なぜ、あなたは「時間がない」のか?――ドラッカーからの伝言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、P・F・ドラッカーの名言を解説いただくコーナー。第17回の今回は、「組織の成果を上げる際の障壁になるものとは?」についてです。

【P・F・ドラッカーについて】

ピーター・F・ドラッカー(1909〜2005)は、オーストリア出身の著名な経営学者。激動のヨーロッパで古い価値観・社会が崩壊していくのを目撃。ユダヤ人の血を引いていたドラッカーはナチスの台頭に危険を感じて渡米、ニューヨーク大学の教授などを経て、執筆と教育、コンサルティング活動等に従事する。

ドラッカーが深い関心を寄せていたのは、社会において企業が果たす役割についてであり、生涯にわたって、組織内で人をよりよく活かす方法について研究、思考し続けた。「マネジメントの父」と呼ばれ、GE社のジャック・ウェルチ氏やP&G社のアラン・ラフリー氏など、ドラッカーを師と仰ぐ世界的な経営者は数多い。

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こんにちは。俣野成敏です。

著名な経営学者であるP・F・ドラッカー氏の言葉を「私なりの解釈を付けて読み解いていく」というこのコーナー。

世界中に支持者を持つ一方で、難解と言われることも多いドラッカー氏ですが、残された著書を紐解くことによって、長年にわたり世界的企業の第一線で指導を続けた氏の真髄に触れることができます。これを機会にぜひ氏に親しんでいただき、氏の英知をご自身の仕事に取り入れていただくきっかけとなりましたら幸いです。

本日は、下記の名言について解説いたします。

【本日の名言】

「通常、組織に働く者は自分ではコントロールできない四つの大きな現実に囲まれている。それらの現実は、いずれも組織に組み込まれ日常の仕事に組み込まれている。彼らにとっては、それらのものと共生するしか選択の余地はない。しかも四つの現実のいずれもが、仕事の成果をあげ業績をあげることを妨げようと圧力を加えてくる」

(P・F・ドラッカー『経営者の条件』)

ドラッカー氏は、「組織は一人ひとりの強みを発揮させるための仕組みである」(『経営者の条件』。以下、引用は同書より抜き出し)と述べています。一般に、組織とは何らかの目的の下につくられています。氏は、その目的とは「成果を上げるため」だと言っています。

成果を上げるための組織が、実は「成果の妨げになっている」

ところが、「成果を上げるために存在しているはずの組織が、逆に成果をあげる際の妨げになっている」とドラッカー氏は言います。その妨げとなっているのが、組織の中に存在している“四つの現実”です(以下、四つの言葉は著者が一部を要約)。

(1)他人によって奪われる時間

(2)際限のない日常業務

(3)他者に依存している成果

(4)外部から遮断された環境

まずは(1)「時間」についてですが、私たちの仕事は日々、さまざまな出来事によって中断されます。電話や呼び出し、顧客の雑談の相手や上司への報告など。それらは確かに緊急性があるのかもしれませんが、そうしている間にも、貴重な時間は容赦なく過ぎていきます。

(2)「日常業務」に関しても、思い当たることが多いでしょう。どんなに効率化を考えても、それだけでは日常業務は増えていく一方になります。氏も「日常の仕事の流れに任せたまま、何に取り組み、何を取り上げ、何を行うかを決定していたのでは、それら日常の仕事に自らを埋没させることになる」と述べています。

成果は自分一人では出すことができない

続いて(3)「他者に依存している成果」についてですが、組織では当然ながら、自分一人が働いているわけではありません。通常は、誰かから仕事を受け、処理した仕事を次の人に渡す、というサイクルを繰り返しています。そうなると、いくら自分が「素晴らしい仕事をした」と思っても、自分の仕事を受けた人がそれを処理してくれない限り、結局のところ成果には結びつきません。

さらに言うと、そうやってできあがった商品やサービスを顧客が使い、効果が実証されて初めて、成果が出たと見なされます。本当の成果とは、自分一人で出すことはできません。他人あっての成果なのです。

最後に(4)「外部から遮断された環境」について、組織で働く人にとっては、目の前にいる上司や同僚との関係こそがリアルな現実です。誰しも遠くにいる顧客よりも、今いる環境を快適に過ごしたいと思うのは、ムリのないことです。

確かに、会社で働いている人でも、一歩外へ出れば一消費者に変わります。しかし実際には、外の世界を自分のこととして感じるのは容易なことではありません。ドラッカー氏も「意識的に外の世界を知覚すべく努力しなければ、やがて内部の圧力によって外の世界が見えなくなる」と述べています。

なぜ、あなたは「時間がない」のか?

それでは、成果を妨げる四つの現実について、私の解釈をお話していこうと思いますが、今回は主に(1)の時間について説明しましょう。時間についてはドラッカー氏も特に重視しており、『経営者の条件』の中でも1章を割いているほどです。それほど、時間とは貴重で、失いやすく、しかも他で補うことができないものです。

時間の活かし方について、氏は「成果をあげるには大きな固まりの時間が必要である。いかに総量が大きくとも細分化していたのでは役に立たない」と述べています。つまり短い時間を寄せ集めてもあまり意味がなく、大事なのは「まとまった数時間を確保する」ことです。

では、そうした時間をつくるためにはどうしたらいいのかと言うと、「まずは時間を記録することだ」と氏は言います。

「大切なのは記録することである。記憶によってあとで記録するのではなく、リアルタイムに記録することである。時間の記録をとり、その結果を毎月見ていかなければならない。最低でも年二回ほど、三、四週間記録をとる必要がある」(『経営者の条件』)

ここで、氏が問題視しているのは、「時間が有限だ」ということではありません。実は、真の問題とは集中力が途切れることです。気が散る環境であったり、気軽に声をかけたりする状況が、人から容易に時間を奪う要因の一つなのです。

時間をつくるには集中できる環境づくりが大切

ここで、私が会社員時代に実際にやっていた、時間を奪われないための方法をご紹介したいと思います。それは、「1人で会議室にこもる」ことです。

まず、実際に自分の時間を記録します。すると、いつ自分の時間が奪われやすいのか、という傾向がだいたいわかってきます。その結果をもとに、もっとも集中したい時間帯に会議室を予約していました。

その時間に会議室で何をやっていたのかと言うと、たった1人でパソコンに向かって仕事をしていました。普段、自分の机でパソコンを打っていると、今は声をかけてほしくないと思う時に声をかけられ、業務を中断することが多かったからです。それがどれだけ重要な仕事なのか、傍目からはわかりません。ですから私は「今は声をかけてほしくないと思った時の一番の方法とは、その場にいないこと」だと考えたのです。

もし、あなたの会社にも会議室があって、あまり使われていない状況なのであれば、一度この方法を試してみてはいかがでしょうか?会議室を使用するのが難しい場合は、可能であれば集中したい時間は外へ行くのもいいでしょう。自分が集中しやすい環境に身を置くことから始めるのです。

時間管理で大切なこと

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実際に記録を取ってみると、直接、成果が出ることに費やされている時間があまりにも少ないことに、おそらくあなたは驚くでしょう。ドラッカー氏も「時間浪費の原因となっているものを容赦なく切り捨てていっても、自由になるまとまった時間はさほど多くはない」と言っています。

時間を記録する本当の意味とは、「自分の時間がどのように使われているのか」を自身が知ることにあります。それを実感することによって、ようやく自分の貴重な時間を、より生産的な活動に充てることの大切さに気づくのです。

長くなりますので、今回はこの辺で。続きはまた次回、お話します。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が11刷となっている。著作累計は34万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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