集客目的での「大安売り」は許される?
「不公正な取引方法」とは何なのか?
キャベツや大根、モヤシなどの野菜を原価割れの「1円」で販売したスーパーに対し、公正取引委員会が独占禁止法違反(不当廉売)に当たるとして再発を防止するよう警告した、とのニュースがありました。
集客目的での大安売りは多くの小売店でなされることがありますが、公正取引委員会が野菜への警告を出したのは全国初だということです。なぜ、このような警告が出されるに至ったのでしょうか。
独占禁止法では、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」を「不公正な取引方法」と規定し、規制の対象としています。また、公取委の告示では「不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」も不公正な取引方法にあたるとしています。
この規定の目的は、企業の効率性の結果を超えて、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得することは自由・公正な競争を阻害する結果となることから、法によりこれを制限するものです。一例を挙げれば、赤字価格で商品を販売し、同業他社が価格競争についてこれずに廃業や撤退したあと価格を戻した場合、不当廉売によって独占状況を作り出すことができることになる、ということが言われます。
今回はなぜ「不当廉売」と判断されたのか?
では、今回の安売りがなぜ「不当廉売」とされたのでしょうか。
公取委が公開している法律の一般的な解釈指針によると、「供給に要する費用を著しく下回る対価」かどうかについては不当廉売規制の目的から判断すべきであるとしており、具体的には「廉売行為者(安く売っている側のこと。今回は当該スーパー)の供給に要する費用」を基準に事案に即して判断する、としています。通常数十円~100円程度の野菜を「1円」で販売することは、当該スーパーの仕入れ原価を大幅に割り込んでいると考えられますので、この要件を満たしている点は、理解に難くありません。
今回ポイントとなるのは「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」です。この要件は、通常は競争関係にある事業者を指しますが、公取委の指針では競争関係にない事業者も含む、とされています。
今回のケースでは、報道で公取委の担当者が「モヤシや豆腐などの不当廉売に対して中小事業者から取り締まりの要請が高まっている」と説明しているようであり、実際に規模の小さい商店にあたえる影響は無視できないでしょう。また、近時は野菜の安売りに対し、生産者が適正価格での販売を訴えるということもあります。原価割れの販売が続くと商品価格の下落を招き生産者にも影響が及ぶことも考慮されたものと考えられます。
なお、このような安売りが一切許されない訳ではなく「正当な理由」がある場合には例外的に許容されます。たとえば、生鮮食品の「見切り販売」や、傷もの、半端ものなどのいわゆる「B級品」を相応の低い価格で販売する行為は、正当な理由があるとされています。
また、開店記念セールや廃業等を理由とした在庫処分の廉売など、一時的な大安売りは独占禁止法の「継続性」の要件を満たさず、他の事業者への影響も大きくないため許されると思われます。
今回問題とされたのは、値引き割合が大きく、また一時的な安売りと思われない状況があったためと思われます。集客目的の広告としては確かに有効ですが、その結果として中小事業者や生産者を犠牲にすることは、長い目で見て消費者の利益にもつながらないでしょう。小売業界の再編成が進む中ですが、各社には節度ある対応が求められていることを表す出来事だといえるでしょう。
(半田 望/弁護士)
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