仕事の効率を妨げる「4つの敵」に、どう立ち向うべきか――ドラッカーからの伝言
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、P・F・ドラッカーの名言を解説いただくコーナー。第18回の今回は、「組織の成果を上げる際の障壁になるものとは?」の前回の続きをお送りします。
【P・F・ドラッカーについて】
ピーター・F・ドラッカー(1909〜2005)は、オーストリア出身の著名な経営学者。激動のヨーロッパで古い価値観・社会が崩壊していくのを目撃。ユダヤ人の血を引いていたドラッカーはナチスの台頭に危険を感じて渡米、ニューヨーク大学の教授などを経て、執筆と教育、コンサルティング活動等に従事する。
ドラッカーが深い関心を寄せていたのは、社会において企業が果たす役割についてであり、生涯にわたって、組織内で人をよりよく活かす方法について研究、思考し続けた。「マネジメントの父」と呼ばれ、GE社のジャック・ウェルチ氏やP&G社のアラン・ラフリー氏など、ドラッカーを師と仰ぐ世界的な経営者は数多い。
こんにちは。俣野成敏です。
著名な経営学者であるP・F・ドラッカー氏の言葉を「私なりの解釈を付けて読み解いていく」というこのコーナー。
世界中に支持者を持つ一方で、難解と言われることも多いドラッカー氏ですが、残された著書を紐解くことによって、長年にわたり世界的企業の第一線で指導を続けた氏の真髄に触れることができます。これを機会にぜひ氏に親しんでいただき、氏の英知をご自身の仕事に取り入れていただくきっかけとなりましたら幸いです。
本日は、前回に続き、下記の名言について解説いたします。
【本日の名言】
「通常、組織に働く者は自分ではコントロールできない四つの大きな現実に囲まれている。それらの現実は、いずれも組織に組み込まれ日常の仕事に組み込まれている。彼らにとっては、それらのものと共生するしか選択の余地はない。しかも四つの現実のいずれもが、仕事の成果をあげ業績をあげることを妨げようと圧力を加えてくる」
(P・F・ドラッカー『経営者の条件』)
前回は、組織の中に存在している「仕事の成果を妨げる“四つの現実”」について説明しました。その四つの現実とは、
(1)他人によって奪われる時間
(2)際限のない日常業務
(3)他者に依存している成果
(4)外部から遮断された環境
(言葉は著者が一部を要約)
この四つの現実は「変えることができない」とドラッカー氏は言います。避けることができない以上、これらがある前提で考え、行動していくしかありません。
前回、(1)「時間」について、私の事例をもとにお話しました。今回は他の3つに関して、それぞれ解説を加えていくことにしましょう。
あなたがやっているのは、本当に必要な仕事なのか?
まずは(2)「日常業務」についてですが、ドラッカー氏は「断固たる行動をもって変えないかぎり、日常の仕事の流れが彼の関心と行動を決定してしまう」と述べています。つまり「惰性」です。人は何も考えないでいると、とりあえず「目の前の仕事」「昨日の続き」に手をつけてしまいがちです。
普段、日常業務を改善するためによく叫ばれているのが効率化ですが、効率化とは、実のところ「今ある作業の手順を見直している」だけに過ぎません。けれど本当に大事なのは「その作業はそもそも、必要なのかどうか?」ということのほうです。
もちろん、会社はやる必要のある仕事だと思っているからこそ、あなたに仕事を頼んできています。ところが仕事の中には、以前は必要とされていたけれども、今はすでにやる意味を失った業務などが混じっていることがあります。また、同じ仕事を別の部署も重複してやっているような場合もあります。
それが本当に必要な仕事なのかどうかは、ただ、言われるままにやっているだけでは判断できません。それを見極める方法としては、仕事が自分の手を離れた後にどうなっているのかを追跡調査したり、後続の担当者の役に立っているのかを聞いてみたりするのも手です。
もし、意味のない仕事を見つけて、あなたの代で終わらせることができたら、それはあなたの労力だけにとどまらず、その仕事を将来、引き継ぐはずだった人の分の労力までをも省略できたことになります。それによって空いた時間を、より生産的な業務に注力することができるようになります。
他人からの協力を取り付けるために会議を活用する方法
