「仕事が速い人」が実践する10のルール | 石黒謙吾
著述家であり書籍のプロデュース&編集も行う石黒謙吾さん。25年間でプロデュース&編集した書籍は220冊以上。同時に、自著の執筆も50冊以上を手掛けています。「仕込み中」の案件を含めると進行中の企画は、約80作。煩雑な連絡業務と、集中力を要する執筆作業、調整と段取り勝負の編集作業をどのように超速処理しているのか聞きました。
<プロフィール>
石黒謙吾(いしぐろ・けんご)
1961年金沢市生まれ。著述家・編集者・分類王。著書に、映画化された『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋)のほか、『決断できる人は2択で考える』(星海社新書)など多数。プロデュース・編集した書籍は、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一、菊池良/宝島社)、『負け美女』(犬山紙子/マガジンハウス)など、幅広いジャンルで250冊を超える。石黒謙吾 (@ishiguro_kengo) | Twitter
――「書籍のプロデュース&編集」とは、どのようなお仕事ですか?
「この人面白い!」と思う著者候補を見つけ、書籍の企画を立て出版社に持ち込んでいます。ここまでがプロデューサーとしての仕事です。企画が通れば、著者への原稿ディレクション(作成指示や修正指示)や、イラストレーターやカメラマン、デザイナーとの打ち合わせ、タイトル付けなどのすべての編集と進行を行います。
同業のフリー編集者と大きく違うのは、「著者や企画がかっちり決まっている案件の請負仕事はやらない」ことです。本を作るなら自分で考えた企画や、「面白い!」と思った著者やネタで勝負をしたいんですよ。
――最近プロデュースされた作品だと『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一、菊池良/宝島社)が、発売2カ月で7万部のヒットになっていますね。
作ったわれわれも驚いています(笑)。もちろんヒットすればうれしいんですが、実は、今回の本に限らず、企画を考えるときには「ヒットする本を作ろう」とは考えてないんですよ。むしろ、まだあまり知られていないニッチな世界観を世に知らしめる仕事が好きなので、いつも企画が通るか通らないかのギリギリのところでやっています。
石黒流 仕事の管理方法10のルール
――仕事の管理はどうされているのですか?
1冊の本が完成するまでに、メールだけでも少ないときで1000通ぐらいやりとりします。デザインやイラストなどが複雑な場合、数千通になることもよくあります。
仕込み中の企画を含めると、80作近い案件が同時進行しているので、毎日100~200件はメールが来ます。加えて、日々の膨大な業務作業があるので、仕事のやり方はいくつか明確にルールを決めています。
【ルール1】 オンオフをはっきりさせ、仕事時間にメリハリをつける
まず仕事する時間を「朝10時~夜10時まで。土曜日は草野球をやるので完全にオフ」と決めています。日々の時間は多少前後に食い込むこともありますが、「夜、ビールを飲んでリラックスする時間」を必ず持ちたいので、だらだらと遅くまでは仕事しません。
仕事が終わったら、メールもスマホも一切見ない。そもそも仕事のメールはスマホに転送していません。ノートパソコンも持っていないので、メールチェックも原稿執筆も基本はすべて仕事場(自宅)で行います。出張などでメールチェックができないときには、直近でやり取りする可能性がある人全員に不在期間を知らせておけば、特に問題はありません。急ぎならケータイにかけてくれますし。
【ルール2】 仕事の連絡はメールに集約し、案件ごとにフォルダに仕分ける
仕事のやり取りはすべてメールに集約しています。FacebookやTwitterから問い合わせや連絡が来ることもありますが、仕事絡みの連絡は必ずメールに送りなおしてもらうようお願いします。とにかく数が多いので、あちこち見に行かなければいかない状態は、とても非効率だからです。一元化しないと処理・記憶しきれません。
メールは案件ごとにフォルダを作り、「返信が終われば、フォルダに格納していく」を徹底しています。受信ボックスに残っているメールは、次に僕が何かアクションを起こすべきだということ。まあ、古いやつだと3年前のメールが残っていたりしますが(苦笑)。
【ルール3】 「未処理件数」をとにかく減らす
朝パソコンを立ち上げたら、まずは簡単に処理できるものから順番に片づけます。目を通さず捨てるメルマガ、さっとだけ目を通して捨てるメルマガ、レスがいらない確認メール、一言だけ返信すれば終わるメールなどを仕分け終えてから、原稿確認のような時間のかかる作業に取り掛かります。
毎日、何百通とメールが来るので、重要な案件から先に手を付けていては、いつまでたっても数が減りません。連絡をくれた相手を待たせたくないので、レスポンスのスピードはかなり重視しています。
【ルール4】 「お互いの時間」を節約するために電話を活用
最近、「電話は相手の時間を奪う」という風潮がありますが、電話はうまく使えばお互いの時間を節約できます。それに、何でもかんでもメールで済ませようとする人ほど、すぐに打ち合わせをしたがると体感しています。
「とりあえず打ち合わせしましょう」と、何の準備もしないで会うことほど時間の無駄なことはありません。必要な書類を作成し、事前に確認し合ったたうえで、電話すれば5分で済むことも、打ち合わせだと往復時間も入れて、最低3時間かかってしまう。
