの右に出るものはいないのではないでしょうか。

もともと商売とは、商品だけがよくてもうまくはいきません。たとえば顧客を継続的に惹きつけるブランド力やノウハウ、そこで働く人を教育するための仕組み、営業、経理等々、会社を運営するにはあらゆる要素が必要です。マクドナルドも、クロック氏が見出していなければ、単なるアメリカの一地方の人気店で終わっていたかもしれません。

私もあるフランチャイズの加盟オーナーとして、複数のお店を全店黒字経営しています。このフランチャイズは業界初の専門店として、わずか7年の間に110店舗以上にまで成長している業態です。このビジネスの認知度が上がるにつれて、模倣する会社や、中にはお店で働いて技術を身につけ、自ら模倣店を開く人まで現れています。しかしいずれもうまくいっていないのは、商売が目先のことだけで決まる訳ではないからです。

起業をするには戦略が必要

先ほどご紹介したフランチャイズシステム以外にも、代理店方式や委託販売など、今は「これをやれば成功できる」というビジネスモデルであふれています。とはいえ、実際にこうした仕組みを利用しても、一握りの人しか成功できないという現実が、商売で成功することの難しさを物語っていると言えるでしょう。

起業とは、それだけチャレンジングなことであり、ビジネスを軌道に乗せるには、それなりの血と汗と涙を必要とします。

無傷で卓越した結果を出せる人は一握りの天才だけ。私を含めた多くの凡人は、小傷を負いながら成長していきます。

だとしたら、失敗はできるだけ小さく、そして、早く経験することです。

会社員の方は、会社員である内に外で応用できる力を身につける必要があります。「会社辞めたら頑張ります!」の精神は、大火傷の元です。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が13刷となっている。著作累計は35万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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