続いて(3)「他者に依存している成果」に関してですが、成果とは元来、他人あってのものなのだ、ということを前回お話しました。
人が集まって何かを成そうと思った時に、不可欠なのが「協力」です。そもそも、組織とはチームです。チームとは、所属している人がそれぞれの能力を発揮し、相乗効果でよりよい成果を上げていこうとするものです。ですから「いかに他者の協力が得られるか?」ということが、ことの成否を大きく左右します。
仕事をする者同士が、議論し、協力し合うために行うものの一つに会議があります。ドラッカー氏も「会議とは、目的をもってチームを方向づける」ために行われる、と述べています。
ところが実際の会議とは、ただ資料を読み上げるだけで、誰も発言しない報告会的な内容のものや、あるいは部署同士の利害が対立しあい、紛糾して収拾がつかなくなるものなど、時間ばかり浪費させるものが少なくありません。協力し合うことが目的の会議で、かえって対立してしまうのは、たいていお互いが自分の権利を主張するだけだからです。
たとえば、部署間の交渉で言うと、私がサラリーマン時代に行っていたのが「相手が喜ぶことをリストアップするために会議に参加する」ことでした。会議では他部署の意見を聞きながら、「自分たちの目的を達成するために、相手にどう動いて欲しいのか?」「そのために自分たちができることは何なのか?」と考えていました。
実際にその案を提案するかどうかは別にして、私はいつも「相手が喜ぶこと」と「自分たちの得たい成果」をセットで思案する場として、いつも会議に臨んでいました。交渉とは、お互いの満足条件を満たすことに他なりません。そのためには、「誰も損をしない提案をする」ことが基本なのです。
どんなに成功した会社でも「明日は保証されていない」
最後の(4)「外部から遮断された環境」についてですが、ここでは「どれくらい『視野』の広さを持てるか?」ということがポイントになってきます。社内での日常にばかり気を取られていては、外部環境の変化に気づきにくくなります。そうやって視野が狭まっていくと、重要なことが見過ごされ、未来のチャンスが見えなくなってしまいます。
今の世界は変化が早く、たとえ現在は他社より有利な立場にいたとしても、技術革新によって突然、市場自体がなくなる可能性すらあります。たとえばデジタルカメラが登場することによって、写真フィルムの市場がほぼ消えたように、です。
アメリカのコダック社は、かつて写真フィルムを発明した会社として、フィルム業界では圧倒的な地位にいました。しかし、デジタルカメラ時代の波に乗り遅れ、2012年、ついにアメリカ連邦破産法の適用を申請することとなりました。翌年、株式を再上場していますが、もはや往年の姿は望むべくもありません。
同社が必ずしも、外の世界が見えていなかったのかと言うと、そうとは言いきれないでしょう。1975年に、世界初のデジタルカメラを発明したのは同社です。けれど結局、従来のビジネスモデルから脱却することはできませんでした。
たとえ今がうまくいっているとしても、それが未来を保証してくれるワケではありません。大事なのは、変化に気づき、それに対応することです。今が強ければ、将来も生き残れるという保証はどこにもないのです。
「四つの現実」に対するドラッカーからの問いかけとは
前回、今回と2回に渡って、組織の成果を妨げている四つの現実について考察してきました。
お伝えしたかったのは、まずはこの四つの現実を認識するところから始める、ということです。そしてそれを踏まえた上で、ドラッカー氏は「あなたは自分の組織内において、この四つの現実とどう対峙するのか?」ということを問いかけているのではないでしょうか。
もし、あなたの組織がうまく回っていないのだとしたら、まずはこの四つの現実のどれかが阻害要因になっていないかを確認してみるといいでしょう。これらは確かに、完全に消し去ることはできません。それでも、認識できれば何かしらの対策はある、ということなのです。
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が11刷となっている。著作累計は34万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
俣野成敏 公式サイト
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