表と裏を繋ぐ一方通行のトンネルがある家【edge HOUSE】
▲自宅の裏からガレージに進入し、出動時はそのまま前進で。ありそうでなかった一方通行のトンネル型ガレージの使い勝手はいかに
サーフスペースがある縦長ガレージ|建築家・石井 渉(無垢スタイル建築設計)
埼玉県川口市。東京のベッドタウンとなる一画に、目指すK邸はあった。閑静な住宅街とショッピングモールが共存する街並みにあって、K邸はレンガを巧みにあしらった上品な色合いの壁面と、ウッディなオーバースライダーが巧みにバランスされていることが印象的。玄関脇の小窓に目をやると、そこにはサーフボードのフィンが並べられていることから、サーフィンを愛する海の男が暮らしているのだろうと想像できる。
ぐるりとK邸の周囲を回ってみる。裏側には幅3mほどの行き止まりの路地があり、そちら側にもガレージシャッターが設けられている。前後にふたつのガレージが? と思いながら正面に戻り、オーバースライダーを開けてもらった。すると、Mクラスの大柄なボディが姿を現し、その後方には薄暗い空間が長く続いていることがわかった。前後にふたつのガレージを備えているのではなく、建物を貫くようなガレージだったのだ。
照明をつけると、ちょうど車2台を縦に並べても余裕の広さがある。裏側のシャッターも全開にすると、K邸前の道路と裏の路地とが繋がった。このガレージは、その空間そのものが動線となっていて、裏側から入り正面から出るという一方通行となっていたのだ。
施主のKさんは、サーフショップの店長を務めるベテランサーファー。まるでトンネルのような長いガレージ内には、数多くのウエットスーツや使い込んだスケートボード、オリジナルで製作したという“Radio Flyer”など、いかにもサーファーの空間を感じさせるアイテムが並べられている。
ガレージへは前後のシャッターの他に、玄関からもアクセスが可能。玄関から入り左手のドアを開くと、そこは趣味の部屋。サーフボードを立てて収納できるように、その部分の天井高は3m以上を確保。また、ロングボードを寝かせて置けるほどの広さがあるため、簡単なメンテナンスやワックスアップはここで済ますことができる。ここをKさんは“サーフスペース”と呼んでいるが、作業の効率と車へのアクセスを考慮して、サーフスペースからガレージへの動線は2ルート。車に積載する荷物などによって使い分けをしているようだ。
▲一見するとごく一般的な住宅。しかしシャッターを開けるとそこには長く広いトンネルのようなガレージが
サーフィンに関するグッズはガレージ内部だけで完結
K邸の設計を担当したのは、建築家の石井渉さん。施主であるKさんとの出会いは、石井さんの仕事上の協力会社の社長がKさんのサーフィン仲間であったことがきっかけという。自邸の建て替えを検討しているKさんが石井さんに伝えた希望は、①同居する父親の居住空間とその動線を優先すること。②通り抜けできるガレージを設置すること。③車と近い位置にサーフスペースを設けること。④外観およびガレージシャッターの意匠にこだわりたい……などが挙げられる。
1階はインナーガレージとお父さまの居室のみ。設計依頼時の最優先項目となっていただけあって、お父さまの居室は玄関からのアクセスも良く、庭にも直結している過ごしやすい空間だ。ガレージ内部は、邸内でありながら外部との動線ともなっているため、突起物は最小限。収納する小物類も、すべては壁面のレベルからはみ出さないように工夫されている。スペアタイヤを収めるスペースも、ガレージの壁面がジャストサイズにくり抜かれていてまったく目立たないし、タイヤの保管環境としては申し分ない(実は、スペアタイヤ分、お父さまの居室の押し入れを半分占領しているのだが……)。
また、ガレージ内にはお湯の出る水場も設置。冬の朝、海に行くときには20リットルのお湯をポリタンクに入れて持っていくそうなのだが、これまでは早朝に家族に気づかれずにダイニングルームからお湯を運ぶのに苦労をしていたという。今では、水場が車のラゲージルームの真横に位置しているため、そのストレスは完全に解消されている。
そんなKさんにとって使い勝手満点と思われるガレージだが、K邸を設計するにあたり苦労した点も少なくなかったとか。
「この土地は三角形に近い特殊な形状をしているので、敷地内での建物の配置には苦労しました。北側(建物裏側)の道路が狭いため、建物自体はある程度南側(玄関側)に寄せてあります。しかし、将来的に北側道路が拡張される計画があると聞き、その際にはガレージ前の敷地を活用できるように自由度をもたせました」と石井さん。ガレージ前の敷地とは、お父さまの居室前にある庭のこと。この部分も今後アレンジできるように考慮されているというわけだ。
また、工夫をした点としては、Kさんコダワリのサーフスペースが挙げられる。石井さんは、「ボードが収まる高さを確保しつつも、2 階の床を一部分だけ高くする……ということは避けたかったのです。そのため1階の天井と2階の床との間のスペースを可能な限りギリギリまで調整しました。K 邸は3階建てですから、建物自体の高さを上げることは法的な制約があったため、1階天井と2階床の間で工夫をしなければなりませんでした」と、教えてくれた。
▲裏側の入口から見たところ。RadioFlyerはカート用のレインタイヤを使った特注品
▲ガレージ内には、サーファーのすみからしい小物が随所にレイアウトされている。このスケートボードはカリフォルニア州をかたどっている
▲玄関を入ると左手からガレージへ。扉を開けるとサーフスペースがあり、その向こうがガレージとなる
▲門からのアプローチにある小窓には、サーフボードのフィンが飾られ、いかにもサーファーのすみかといった印象
▲サーフスペース。写真奥の部分は、ロングボードを収納するために3m以上の高さを確保している
▲スペアタイヤをはじめ大物の収納も、いっさいガレージ内部にははみ出さないようにデザイン。海でのシャワー用に、お湯の出る水場も設置されている
【施主の希望:「家族のための住まい」と「実用性の高いガレージ」を両立したい!】
■憧れだったビルトインガレージを実現したいが、同居するお父さまの居住空間とのバランスを考え、それを最優先項目とした。また、北側と南側ともに道路に挟まれた土地を活用した、使い勝手の良いガレージにしたいという希望も。内部にはサーフボードの保管やメンテナンスをするための“サーフスペース”を設けると同時に、ガレージ内でボードを積む際のアクセスの良さ、シャワーで使用するお湯をポリタンクに入れて車に積み込むときの利便性などを重視した。
【建築家のこだわり:施主の使い勝手を徹底調査することで高い満足度を実現】
■最もこだわった点はガレージまわりのプランニング。サーフボードのメンテナンスをするための作業場、そしてウエットスーツの置き場といった収納計画、さらにガレージ内の車の動線計画など。サーフスペースでは、具体的にどのぐらいの長さのボードを保管する予定なのかをヒアリングしたあと、実際にKさんが勤めるサーフショップに出向き、ボードの保管状況や収納方法を確認したうえで、K邸でのサーフボードの保管スペースや、作業場から車へのアクセスなどを設計した。
■主要用途:専用住宅
■構造:木造3階造
■敷地面積:127.15平米
■建築面積:71.21平米
■延床面積:137.86平米
■設計・監理:無垢スタイル建築設計
■TEL:0120-262-900
■URL:http://www.muku.co.jp
【関連URL】
無垢スタイル建築設計 【edge HOUSE】他のガレージハウスを見てみるtext/菊谷聡
photo/木村博道
※カーセンサーEDGE 2017年3月号(2017年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
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