熊本地震で分かった、地震のリスクを減らすための「表層地盤」とは?
甚大な被害をもたらした熊本地震から、約1年半。防災科学技術研究所の研究グループが行った調査結果で今、新たに注目されているのが「表層地盤」だ。表層地盤は地表にごく近い地盤のこと。地震の波は堅い岩盤から表層の柔らかい地盤に伝わったときに増幅され、震度が大きくなる。このため表層地盤が何で構成されているかで、地震が住宅に与える影響が一変するという。地震による住まいのリスクや不安を少しでも減らすために、私たちは何をどうチェックすべきなのか。専門家に聞いた。
同じエリアでも地盤の違いで地震の揺れが変わる!
昨年の熊本地震で最も大きな被害を受けたのは、益城町と南阿蘇村、西原村だ。その中でも熊本から5kmしか離れていないベッドタウンの益城町では、同エリア内で数百メートル離れただけで、家が倒壊したところとそうでないところの二極化が生じ、住宅の被害状況が全く異なるという事態が発生した。
そんな中、茨城県つくば市にある防災科学技術研究所は、国のプロジェクトにおいて、首都直下地震等の地震災害発生時に備えた地盤の測定・調査を実施し、新しい揺れやすさマップの作成に取り組んでいる。今年3月末に暫定的な揺れやすさマップを作成したが研究は続いており、その成果を今年度中に公表予定としている。
このマップは、関東エリアを中心に地表から約100mまでの表層地盤の「速度増幅率」(地震発生時の揺れが表層の地盤によってどれくらい増幅するかを示す数値)の測定や、1km間隔で行う微動調査などを融合させたものだ。すると、これまでの想定より増幅率が1.5倍以上に強まる可能性のある地域が、関東平野だけで約5000カ所もあることが発覚。増幅率が2倍になると、計測震度は約0.5上がることになり、震度6強と予測されていた地域は、震度7に相当する揺れを感じるという。防災科学研究技術研究所レジリエント防災・減災研究所推進センター主幹研究員、先名重樹さんは、「自分の家は活断層の上じゃないから大丈夫と安易に言いきれなくなった今、地震のリスク回避を考え、表層地盤を意識した住まい選びが、今後重要になるでしょう」と話す。【画像1】地盤と建物の関係について語っていただいた、防災科学技術研究所レジリエント防災・減災研究推進センター主幹研究員、先名重樹さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
では、揺れやすい表層地盤とは、具体的にどのようなもので構成されているのか。例えば、もともと海だった埋め立て地は土(埋土沖積層や粘土層)でできているし、川の流域の地層には砂地が広がる。このようなかつて海や川、水田や沼地だった土地の地盤は、柔らかく揺れやすい。「柔らかい粘土層が一定程度堆積している場所では、地盤が軟弱な場合がままあり、古い木造住宅にとって危険である可能性が高いです」(先名さん)。
そのほか、盛土、ローム層、堆積盤といったさまざまな地形・地質があり、基本的には、粘土層や腐植土層といった柔らかい地盤の上に建つ建物の揺れ幅は大きくなり、堆積岩(砂・泥・火山灰・生物の遺骸などが堆積してできた岩石のこと)などの固い地質だと揺れ幅が小さくなる。ただし、同じ粘土層でも、堆積層が薄いと地盤波の伝播による揺れ幅が小さく、堆積層がある程度厚いと揺れ幅が増えて被害も大きくなるという。また、地盤が固い堆積岩で揺れによる被害が小さかったとしても、近くにある山地による崖崩れ、土石流、地滑りで倒壊するといった被害のリスクはあるということだ。 【画像2】地形・地質と災害の関連性を示す図(画像制作/SUUMOジャーナル編集部)【画像3】堆積層が揺れ方に与える影響図(画像制作/SUUMOジャーナル編集部)
揺れやすさの違いは、柔らかい地盤をプリン、固い地盤をプリンより少し固いこんにゃくで比較イメージすると、さらに分かりやすくなると先名さんは話す。「それぞれを揺らすと、柔らかいプリンはゆっくりと大きく揺れ、こんにゃくは小刻みにゆれます。柔らかい地盤ほど大きな横揺れが発生するS波速度が遅く、固い地盤ほどS波速度が速い。つまり、ゆっくり揺れるほど揺れ幅が大きくなり、建物の被害も大きくなるのです」。
