“万能死体”役のダニエル・ラドクリフが語る『スイス・アーミー・マン』 「前例のない役だから間違えようがない、と励まされたんです」[ホラー通信]
ダニエル・ラドクリフがスイスアーミーナイフのごとく万能な死体“メニー”を演じる映画『スイス・アーミー・マン』。ポール・ダノ演じる遭難した青年のハンクとともに、二人で故郷を目指してサバイバルする前代未聞のバディムービーです。
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予告編では、ハンクがメニーにまたがり、メニーがお尻から放出するガス(おなら)でジェットスキーする姿も衝撃的でしたが、話し相手を欲するハンクに呼応するようにしゃべりだすメニーに衝撃を受けた方も多いのでは。死体なのになぜ?と思いますが、本編を観れば“万能な死体”という特異なキャラクターとは別の主題があることに気付きます。生きることに不自由な二人が(片方死んでますが)、過酷な環境で“生きること”に向かい合い、互いを刺激しあって見つけていくものとは。
前代未聞の役を魅力的なキャラクターへと昇華させた、メニー役ダニエル・ラドクリフさんにお話を伺いました。
<あらすじ>
無人島で助けを求める孤独な青年ハンク(ポール・ダノ)。いくら待てども助けが来ず、絶望の淵で自ら命を絶とうとしたまさにその時、波打ち際に男の死体(ダニエル・ラドクリフ)が流れ着く。ハンクは、その死体からガスが出ており、浮力を持っていることに気付く。まさかと思ったが、その力は次第に強まり、死体が勢いよく沖へと動きだす。ハンクは意を決してその死体にまたがるとジェットスキーのように発進!様々な便利機能を持つ死体の名前はメニー。苦境の中、死んだような人生を送ってきたハンクに対し、メニーは自分の記憶を失くし、生きる喜びを知らない。「生きること」に欠けた者同士、力を合わせて大切な人がいる故郷に帰ることを約束する。果たして2人は無事に家へとたどり着くことができるのか―!?
ダニエル・ラドクリフ インタビュー
――この役のオファーが来たとき、これはどんな映画になると思われましたか。
ラドクリフ:この役は最初に設定を聞いただけで、「やりたい!」と思いましたね。サミュエル・ベケットが書いたような、とてもユニークなバディムービーになるんじゃないかなと思いました。最初はそんなイメージでしたが、完成した映画を観て驚いたのはその壮大さですね。たしかに奇妙な物語でユニークな話ではあるけれど、こんなにスケール感のある作品になることは想像していませんでした。
――あらすじを聞いた第一印象と本編を観た印象が大きく変わってくる作品ですよね。ラドクリフさんの周りのリアクションはいかがでしたか。
ラドクリフ:「大好き!」と言ってくれる人もいれば、「なんじゃこりゃ!」と言った人もいますよ。でもリアクションとしてはどちらも良いと思うんです。今まで聞いた話で一番面白かったのは、サンダンス映画祭の『スイス・アーミー・マン』の上映のあとにかなり混雑した男子トイレのなかで、個室にいた人がおならをしてしまって、そこにいる人たちで大爆笑が巻き起こったそうなんです。最高のリアクションですよね! 日本でもそういうリアクションが返ってきたら嬉しいですね(笑)。
――この万能死体のメニーというのは前例のない役ですよね。心はないけど体が動くゾンビとは正反対で、体は動かないけれどハートがある。この未知のキャラクターを作っていくのは難しくなかったのでしょうか。
ラドクリフ:それはまさしく最初にぶつかった壁でしたね。どういう風に演じればいいのか悩みました。しかしそんな僕を見て、友人が「これまでにない役なんだから、間違いようがないじゃないか」と言ってくれたんですよ。「一貫していて、みんなが観たいと思わせる娯楽性がきちんとあるものであれば成立するよ」とね。
監督たちとの役作りのプロセスもそういったことを考えながら進めていきました。死体なんだけれども生きていて、決してゾンビではない。魂があって人間性がある。それってどういうことなのかというのを突き詰めていって、できたのがメニーなんです。
――過酷なサバイバルシーンの連続で、撮影はかなり体を酷使したんじゃないでしょうか?
ラドクリフ:役者というのは常に役のために自分の体を自由に使えるようにあるべきと思っていますから、コンディションは常に整えていました。撮影で一番大変だったのは水のシーンでしょうか。海水が目に入っても、死体なのでまばたきをしちゃいけませんからね。でも大変だったのは正直僕よりもポールだったと思いますよ! なにしろ僕を担いで演技しなければならなかったんだから。
――ハンクとメニーのキャラクターの魅力はどういうところでしょうか。
ラドクリフ:メニーは可愛らしいですよね。メニーが「自分が生きている(※死体です)」ということを自覚してから、とってもワクワクしている感じ。そして常に、見ている人がイラッとするのではというくらいポジティブ。そういうところがおもしろいところですよね。
ハンクは人生で色々と経験してきた悩める男。けれども、メニーと出会って、自分にとってはいいことばかりじゃなかった世界だけど、メニーには一生懸命世界の美しさを見せようと思うところが好きです。奇妙なストーリーではあるけれど、ハンクはとりわけリアルな人間味を持っていて、共感できるキャラクターなんじゃないかなと思います。
――一歩間違うと下品になってしまう笑いのシーンが多々ありますが、それが悪趣味にならないのがすごいというか。メニーは常にチャーミングさを保っていますよね。
ラドクリフ:それはもう監督たちのおかげでしょうね。監督たちは最初、「観客には前半では笑ってほしいけど後半では泣いてほしい」と言ったんですよ。すっごくクレイジーな試みだけど、とにかく一緒にやってみよう!と思ったんです。
ハンクという男は、自分の肉体というか、人間の肉体に対してちょっと苦手意識があるんですよね。自分の体に対して居心地がよくないような感じを抱いている。そんな彼にとって一番一緒にいたくない相手は“おならをし続ける死体”でしょうね! それを最初は笑いとして描いているんだけど、最終的に、おならに代表されるような誰しもが持ち合わせている人間の生理現象がシンボリックな形で描かれて、「本当はみんな誰しも居心地よくいられるべきなのに」というメッセージに繋げているのが見事なんですよね。
――ラドクリフさんから見て、ハンクとメニーの関係性はどういうものだったと思われますか。
ラドクリフ:二人の間にあるものはすごく純粋な愛のかたちじゃないかなと思っています。ロマンティックな側面はあるけれど性的なものではなくて。そう思うのは、どういう形にせよお互いがお互いを幸せにしたいという想いがあるからですね。それは純粋な愛だと思うんです。
「人間と死体のあいだに生まれる純粋な愛」「スイスアーミーナイフのように万能な機能のある死体」「死んでいるけどハートがある死体」「死体と人間のバディムービー」……映画『スイス・アーミー・マン』は、そんな数々の奇想天外なアイデアが詰め込まれ、予想だにしない壮大で美しい物語に仕上がっています。是非その目でお確かめください!
映画『スイスアーミーマン』は9/22より全国ロードショーです。どうぞお楽しみに!
公式サイト:http://sam-movie.jp/
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