僕は原稿のディレクション(作成指示や訂正指示)は、90%以上電話で行います。メールでは時間的に不可能でもありますが、なによりニュアンスが伝わらない。中途半端にしか伝わらない状態だと、相手に何度も書き直させることになり、迷惑をかけてしまいます。
場合によってはアポイントの調整だって、その場で電話したほうが、お互いに早いこともある。一方的に電話を「悪者」にせず、電話とメール、対面の使い分けをしっかり考えればいい。
【ルール5】 外出の予定はできるだけまとめる
外出は必要不可欠なものだけに絞り、週のうち2、3日は外出せずに自宅で集中できるようにアポイントを先手先手で調整します。
メールの返信などの細かい作業は、スキマ時間でもできますが、原稿執筆や編集作業はある程度固まって集中しないとできない。出る日と出ない日を極力ハッキリ分けます。
【ルール6】1秒を惜しんで効率化を図る
仕事の時間はあっという間に過ぎるので、時間は1秒だって惜しい。自宅内の作業環境や、手順は徹底的に無駄を排除しています。一度、デスクに座ればプリンターやスキャナーは座ったままで手が届く場所に配置。資料はデジタルデータでもアナログでもすべてフォルダごとに分けて整理し、必要なときに必要な情報がさっと取り出せるようにしています。原稿やカバーのデザイン、ラフ案などは、関係者全員で共有するDropboxに保存すれば、いちいちメールに添付したり圧縮したりする手間が省けます。
よく「メールやファイルを分類するのは手間だ」と言われることもありますが、僕からすれば、探す手間と時間のほうがよほど惜しい。進行中の案件なのに、いちいち検索しないと、必要なデータにたどり着かないなんて、すごく非効率です。
【ルール7】 健康管理を怠らない
身体を壊して仕事ができなくなると、一気にすべてが滞るので健康管理には気を使っています。朝8時に起きて、30分犬の散歩。朝食には青汁や熊笹パウダー、春ウコンパウダー、しじみ習慣など10種類を3分で一気に摂取して、さらに野菜と海産物中心の具沢山な雑炊を食べます。たんぱく質とビタミンをたくさん摂るよう意識しています。
週に一度は整体、隔週で耳つぼ、足つぼのマッサージに行き、体をケアします。運動は毎日夜に行うストレッチと毎週末の野球ぐらいですが、移動時にはエスカレーターを使わない、階段は一段飛ばしで歩く、などのマイルールを決めています。
【ルール8】 仕事に「集中力」はいらない
「集中しないと仕事ができない」と甘いことを言っている余裕はありません。気がつけば集中していた、という時間はありますが、いちいち「集中しよう」「集中しなきゃ」と考える時間すらもったいない。むしろ「集中しないでも仕事ができる力」が大切。パソコンの立ち上げと同時に仕事スイッチを入れています。
【ルール9】 頭を空っぽにする時間をできるだけ作る
パソコンは空き容量が少なくなると正常に機能しませんよね。これは人間の脳みそも同じだと思います。だらだら仕事をしないのも、スマホで仕事をしないのも、「頭を空っぽにする時間」が欲しいからです。調べればすぐにわかることなど、覚えなくていいことは一切覚えようとしません。
頭を空っぽにすると、新しい企画や考えていた本のタイトル案などがふっと思い浮かぶことが多いですね。それが本の入稿前や執筆の〆切に追われているときなどは、なかなか出てこない。これは「自分の企画でメシを食う」と決めている僕には死活問題なのです。
【ルール10】 「自分の頭で考える」
僕はビジネス書の類は、一切読みません。日々の仕事のスタイルは、すべて自分で考えて、試して「こうやったほうがいい」と思うやり方を定着させています。ライフハックのような、誰かがすでにノウハウ化したことには一切興味がない、というか、自分で作るほうがよっぽど面白いですよ。
もっといえば、「ルールは自分の頭で考えないと馬鹿になる」と思っています。野球選手のダルビッシュが以前、「『練習は嘘をつかない』というけれど、頭を使わない練習は普通に嘘をつく」という趣旨の発言をしましたが、その通りだと思います。
自分で考える癖をつけておかないと、人が考えたノウハウの上澄みをすくうだけしかできなくなりますよね。自分にフィットしたノウハウを考えられるのは自分だけなのですから。
まとめ~分類脳を鍛えよう
<ルールまとめ> オンオフをはっきりさせ、仕事時間にメリハリをつける 仕事の連絡はメールに集約し、案件ごとにフォルダに仕分ける 「未処理件数」をとにかく減らす 「お互いの時間」を節約するために電話を活用 外出の予定はできるだけまとめる 1秒を惜しんで効率化を図る 健康管理を怠らない 仕事に「集中力」はいらない 頭を空っぽにする時間をできるだけ作る 「自分の頭で考える」
何ごとも俯瞰して、分類し、抽出、定着させるクセを身につけることが大切だと思います。例えば、何かに対して自分が「好き・嫌い」と感じる違いを考えてみる。映画でもドラマでも小説でも、自分が好きなことなら何でもいいです。
例えば、電車の中できれいな女性がいたら、ルックスに限定して点数をつけてみる。70点と80点の違いは何か。その微妙な違いを考えることは、とてもいい思考訓練です。「何となく好き」というのでは、脳みその持ち腐れです。
【参考】
石黒謙吾さん 著書『分類脳で地アタマが良くなる』
(KADOKAWA/角川マガジンズ)
石黒さんの普段の頭の使い方が分かる一冊。普段、無意識に行っている「分類」を意識的に行うことの大切さと、その具体的な方法を紹介します。仕事のスピードを上げたい人、発想力・企画力を高めたい人におすすめです。
取材・文:玉寄麻衣、撮影・編集:鈴木健介
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