ただし、建物にはそれぞれ揺れ方が異なる固有周期と呼ばれるものがあり、軟弱な地盤だからすべての住居に多大な被害が起こるとは一概には言えない。固い地盤でも、その地盤の揺れ方と、建物の固有周期が合ってしまうと被害は大きくなるので、地盤が柔らかいから危険、地盤が固いから安全、と画一的に判断しないほうがよい。一般的に、木造よりも鉄筋コンクリート造(RC造)の建物の方が剛性は高く、固有周期は短くなる。また、低層建物も高層建物に比べて、固有周期が短い傾向にあるという。
住まいを選ぶときの表層地盤を見極める手段とは
では住まいを選ぶとき、私たちはどのようにして地盤について調べればいいのか。産業技術総合研究所活断層・火山研究部門地震災害予測研究グループ主任研究員、吉見雅行さんによると、表層地盤を見極めるいくつかの方法があるという。
まず1つ目は、自分が住んでいる場所、あるいはこれから住もうと検討している場所の地盤を、国が提供する昔の地図で調べることだ。「地域や周辺の地形、地盤、崖崩れが多い地域といった自然環境の状況を確認しましょう。埋め立て地の地盤はすぐに分かりますが、海や川縁、水田、標高が低い土地は泥が堆積しており、軟弱な地盤が多い。ただし、熊本のように『標高が高い土地=地盤が固いので被害は少ない』と一概に言えないケースもあるので、地形だけで判断するのも危険です」。
関東平野に限って言えば、国土地理院や農業環境変動研究センターのホームページにある「関東平野迅速測図」という明治時代に作成された簡易地図をチェックすれば、「住みたい立地が、昔は沼か水田だった」といった地盤を知る手がかりにもなると吉見さんは言う。「扇状地、低地、湿地、台地なのかといった標高を確認するのもいいでしょう。台地ならリスクが小さい可能性が高い」(吉見さん)。過去の災害記録などを調べるのも、災害の危険性を予測して対策を考えるうえで役立つかもしれない。【画像4】地盤を踏まえた住まい選びについて語っていただいた、産業技術総合研究所活断層・火山研究部門地震災害予測研究グループ主任研究員、吉見雅行さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
2つ目は、防災科学技術研究所のサイトにあるハザードマップ(J−SHIS)を活用し、揺れやすい活断層や赤い部分をチェックすることだ(使い方は「震度6以上の地震に襲われる確率は? 予測地図でチェックしてみた」の記事を参照 )
これまで政府が公表してきた地盤の揺れやすさを示す地図では、山地や低地などの地形の区分ごとに強度を推定し、細かく分析できていなかったという。だが近い将来までに、防災科学技術研究所では揺れやすさを表した地図を作成し、一般向けの公開を目指していると先名さんはいう。
続々登場する地盤を活用した対策サービス
3つ目は、地盤の論理を活用した地震対策サービスを活用することだ。最近は「地盤ネット」という民間企業が、宅地の表層地盤増幅率や固有周期を実測データに基づいて示すサービスがある。地盤の卓越周期と家の固有周期を計って、揺れ幅を計算すれば、住まいの補強が必要かどうかの判断にもなる。さらに同社は、自分が現在居る場所の地盤評価をその場で示すスマートフォン用アプリ「じぶんの地盤アプリ」を開発。地盤品質判定士という専門家に対策などを相談することもできる。
表面調査を行うビイックでも、室内に地震計を設置し、実際に建物を揺らしてみて、揺れ(固有周期)を計測するサービスを提供する。新築やリフォーム時などに計測すれば、揺れ幅が大きそうな部分を重点的に補強することも可能だ。
2人の地震のスペシャリストが口をそろえて言うのは、「本州太平洋側は相模トラフ、南海トラフといった大規模な地震発生帯があり、いつ地震が起こってもおかしくない状況。これからは自分が住みたい、あるいは住んでいる場所の地盤を知り、リスクを認知することが大事」ということ。その上で、耐震基準をクリアした、できるだけ新しい住まいを選ぶことをおススメする。
「すでにお住まいの住居の地盤が揺れやすいと分かったときは、補強したり、地震保険をかけたりするなどして、対策を立てることをお勧めします。ただし、特に大災害の場合には、地震保険を掛けたからと言って全額が保障されるとは限らないことも頭に入れておきましょう。また地震が起きたときに集まる場所などを、家族と相談しておくことも大切です」と先名さん。まずは、住んでいる、あるいはこれから住みたいと思う地形や地層に関心を持ち、理解することから始めてみてはいかがだろうか。●取材協力
・防災科学研究技術研究所
・産業技術総合研究所
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